♰「虚報という”腐った食べ物”を売ることに耽らず、謙虚で自由なジャーナリズムを」

(2019.5.18 VaticanNews  Robin Gomes)

 教皇フランシスコは18日、バチカンの外国人記者クラブで約400人の各国特派員記者たちを前に講演し、謙虚で自由なジャーナリズムの必要性を強く訴え、「虚報という”腐った食べ物”を売ることに耽らず、真実と善の健全なパンを提供するジャーナリズム」を育てるように促された。

 そして、次のように述べられた。「ですから、私は皆さんに真実と正義に従って仕事をなさるように、強く求めます。そうすることで、コミュニケ-ションは、『破壊ではなく、建設』の、『ぶつかり合うのではなく、互いが知り合うため』の、『対立ではなく、出会い』の、『独り言ではなく、対話』の、『混乱ではなく、順応』の、『誤解ではなく理解』の、『憎しみの種を撒くのではなく、平和の裡に歩むため』の、『大声を上げる人のための拡声器ではなく、声なき人のための声』を提供するための、道具となるのです」

 教皇は、記者たちが担っている重要な仕事に敬意を表され、その仕事が「真実の探求に貢献し、真実だけが私たちを自由にする」と評価されたうえで、彼らの仕事に求められる要点として、「謙虚であること」を強調され、真実の探求は必然的に多くの困難を伴い、大いに謙虚であることが必要になる、と語られた。

 そして、「すでに分かっていることだ」という思い込みは真実の探求の妨げになる、とされるとともに、「新聞記事、インターネットのツイート、あるいは実況放送は良いことをすることができますが、用心深く、慎重でない場合には、人々に、そして時には社会全体に害悪をもたらす可能性があります」と警告。

 「”金切り声を上げる”見出しをつけるような報道が、現実を誤って伝える可能性」を指摘したうえで、「真実かどうかの検証を十分にしないまま、記事にして報道してしまう誘惑に陥らないように」と強く求め、「報道に謙虚な姿勢をもつジャーナリストは、報道したり、解説したりする前に、事実を誤りなく、完全に把握しようとし… 過剰なスローガンで煽り立てるのでなく、考えを働かせ、そうしたものを取り除きます」と記者の在り方にまで踏み込まれた。

 また、「人々を傷つけ、時には人格を破壊するような暴力的、侮蔑的な言葉が使われるジャーナリズムの現実」を嘆かれ、「多くの敵意のこもった言葉が使われ過ぎている今の世の中では、他人を仕分け、悪口を言うのが多くの人にとって習慣になってしまっているが、そのような中にあって、私たちは、男女に関係なく一人一人がかけがえのない尊厳が備わっていることを常に思い起こさねばなりません」と訴えられた。

 そして、時として、多くの人がフェイク・ニュースを拡散させている場合、「謙虚さは、あなた方が虚報という”腐った食べ物”を売るのを抑え、真実という良いパンを提供するように促すのです」とも述べられた。

 さらに、「報道と表現の自由は、一国の”健康状態”の重要な指標」とすると同時に、戦争や大災害で人々が直面する悲惨な状況を勇気と献身をもって取材、報道する中で命を落とすジャーナリストの苦しみに共感を示されたうえで、「私たちには、犠牲になっている人々-迫害され、社会から排除され、捨てられ、差別される人々ーの側に立って報道するジャーナリストが必要」であり、ジャーナリストには「ロヒンギア(ミャンマー西部のラカイン州に暮らす約100万人のイスラム系少数民族)とヤズディ派(イラク北部などに住むヤズディ教を信じるクルド人)のような迫害と戦乱の中で忘れられている人々に注意を向けさせるような報道姿勢を持つ」ことを希望された。

 一方で教皇は、生れ出る前に息の根を止められる命、飢餓、困窮、育児放棄、戦争で生後間もなく絶たれる命、少年兵や幼児虐待で失われる命があることをを忘れないようにする報道に感謝を述べた。

 また、自分たちの信仰、人種ゆえに迫害され、差別されている人々、暴力と人身売買の犠牲者たちが忘れ去られないように努めている記者たちを思い起こされるとともに、「災害、戦争、テロ、飢餓、干ばつで故郷を去ることを余儀なくされる人々は、(注:統計上の)”数字”ではありません。一人一人に顔があり、物語と幸せへの熱望をもっているのです」として、その実情を報道することの重要性を強調。「知らせる価値のある、私たちの希望を強めるような、表に出ない良いことも多くあります」とし、「人に希望を与えるような生き方の話題に、女性のジャーナリストがとくに敏感です」と女性記者への期待を示された。

 そして、講演の終わりに、ご自身が様々なジャーナリストのグループに語られた話と世界コミュニケーションの日に出されたメッセージを集めた「Communicare il Bene (Communicating the Good)」と題する本を、参加者たちにお贈りになった。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

 

 

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2019年5月19日