・三輪先生の時々の思い ⑮北方領土をロシア領とするプーチンの“奇策”

 プーチンはわが北方領土をロシア領として確保する奇策に出ようとしている。ロシア憲法に「領土割譲禁止条項」を書き込もうとしているのである。

 日露の違いは、日本が「ポツダム宣言を受諾した1945年8月15日をもって太平洋戦争は終結した」とするのに対して、ロシアは「同年9月2日ミズリー号船上にて降伏文書に日本政府が調印したのをもって戦争終結」とする立場だ。

 すなわち、「平時における違法な軍事占領ではなく、戦時中の合法な軍事占領である」とするのである。日本人にとっては「違法」以外の何物でもない立場から惹起しうる損失を防ぐために、「領土割譲禁止」という改憲条項に辿り着いたのだろう。

 もともとロシアという獰猛な巨大国家は、一度手中にした他国の領土を返還するはずがない国柄なのである。日本政府にしても、外務省のロシア通なら、そんなことは先刻重々承知のはずである。それでも元住民の望郷の念を大切に思うためであろう、「あきらめなさい」とは言えなかったのだ。

 元住民の方々にしても、「ロシアが返還する」と本気で期待していたとは、考えづらい。随分と長い間実らぬ夢に期待を託していたことになる。お気の毒に思う。国民の一人として残念至極である。

( 2020. 2. 15記)

(三輪公忠=みわ・きみただ=上智大学名誉教授、元上智大学国際関係研究所長、プリンストン大学・博士)

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