駒野大使の「ペルシャ大詩人のうた」②ペルシャの詩の特徴は三つ

  ペルシャの詩に出会い、学び教えられ、人生の教訓となり、楽しめるようになった経緯を、具体的な詩句を挙げてお話ししたい。
手始めに、ペルシャの詩の特徴を3つ述べておく。①定型であり、②韻を踏むこと、そして、③読み聞きすることで最高に楽しめることである。ペルシャの詩では、いくつかの単語からなる短文(A)と(B)を基本単位として(メスラーウ)、A・B合わせて「ベイト」という。

  「ベイト」2つからなるのが(4つの短文)「ルバイヤート(四行詩)」である。日本語にも翻訳のあるオマル・ハイヤームの「ルバイヤート」がこれだ。
「黒き花の奈落(地球の中心)から、天空の土星まで 世界のすべての問題を解決した 脱することができた 偽りのしがらみ(の世界)から すべての束縛を解き放つことができた 死の束縛を除いて」(ハイヤームの詩)
次に、「ガザル」、これは、5~15くらいの「ベイト」からなる。ハーフェズの詩集はもっぱらこれである。「ルバイヤート」と「ガザル」はともにペルシャ独特の詩形式であり、原則いずれも冒頭のAとB、及び2つ目以下の「ベイト」の後半の短文が、脚韻を踏む。上記のハイヤームの詩は、2つの「ベイト」の前後の短文(メスラーウ)すべてが脚韻を踏み、最後の単語がいずれもl(エル)で終了している(土星のzohal,解決のhall、偽りのheil, 死のajl)。
このほか「ベイト」が限りなく続く物語詩がある。モウラナーの詩集(シャムス・タブリーズィ詩集)は、36000の「ベイト」からなる。同じ「ベイト」のメスラーウAとBが脚韻を踏む。韻を踏み、定型のペルシャ詩の伝統は、現代のイラン人にとってもなじみが深く、その結果、日本の俳句がイラン人に自然に受け入れられる素地となっている。
ハーフェズの詩集を講義してくれたジャラーリ先生が、諳んじた詩句を、詩集の中にすぐさま見つけ出すのに、最初は、なんとすごい記憶力であろうと驚かされた。先生と使用したハーフェズ詩集には、500以上のガザルが掲載されている。良く知られたたくさんの詩句があるが、詩集のどこにあるのかまでは簡単に分からないと思っていた。

  しばらくして事情がのみ込めた。脚韻である。例えば、前回紹介したヘーフェズの次の句、「長い間こころは 世界を見透かす杯を 我々に求めた(A) 自ら持てるものを よそ者に求めた(B) もの皆が生み出される根源の宝を 海の道にさまよった者に求めた(C)」
この詩句が詩集のどこにあるのか。最初の「ベイト」のAとB、および次の「ベイト」の後半のメスラーウ(C)の脚韻を見ればよいのである。いずれもkyard(求め「た」)である。ハーフェズ詩集の500以上のガザルは、脚韻に従って、ペルシャ語のアルファベット順に整理し配置してあるから、脚韻に注目することで、どの順番に詩が配置されているのかわかるのだ。

駒野欽一(国際大学特任教授、元イラン大使)

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