カンボジアの首都プノンペン郊外のステンミエンチャイ地区には街中のゴミが集められ、捨てられてできた巨大なゴミ山がありました。そのゴミの中から有価物を収拾し現金化して生活している人々の集落があり、私たちJLMMもその村人たちと20年ほど関わりを続けています。
集落には簡素な掘っ立て小屋のような家屋がひしめき合っています。電気・水道・ガスもなく、カンボジアの平均的な水準からみても衛生的にかなり劣悪な環境です。特に雨期になると足元が泥とゴミでぬかるんでいて、歩いて通るのも一苦労です。
この集落の突き当りに、これまた簡素なトイレがあるのですが、それはここの住民にとって自慢のトイレです。
もともとこの集落にはトイレというものは存在しませんでした。どこか近くの野原のような空き地で用を足すのが一般的な生活です。そのような環境の中で、集落に共同のトイレがあり、利用されているということは大変珍しく、また嬉しい光景です。
トイレの設置と利用は、トイレがない地域の住民にとってはとても難しいことなのです。東ティモールのケースですが、10年ほど前に村落をまわり、トイレの設置や利用状況について調査したことがあります。そこで見て驚いたのは、国連機関や大手のNGOが設置したトイレのほとんど、おそらく7割以上が全く使用されていなかったことでした。トイレを見せてもらうと、鳥小屋になっていたり、農機具の倉庫となっていたり、ゴミ捨て場として使われていました。誰かがカギをかけて自由に使えなくなっているトイレもありました。
要するに、「トイレが必要だ」と思っているのは支援する団体側のみであり、住民はその必要性を全く感じていないということなのです。理屈では理解できるし、タダで作ってもらえるなら作っても良いよ、という程度のモチベーションなので、使わないし、故障しても誰も修理しようとは思いません。東ティモールでは、その後6カ月間毎日スタッフが村に通い、トイレの必要性を住民が実感するのを促し、住民自身の手によってトイレを設置するのをサポートするというプロジェクト(CLTS=「コミュニティ主導による全村的衛生普及活動」)を始め、いまも住民たちはトイレを大切に使用しています。
カンボジア・ステンミエンチャイの集落のこのトイレも、住民同士で話し合い、お金を出し合って共同で管理しています。住民自身が、自分たちの生活のため、つまり病気を予防し衛生的な環境の中で健康で安全な生活をおくるために、自分たちで決め、自分たちのチカラで暮らしをより良く変えていくということが大切なのだと思います。私たちはそのためのお手伝いができればと思います。
(2017年3月25日)
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