・三輪先生の年頭所感

*年頭妄語戒

 旧約聖書のシラ書に言う。「子よ、年老いた父親の面倒を見よ。生きている間、彼を悲しませてはならない。自分が活力にあふれているからといって、彼を軽蔑してはならない」。

 90歳を目前にした今、私が切実に感じていることが、そのまま表現されている。素晴らしい聖典である。なんと人間臭いことか。なんと現代的な訓戒であることか。ユダヤ人の智慧者の気遣いの深遠さよ、温かさよ。

 紀元前3世紀に東アジアの賢人荀子は言った。「美意延年」-心楽しめば長生きする、と。此処の「美」は、「楽しむ」の意味らしいが、「日ごろ美しきものを愛でて暮らす人は長生きする」と読み込んでみたい。

 「至福奉仕」のキリスト教的訓えに対して、古典ギリシャは「至福観賞」の世界、と旧制高校の倫理学教師に聴いた覚えがある。このいわば二刀流を人生を開くよすがとすれば、見場もいい青年紳士道になるのだろうが、青年の多くは、知らず知らず、「至福観賞」に偏るのだろうか。

 

*・・・そして、日米関係の今への懸念

 昭和16年12月8日、日本時間で「未明」、大日本帝国崩壊への第一歩が軍艦マーチと共に踏み出された。アメリカ大統領が歴史に残る“破廉恥なinfamy”と命名した真珠湾攻撃の大戦果に日本国民は前後を忘れて沸き返った。それが平成30年のこの記念日は、何事もなく「普通」の日として明けそして暮れた。

 これで良かったのだろうか。日本国民にとって、そしてトランプ大統領のアメリカにとって。

 前大統領オバマさんは広島の原爆記念施設を訪れたし、安倍総理も真珠湾で海底に眠る撃沈された米軍艦に向けて慰霊謝罪の意を込めた花輪をを献じたし…。強固な日米同盟の現状を映していた。中国の南シナ海における覇権に対する日米の西太平洋=インド洋のオープン・シー堅持の明確な意思表示であった。これでバランスオブパワーによる現状安定が構築されたわけだろうに。

(2019年1月1日記す)

(三輪公忠=みわ・きみただ=上智大学名誉教授、元上智大学国際関係研究所長)

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2018年12月31日