・菊地大司教の日記 ㊹海外にいる間に…ひたすら悲しい‥ローマで国際カリタス総会

海外にいる間に    2019 年6月1日

   国際カリタスの総会のためローマにいる間に、日本では生命に関わる悲しい事件が発生していました。

   28日の朝、登校するためにスクールバスを待っていた川崎市のカリタス小学校の子どもたちが刃物を持った大人に襲われ、6年生の女の子お1人と、保護者の男性お1人が命を奪われ、17名が傷を負われた、と聞きました。

 大切な存在を突然暴力的に奪われた方々。その心の悲しみに対しては、どんな言葉も足りないのだと思います。心からお悔やみ申し上げるとともに、わたしも言葉にならないくらいに悲しいことだけをお伝えします。亡くなられた方々の永遠の安息をお祈りするとともに、傷を負われた子どもたちの一日も早い回復をお祈りします。

 カリタス小学校に通われている多くの子どもたち、その家族、そして教職員。多くの方が心におわれた悲しみ、恐れ、怒りなどを思うとき、犯行に及んだ人物の凄まじい暴力の負の力に、わたし自身の心をつぶされそうに感じます。

 どんな理由があっても、神が与えられ愛される人間のいのちを、暴力的に奪い取ることは許されません。ましてや、人から生きるための希望を暴力的に奪うような暴虐も、許されてはなりません。

 これからしばらくの間は、犯行に及んだ人物の背景などが報道されることでしょう。確かに背後には社会的な要因も指摘されることでしょうし、そういった社会的要因の解消に取り組むことも避けてはならないでしょう。

 しかし、何にもまして、わたしは「この社会にあって、人間の生命を大切にすることは人間の務めだ」という価値観が、普遍的な価値観でなければならないことを、主張し続けたいと思います。「生命における希望を奪い取ることは、許されないのだ」と言うことを、主張し続けたいと思います。

 カリタス小学校の皆さんに、そして関係する多くの方々に、生命の創造主である神様の慈しみと力に満ちた守りがあるように、心から祈ります。ただただ、悲しいです。

第21回国際カリタス総会@ローマ  5月23日~28日

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 国際カリタスは160以上の国と地域にある、それぞれの司教協議会などに認められたカリタス組織による連盟ですが、同時に教会の愛の活動の組織として、教会法上の法人格も与えられており、その本部はバチカンに置かれています。

 全体の活動方針を定めたり、総裁や事務局長、また理事会に当たる地域代表会議のメンバー選出などのため、4年に一度、総会が開催されています。

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 去る5月23日から28日まで、ローマ市内のコンファレンスセンターを会場に、21回目の総会が開催され、450名以上が世界中から参集しました。日本からは、国際カリタスの連盟のメンバーであるカリタスジャパンから委員会の秘書と事務長の3名が参加しました。

 国際カリタスは世界を7の地域に分けており、わたしはその一つであるカリタスアジアの総裁の立場で、カリタスアジア事務局長とともに参加してきました。(写真は、会場外に設けられた各地域のブースで作業をするカリタスアジアの代表たち)

 国際カリタスの役職は4年が一期で、2期8年までとされています。わたしは2011年の総会でアジアの総裁に選ばれ、2015年に再選されていたので、今回が8年目で最後の総会となりました。1999年の総会以来、様々な立場で国際カリタスの総会に参加してきましたので、今回が5回目の総会参加となりました。

 なお今回の総会の間にアジア地域の会議が行われ、その場で、新しい総裁に選ばれたバングラデシュのベネディクト・アロ氏にバタンタッチをいたしました。またカリタスアジアの理事会である地域会議へは、東アジアから韓国、東南アジアからフィリピン、南アジアからネパール、そして中央アジアからモンゴルが選出され、そのうちのフィリピンと韓国が国際カリタスの地域代表会議に参加することになりました。

 国際カリタスの総裁は、マニラのタグレ枢機卿が4年の一期目を終わったところでしたから、ほかに対立候補もおらず、あと4年間の再選となりました。またわたしと同じく8年の任期を終えたミシェル・ロワ事務局長の後任には、彼と同じくカリタスフランス出身で、これまで国際カリタス事務局で働いていたアロイシウス・ジョン氏が選出されました。アロイジウス氏は、もともとインド出身で、アジアのカリタス組織とも長年の連携がある人物です。

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 また総会開始に先立って、23日の午後には、聖ペトロ大聖堂で教皇様司式の開会ミサが行われ、さらには、27日の月曜日午前中に、会議参加者全員との特別謁見も行われました。この謁見で教皇様は、なんと450人以上の参加者全員と握手をされました。

 謁見が終わって退出される際には、一番前の席に座っていたわたしの方に近づいてこられ、「次は東京で会いましょう」と声をかけていただきました。(写真は、教皇様に挨拶するカリタスジャパンの田所事務長)

 今回の総会のテーマは「One Human Family, One Common Home」とされていました。「One Human Family」は、このところの国際カリタスの継続したテーマで、「わたしたちは一つの人類家族」というような意味。「One Common Home」は、教皇様のラウダート・シによっていて、「共通の一つの家」というような意味です。

 総会の中では、これまで国際カリタスが4年間取り組んできた活動計画を、さらに充実させて4年間継続するような内容の、活動の全体枠が採択されたり、それに掲げられた優先事項への具体的な取り組みについての、小グループでの話し合いも行われました。

 ビジネスだけではなくて、会場のホテルには聖堂も設けられ、毎日朝7時からテゼ共同体のブラザーによる朝の祈りではじまり、会議前の朝8時半からは、タグレ枢機卿による30分の霊的講話。夕方6時半からはミサ。さらに夜9時からは、再びテゼ共同体のブラザーによる晩の祈りも行われ、カトリック教会の援助支援団体としての性格を明確にしました。

 なお今回の総会で、アジアのカリタスから推薦していた、キルギスのカリタスと、シンガポールの二つ目のカリタスであるCharisの二つが、メンバーとして認められました。シンガポールは、国内の事情で、国内の活動に取り組むカリタスシンガポールと、海外の活動に取り組むCharisの二つがあり、これまではカリタスシンガポールだけが国際カリタスのメンバーでした。ただし一つの国に複数のメンバーがいても、投票の権利は一つの国、または地域で、一票だけとなっています。

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 会議初日には、国連のグティエレス事務総長からのビデオメッセージがあったり、国連食糧農業機関(FAO) 事務局長ジョゼ・グラチアノ・ダ・シルバ氏の講演があったりと、国際社会からのカリタスへの期待を感じさせるものがありました。

 また教皇様は、ミサの説教でも謁見でも、完璧なプログラムではなくて人が大切であることを強調され、「耳を傾ける謙遜」「様々なカリスマの集まり」「捨てることの勇気」の3つをもった主にしたがって歩む教会で会ってほしい、と述べられました。

 また、聖座の総合的人間開発促進の部署(タクソン枢機卿担当)が国際カリタスを担当するが、それは国際カリタスのが役所の下にあるのではなくて、ともに歩んでいくためだとも強調され、教会の愛の奉仕の業の手段としてふさわしく機能してほしいと期待を述べられました。

 なお、わたしは、カリタスアジアとそれに伴う国際カリタスの役職は終わりましたが、カリタスジャパンの責任者は継続していますので、まだしばらくは、カリタスのことに関わり続けます。(写真上。カリタスアジアの総裁を引き継がれたベネディクト・アロ氏と私)

 

(菊地功=きくち・いさお=東京大司教)(「司教の日記」よりご本人の了解を得て転載)

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2019年6月2日