・三輪先生の時々の想い ④フランスの経験に学べ-無防備な”隣人愛”の日本を憂う

 外国人のご意見番として知る人ぞ知る高名なフランス人歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏は「問題の所在が明らかになっているのに、日本政府は明確な対応策を確立していない」と警鐘を鳴らしている。少子化に対して具体策は示さずに、人手不足を補う策を労動力たりうる人材の受け入れだけを示しているに過ぎない。

 そうしてようやく、外国人受け入れに舵を切ったかに見える政府だが、変な”人類愛”だか”隣人愛”だか、はたまた変な”平等主義”だか知らないが、選別の目安さえ明確に認識している様子が無い。トッド氏は、その事に警告を発している。

 フランスでは、多文化主義的に移民を受け入れたが、イスラム系移民の同化が進まず問題が多発し、「いずれフランス語を話し、フランス国民になる」との期待が報いられなかった。「フランスの轍を踏むな」「多文化主義だ」などと書生っぽいユーピア思想に酔ったりしていたら、とてつもない”禍根”を残す事になるーとも、彼は指摘する。

 ”禍根”の恐れの最たるものは、中国と中国人。人口十数億を擁する巨大な隣国である。ひとたび移動が始まれば、やがて巨大な流れに発展して止まるところを知らぬだろう。独裁国家中国から来る中国人はそれぞれ国家的使命を託されている、と見るべきである。隣人として無防備な友好関係を築くと危険である。

 ところがそんな潜在的な危険因子に気付いていないのか、あるいは気付いているが日中友好の看板のためなのか、日本のメディアは民間の日中交流を高く評価するニュースを採り上げたがっているように見える。トッド氏の警鐘には、ほうっかむりを決め込んでいるようだ。

 例えば『日経』の特集記事「令和に生きる」2(2019年5月22日付け)の紙面である。「外国人と共に暮らす 店主や住民深まる交流」と大小の見出しのもとに、次のように報告する。

 「かつて違法な性風俗店が乱立していたJR西川口駅(埼玉県川口市)前の繁華街。2006年ごろの摘発強化で空いた物件に中国人が相次いで飲食店を出し、中国語の看板が並ぶリトル・チャイナに生まれ変わった」

 経済的ばかりでなく、軍事的にもアメリカ合衆国と、つばぜり合いを始めてしまっている超大国、巨大な独裁国家の”人民”としてやって来た在日中国人。彼らに何の疑心も抱かず、彼らの愛国心が時としてわが日本国の国益と両立しえない方向に向かうかも知れないことに、全く気配りもせず、「友情の花を咲かせた」と自己満足に陥ってしまったかのような言いようだ。

 こんな無防備な”隣人愛”と”国際親善感覚”でいいものだろうか。(2019・5・27記)

(三輪公忠=みわ・きみただ=上智大学名誉教授・元同大学国際関係研究所長)

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2019年5月31日