・中国当局”暫定合意”後に「地下教会」へ規制強化-不服従の司祭を”学習組”に

 

Detained Chinese priests subjected to 'brainwashing'

Father Zhang Guilin (left) and Father Wang Zhong of Xiwanzi Diocese were taken away by the government on Oct. 11 to study religious policy and are still under detention. (Photo spplied=ucanews.com)

(2018.11.28 「カトリック・あい」)

 バチカンが中国政府(外務省)と中国国内の司教選任について暫定合意し、世界中に大きな反響を呼んで2か月が経ったが、まだその正式な内容は公表されず、「暫定合意」から「最終合意」に至る展望も見えていない。

 そうした中で、カトリック教会の活動を巡って現在、中国国内で起きている全容を知ることは、その国土の広さ、宗教活動関係の厳しい報道管制などから困難であり、地域による違いもあると思われるが、一つの方向は見えてきたようである。

 バンコクに拠点を置き、中国情報に詳しいカトリック系の有力インターネット・メディア、UCANEWSによると、それは、教皇がこれまで認めていなかった中国政府・共産党選任の司教たちを承認したのを契機とした、国内の宗教活動の監督・統制を担当する中国共産党中央統一戦線工作部と地方政府の宗教監督局による、教皇に忠誠を誓い、中国政府・共産党の監督・統制を拒否する「地下教会」の司教、司祭、信徒への締め付けを強化し、監督・統制のもとにある「中国天主教愛国会」(CCPA)に統合を強制しようとする動きだ。

 UCANEWSが11月21日付け(2018.11.21 ucanews.com  Joseph Chan)などで伝えるところによれば、暫定合意以後、中央統一戦線工作部と地方の担当局は、地下教会の聖職者たちを、”宗教学習組”に参加を強制する、という新たな規制強化の動きに出ている。参加を強制され、”思想改造”を受けたばかりの、ある司祭によると、聖職者は教会の”独立””自主””自己管理”の原則に同意し、「中国天主教愛国会」(CCPA)の指導を受けねばならない。また、当局は地下教会の司祭たちが中国政府が認めた”公認司教”たちとともにミサを司式し、写真をとることを強要している、という。

 このような地下教会に対する新規の締め付けは、カトリック信徒が100万人いるといわれる河北省で特に厳しいと言われ、UCANEWSによると、同省では10月の宣化教区の二つの集会所の強制閉鎖に加えて、張家口で4人の司祭が政府当局によって連れ去られ、”学習組”への参加を強制された。司祭の内の1人Zhang Guilin(張桂林)神父は、約4000人の信徒を抱える西灣子教区で奉仕し、新たな教会をいくつも開いて、人々を読み書きなど文化、信仰両面にわたって助けていたが、「中国天主教愛国会」に加盟せず、当局に登録していなかった。2007年に当局から3年の”労働改造”に回され、2010年に出所して教区に復帰していたが、固原で十年以上、困難な環境の中で奉仕してきたWang Zhong(王鐘)神父ともども、10月11日に当局によって連行された。

 統一戦線工作部は、彼らは張家口市に、宗教政策の学習に、5,6日の予定で出かけた、としていたが、実際には、彼らは最初、張家口のある場所に連れていかれ、”洗脳”教育を受け、さらに河北省の三つの町を連れまわされた後、北京に送られた。彼らはそこで、「愛国会」の別々の司教に会わされ、「教会の独立、自主、自己管理の原則」を受け入れ、司祭証明を申請し、地下教会から「愛国会」の教会に転向するよう、説得された。それに従わない限り、政府から合法と認められ、司祭として認知されない、と言い渡された、という。

 だが彼らは、いかなる妥協もせず、2007年に当時の教皇ベネディクト16世が中国の信徒たちに宛てた書簡で示した原則-「愛国会」はカトリック教会の教えにそぐわない、という原則-を守った。

 当局は6日目の夜に、司祭たちを教区に返す、と約束したが、返すどころか、張神父は他の場所に連れていかれ、王神父もいったん固原に戻された後、ふたたび連れ去られた、という。張神父の80歳になる母親は心痛で血圧が危険なまでに高まり、家族が統一戦線工作部の地方支部に出かけて、張神父の安否と解放時期を訪ねたが、「5日経てば帰る」と言われたものの、そうはなっていない。

 神父たちの教区の信徒たちは早期帰還を願う祈りを昼夜を分かたず続けていたが、11月3日になって、河北省政府の幹部が虫利教会を訪れ、「バチカンとの合意文書署名によって、『愛国会』に入らないことを認められた、と考えるな。加入を拒否することは、(宗教活動が)合法と認められず、禁止されることを意味するのだ」と言明した、という。

【カトリック・あい論評】

 「暫定合意」はバチカン国務省の順列3位以下の担当者と、中国外務省のやはり順列3位以下の担当者が署名したものだ。中国の場合、宗教活動の監督・統制の権限は今春、政府の宗教監督局から共産党中央の統一戦線工作部に移され、従来以上に統制が厳しくなっているが、外務省の意向が同部と十分に調整されたうえで決められているとは思われない。

 バチカンが暫定合意書に、具体的にどのような意向を盛り込むことができたのか、いまだに不明だが、暫定合意とは別の次元で、統一選工作部が動いている、ということは容易に推測される。バチカンが、中国側がこのような動きに出ることを知って、暫定合意書に署名したとすれば、香港の陳枢機卿がニューヨークタイムズ紙とのインタビューで言明しているように、教皇に忠誠を誓い苦難の中で信仰を育てて来た「地下教会」を見捨てた、と見られても仕方がないだろう。

 そうでないことを祈るとともに、「地下教会」を含めた中国の信徒たちの信仰の自由を確保する中国政府・共産党の確約を含めた「最終合意」にバチカンが全力を挙げることを願いたい。

 

 

 

 

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2018年11月28日