・日本商工会議所・東京商工会議所が「女性の活躍推進に向けた意見」発表

「女性の活躍推進に向けた意見」~女性のさらなる労働参画と活躍推進に向けた環境整備について~

 (参考)日本・東京商工会議所(三村明夫会頭)は、標記意見を策定いたしました。

 深刻な人手不足を背景に多様な人材の活躍が期待されている中で、女性の労働参画は着実に進みつつありますが、女性の非労働力人口のうち就業希望者(在学中を除く)は231万人いることから、さらなる労働参画が期待されています。しかし、仕事と育児の両立の難しさから、妊娠・出産を機に退職する女性が少なくないのが現状であり、日本商工会議所の調査では、8割の企業が女性の活躍推進に取り組んでいるものの、そのうち6割の企業が様々な課題を抱えています。
こうした現状に対し、女性の活躍推進は、女性ならではの発想や視点に基づくイノベーションの創出や企業価値・業績の向上を通じて、わが国経済・社会の成長・発展に寄与することから、下記の通り、本意見書を取り纏めました。なお、本意見書は、内閣府(男女共同参画局、子ども・子育て本部等)、厚生労働省など関係省庁へ提出いたします。

国に対する重点要望事項
(1)待機児童解消に向けた取組の推進
①「子育て安心プラン」に基づき待機児童を早期に解消し、保育人材の確保にも取り組むこと
② 待機児童解消には必要な受け皿整備量の把握が不可欠であるため、その精査を図るとともに、保育ニーズの実態をより詳細に把握すること
③ 中小企業に対する企業主導型保育事業の制度概要や好事例等の周知、設置を検討している中小企業同士や中小企業と保育所の運営を担う保育事業者とのマッチングに取り組むこと。事業主拠出金の運用規律を徹底し、料率は出来る限り引き上げないこと など
(2)放課後児童クラブの拡充
①「放課後子ども総合プラン」に基づき、約30万人分の新たな受け皿を着実に整備すること
② 整備すべき受け皿量の精査と、新たな「放課後子ども総合プラン」を策定すること
③ 放課後児童クラブの開所時間の延長を図ること
(3)女性活躍推進法の周知とインセンティブの拡充
○ 中小企業に対する周知と一般事業主行動計画策定に係るインセンティブを拡充すること

国の施策に対する要望事項
(1)認可保育所の入所承諾時期の前倒し
(2)保育所の空き状況等を検索できるポータルサイトの構築
(3)病児保育事業の拡充、利便性向上
(4)認可保育所の入所に係る書式の統一
(5)保育現場の業務負担の軽減に向けたICT化の推進
(6)保護者によるボランティア活動の参加促進
(7)マザーズハローワーク事業の拡充
(8)リカレント教育など女性の学び直しに関する支援の拡充
(9)女性活躍等好事例の周知、横展開
(10)「くるみん」認定(次世代育成支援対策推進法に基づく認定)の周知とインセンティブの拡充
(11)「介護離職ゼロ」に向けた取組の推進
(12)女性の活躍推進・子育て世代の支援に向けた制度の見直し

民間が主体となり国と連携して取り組んでいくべき事項
(1)長時間労働の是正
(2)ワーク・ライフ・バランスの推進
(3)テレワークの推進
(4)建設業や運輸業における女性活躍の取組の推進
(5)女性の活躍推進に向けた職場風土の醸成
(6)女性の登用促進
(7)配偶者手当の支給
(8)男性の家事・育児への参画促進
(9)ハラスメントの防止

以下、意見書本文

 女性の活躍推進に向けた意見~女性のさらなる労働参画と活躍推進に向けた環境整備について~ 2018年3月29日
日本商工会議 所 東京商工会議所
1.現状認識
わが国は少子高齢化により人口減少社会に突入しており、総人口は2053年に1億人、生産年齢人口は2056年に5千万人をそれぞれ下回ると予想されている。また、日本商工会議所が実施した「人手不足等への対応に関する調査」では、「人手不足」と回答した割合が3年連続で上昇し、直近の調査では6割に達するなど、人口減少による人手不足問題はかつてないほどの危機に直面し、今後さらに深刻さが増していくと予想されている。特に地方では人手不足が顕著であり、対応が急務である。

そうした中、女性をはじめとした多様な人材の活躍が期待されている。女性の就業率(25歳~44歳)は、1987年から2017年までの30年間に57.8%から74.4%と16.6ポイント上昇し、とりわけ近年の上昇率は顕著である。これに伴い、М字カーブの底は大幅に上昇し窪みが浅くなるとともに、全体的に上方へ大きくシフトしている。このように女性の労働参画は着実に進みつつあるが、女性の非労働力人口2,803万人(2017年)のうち就業希望者(在学中を除く)は231万人いることから、さらなる労働参画が期待される。

一方、仕事と育児との両立の難しさ等から、妊娠・出産を機に退職する女性は少なくない。政府は女性活躍推進法を2016年4月に全面施行し、大企業等に一般事業主行動計画の策定・届出・周知・公表および女性の活躍に関する情報公表を義務付けたが、日本商工会議所が実施した調査(※―1)では8割の企業が女性の活躍を推進している一方で、そのうち6割の企業が様々な課題を抱えていることから、促進すべき取組は多い。

特に、保育の受け皿整備について、政府は2017年6月に「子育て安心プラン」を公表したが、女性の就業率と保育利用率は年々上昇し想定を上回る保育ニーズが顕在化したことで、保育の受け皿量が拡大しているにも関わらず待機児童数は増加傾向にあることから、女性の活躍推進に向け、待機児童対策は喫緊の課題である。

女性の活躍推進に向けた環境を整備し、多くの企業が自社の実情に応じて社内体制を構築していくことは、女性が持てる能力を最大限に発揮することにつながり、ひいては女性ならではの発想や視点に基づくイノベーションの創出や企業価値・業績の向上を通じて、わが国経済・社会の成長・発展に寄与することから、国に対する要望事項をはじめ商工会議所の意見を下記により申し上げる。

2.国に対する重点要望事項
(1)待機児童解消に向けた取組の推進

①「子育て安心プラン」に基づく受け皿の整備、保育人材の確保

政府は「待機児童解消加速化プラン」において、2013年度から2017年度末までの5年間で新たに50万人分の保育の受け皿を確保し、待機児童を解消することを公表した。同プランに基づき、補助等を通じて地方自治体の保育所開設を促し、処遇改善等により保育士の確保を図るとともに、2016年度から企業主導型保育事業も導入したことで、2013年度から2017年度までの5年間で新たに約59.3万人分の保育の受け皿を確保する見込みである。

しかし、保育の受け皿量は拡大しているにも関わらず、保育所等が設置されている地域や預ける児童の年齢面でのミスマッチ、また保護者の潜在ニーズの顕在化など想定を上回る保育ニーズにより待機児童は解消されず、2014年から2017年にかけて3年連続で待機児童数は増加し、2017年4月時点での全国の待機児童数は約2万6千人に達し
ている。

こうした状況を踏まえ、政府は2017年6月に「子育て安心プラン」を策定し、待機児童解消に必要な受け皿約22万人分の予算を2018年度から2019年度末までの2年間で確保し、遅くとも2020年度末までの3年間で全国の待機児童を解消することや、М字カーブを解消するために2018年度から2022年度末までの5年間で女性就業率80%に対応できる約32万人分の受け皿を整備していくことを公表した。その後、2017年12月に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」において、「子育て安心プラン」を前倒しし、2020年度末までに32万人分の受け皿を整備していくことが表明された。

日本商工会議所・女性等活躍推進専門委員会、東京商工会議所・多様な人材活躍委員会のもとに設置した「働く女性のための検討会」では、本意見の策定にあたり企業の第一線で働く女性がメンバーとなり、女性活躍推進に関する討議を行ってきた。この討議では、出産後も就業を継続していくには「保育所・学童保育の受け皿整備が最も重要」であるとの意見が多く、商工会議所としても待機児童の解消は喫緊の課題と考えている。

従って、この「子育て安心プラン」に基づく施策により待機児童を早期に解消するとともに、女性就業率80%に対応できる32万人分の受け皿を目標とする2020年度末までに着実に整備すべきである。

また、地方自治体が保育所を整備する際の課題として「保育士の確保」を最も多く挙げている調査結果もあることから、処遇改善等を通じて、保育の受け皿拡大を支える人材確保にも鋭意取り組んでいく必要がある。

加えて、幼稚園は定員に余裕があることから、「子育て安心プラン」に基づき、幼稚園から認定こども園への移行促進や一時預かり事業(幼稚園型)を活用した2歳児の受け入れ推進など、幼稚園における2歳児の受け入れや預かり保育の推進に取り組んでいくことや、後述の通り保護者のニーズに基づき病児・病後児保育事業を拡充していくことも重要である。

②整備すべき受け皿量の精査

上記の通り、政府は「子育て安心プラン」、「新しい経済政策パッケージ」に基づき2020年度末までに32万人分の受け皿を整備していくことにしているが、追加で整備が必要な保育の受け皿は32万人分を大きく上回る89万人分であるとの民間試算がある。必要な受け皿整備量は待機児童解消の根幹に関わる極めて重要な要素であることから、精査すべきである。

また、2017年度末までは地方自治体によって待機児童数に含めるかどうかの判断が分かれていた「保護者が育児休業中で復職の意思がある者」や、入園申込み自体を断念している保護者が少なくないため、いわゆる「隠れ待機児童」が多く存在しているとの指摘もある。従って、2018年度から全面適用される待機児童の新定義(※―2)等に基づき保育ニーズの実態をより詳細に把握するとともに、保育所等が設置されている地域や預ける児童の年齢面でのミスマッチの解消に努めるべきである。

③企業主導型保育事業の周知、マッチングの実施

企業側の関心も高く保育の受け皿拡大に寄与している企業主導型保育事業は、設置主体の6割が中小企業であり、共同設置・共同利用が4割を占めている。しかし、制度の認知が進んでいないとの指摘があることから、中小企業がより利用しやすくなるよう、助成内容等の制度概要や企業主導型保育所の設置に係る好事例の周知はもとより、設置を検討している中小企業同士、さらには中小企業と保育所の運営を担う保育事業者とのマッチングに取り組まれたい。

子育て支援のための費用は、社会全体で子育てを支えるとともに安定的に財源を確保するために、日本・東京商工会議所はかねてから税による恒久財源で賄うべきと主張してきた。保育の受け皿の追加整備には多額の費用を要するが、受け皿整備によって増える女性等新たな就業者の所得拡大効果、それに伴う税収増が確実に見込まれることから、社会保障給付の重点化・効率化により生まれる財源も合わせ、政府は子育て支援のための施策に予算を重点的に配分すべきである。

また、多くの中小企業が人手不足による防衛的な賃上げや最低賃金引き上げへの対応、社会保険料の負担増等への対応を迫られている中で、企業主導型保育事業の財源である事業主拠出金は赤字企業も含め全ての企業を対象に厚生年金とともに徴収されており、料率の引き上げが続いていることから、企業にとって負担感が増している。改正子ども・子育て支援法により、事業主拠出金の法定上限率が0.25%から0.45%に、2018年度の料率は0.29%に引き上げられる見込みだが、事業主拠出金の6割弱は中小企業が負担していることから、毎年の料率は中小企業の支払余力に基づき慎重に審議するとともに、安易に使途を拡大することなく運用規律を徹底することで、料率はできる限り引き上げるべきではない。また、待機児童解消への貢献度など企業主導型保育事業の効果をしっかりと検証していくとともに、今後想定される料率を含め中長期の事業計画を明らかにすることが必要である。

なお、企業主導型保育所の設置場所と待機児童が多く存在する地域にギャップが生じていることに加え、特に都市部については一般の保育所と同様に、高い地代が運営の障害となっていることも想定されることから、企業主導型保育事業の運用にあたっては地方自治体と十分に連携していくことが求められる。

④都市部における取組の加速

都市部では、マンション建設や大規模開発等に伴う就学前人口の増加や共働き世帯の増加、保育所等の開設に適した土地・物件等の確保が困難なことによる受け皿整備の遅れなど、都市部特有の事情により受け皿量が不足していることから、全国の待機児童数の7割超は都市部が占めている。都市部など待機児童数が高止まりしている地域では、こうした都市部特有の事情を踏まえ、国有地や都市公園、鉄道関連施設の活用、大規模マンション等への設置、保育コンシェルジュの設置促進による相談・情報提供に係る体制の強化など、待機児童解消に向けた多様な取組を加速していくことが求められる。

⑤「待機児童緊急対策地域」制度の積極的な運用

保育の実施主体である市区町村単独での取組に加え、都道府県による広域的な待機児童対策を促すために、待機児童数が一定の基準を超え、その解消に意欲のある都道府県が手を挙げた場合、国が「待機児童緊急対策地域」に指定し、指定された地域内の待機児童解消への支援策を強化していくことが盛り込まれた「規制改革推進に関する第2次答申」が2017年11月に策定され、根拠法となる改正子ども・子育て支援法が審議されているところである。

この措置により、都道府県、関係市区町村、保育事業者、有識者等が参加する「待機児童対策協議会」が設置され、保育に関わる情報の共有化や、区境をまたぐ広域的な保育所の利用、市区町村間で異なる申込みに係るシステムや様式、利用調整に係る点数付けの基準、保育料等に関する調整、国が定める人員配置基準や面積基準を上回る地方自治体独自の上乗せ基準の見直し、多様な主体による保育所の参入、待機児童数の算出の適正化、保育の受け皿拡大を支える人材確保が促進されることから、待機児童数が高止まりしている地域を抱える都道府県へ積極的に働きかけ「待機児童緊急対策地域」に指定していくことで、所要の施策を強力に推進していくことが期待される。

(2)放課後児童クラブの拡充

①「放課後子ども総合プラン」に基づく受け皿の整備

小学校の余裕教室や児童館などで、共働き家庭等の小学生に放課後等の適切な遊びや生活の場を提供する放課後児童クラブは、保育施設と同様に女性活躍推進のための重要な基盤である。しかし、待機児童数は2011年以降増加傾向にあり、2017年5月時点での全国の待機児童数は約1万7千人に達していることから、「小1の壁」と言われてる。政府が2014年7月に公表した「放課後子ども総合プラン」に基づき、2019年度末までに放課後児童クラブの約30万人分の新たな受け皿を着実に整備していくべきである。

②整備すべき受け皿量の精査、新たな「放課後子ども総合プラン」の策定

女性の就業率と保育利用率は年々増加傾向にあり、「子育て安心プラン」に基づき保育の受け皿がさらに整備されることから、今後、放課後児童クラブに対する需要もそれらと連動してさらに増えていくものと思われる。従って、必要な受け皿整備量を精査するとともに、新たな「放課後子ども総合プラン」を「子育て安心プラン」と連動した形で早急に策定し、新プランに基づいて放課後児童クラブのさらなる受け皿拡大を着実に進めていく必要がある。

③開所時間の延長

放課後児童クラブの終了時間は、18時半を超えて開所しているクラブが55%を占め増加傾向にあるものの、18時半までに終了する放課後児童クラブが未だに多く、就業継続の妨げや労働時間の制約要因になっているとの声があることから、開所時間の延長に取り組んでいく必要がある。また、民間事業者が、柔軟な開所日の設定や行き帰りの送迎、食事の提供、習い事などを実施しているケースもあるが、保護者の多様なニーズに対応すべく、こうした取組を後押ししていくことが望ましい。

(3)女性活躍推進法の周知とインセンティブの拡充

①一般事業主行動計画について

政府は女性活躍推進法(10年間の時限立法)により、常時雇用する労働者数が301人以上の大企業等を対象に、2016年4月から女性活躍推進のための一般事業主行動計画の策定・都道府県労働局への届出・公表等を義務付けている。厚生労働省によると、常時雇用する労働者数が301人以上の大企業等における一般事業主行動計画の届出数は2017年12月末日現在で16,071社、届出率は99.7%であり、策定・届出・公表が義務付けられた企業のほぼ全てが既に対応している。

これに対して、常時雇用する労働者数が300人以下の中小企業等は一般事業主行動計画の策定・届出・公表等が努力義務となっているが、届出数は上記期日時点で3,866社にとどまっていることから、女性のさらなる活躍推進には企業数の大宗を占める中小企業が自発的に一般事業主行動計画の策定・届出・公表に取り組むなど対応を進めていくことが期待される。

そのためには、計画を策定することの効果や、女性の活躍に向けた取組を積極的に行っている企業の好事例を中小企業へ広く周知していくことに加え、厚生労働省が運営している「女性活躍推進企業データベース」での計画および女性の活躍に関する情報の公表や、「えるぼし」認定、公共調達における加点評価、日本政策金融公庫による低利融資、両立支援等助成金(女性活躍加速化コース)など、策定することのインセンティブを拡充していくことが求められる。さらに、一般事業主行動計画の策定・届出・公表等に係る手間をなるべく少なくしていくことや、本件に関して複数あるリーフレット・パンフレットを整理統合することで企業側へ分かりやすく簡潔に情報提供していくことも重要である。

また、女性活躍推進法施行後3年の見直し(※―3)にあたっては、中小企業における
女性活躍推進の効果をしっかりと検証した上で、インセンティブの拡充等さらなる方策を
講じていくべきである。
なお、一般事業主行動計画の策定から具体的な取組の実施に至る過程は、1)自社の女
性の活躍に関する状況把握、課題分析、2)状況把握、課題分析を踏まえた行動計画の策
定、社内周知、公表、3)行動計画を策定した旨の都道府県労働局への届出、4)女性の
活躍に向けた取組の実施、効果の測定となっているが、計画を策定した企業において、こ
の過程をPDCAサイクルとして確立し、女性活躍推進の実効性を高めていくことが望ま
れる。また、計画の策定・届出・公表等は中小企業にとって努力義務であるが、これを女
性活躍推進に向けたきっかけや動機付けとして前向きに捉え、多くの中小企業が実践して
いくことが期待される。

②「えるぼし」認定について(女性活躍推進法に基づく認定)

一般事業主行動計画の策定・届出をした企業のうち、1)採用、2)継続就業、3)労
働時間等の働き方、4)管理職比率、5)多様なキャリアコースの各評価項目において女
性の活躍推進に関する状況等が優良な企業は、都道府県労働局への申請により厚生労働大
臣の「えるぼし」認定(※―4)を受けることができる。また、5つの評価項目を満たす
項目数に応じて、一つ星から三つ星まで3段階の「えるぼし」認定が取得できる仕組みと
なっている。
「えるぼし」認定を取得することのメリットとして、「えるぼし」マークを自社商品や
広告に付すことを通じて女性活躍推進企業であることをPRできることや、PRにより人
材確保や企業イメージの向上等につながること、さらには公共調達において一般事業主行
動計画の策定・届出等をした中小企業を上回る加点評価をされること等が挙げられる。
しかし、「えるぼし」認定の取得企業数は、2017年12月末日現在で、常時雇用す
る労働者数が301人以上の企業では399社、同300人以下の企業では100社で、
合計499社にとどまっている。また、一般事業主行動計画の策定・届出企業における
「えるぼし」認定の取得率は、301人以上の企業で2.5%、300人以下の企業でも
2.6%にとどまっていることから、一般事業主行動計画の策定・届出等が「えるぼし」
認定の取得につながっていない状況である。
「えるぼし」認定は女性の活躍推進に向けた機運醸成に寄与する制度であることから、
認定企業数を大幅に増加させていくことが求められる。そのためには、認定制度のさらな
る周知に加え、一般事業主行動計画の策定・届出等と「えるぼし」認定の取得申請を一体
でできるようにすることや、同計画の策定・届出等をした企業に対する「えるぼし」認定
の取得促進に向けた取組の強化、公共調達における加点評価等のインセンティブを拡充し
ていくことが求められる。

3.国の施策に対する要望事項

(1)認可保育所の入所承諾時期の前倒し

認可保育所の入所承諾は概ね2月半ばから2月末にかけて行われることが多く、4月1
日からの職場復帰を考える女性にとって勤務先へ復職の意思表示をする期限に間に合わな
いケースがあることから、「入所承諾時期を前倒ししてほしい」との生の声が多く聞かれる。
一方、企業側にとっても、入所承諾時期が前倒しされることで、職場復帰を考える女性を
考慮した上で4月1日付けの人事配置を検討できることから、同様の生の声が人事担当者
からも多く聞かれている。
認可保育所の入所承諾時期の前倒しは、職場復帰を考える女性、企業側の双方にメリッ
トがあることから、国は地方自治体に対して認可保育所の入所承諾時期を前倒しするよう
働きかけられたい。

職場復帰を考える女性等が「保活(※―5)」を行う際に、保育所の空き状況をはじめと
した情報を自ら収集する必要がある。こうした中、仕事と子育てを両立している女性から、
「都市部は待機児童数が多いので保育所へ確実に入所できるよう、保育定員に余裕がある
地方自治体や保育所を調べて、わざわざ引っ越しをした」、「入所選考に係る点数付けの基
準が地方自治体ごとに異なるので、情報収集に苦労した」、「認可保育所に入所できない場
合の保険として認可外保育所の入所申込みをしたが、認可外保育所の募集時期や空き状況
等は個別に問い合わせる必要があるため、かなり手間がかかった」、「待機児童数が高止ま
りしている中で、『保活』はまさに『情報戦』だ」など、保育所の入所に係る情報収集の負
担を訴える生の声が多く聞かれる。
こうした負担を軽減するには、認可・認可外保育所等の空き状況や開所時間等の情報を
「見える化」するとともに、こうした情報を地域別に検索できるポータルサイトを構築す
ることが求められる。

(3)病児保育事業の拡充、利便性向上

仕事と子育てを両立している女性は子どもが病気になった際、やむを得ず仕事を休んだ
り遅刻・早退をせざるを得ないケースがある。しかし、病児保育・病後児保育について「実
施している施設数が少なく定員も少ないので、預けたい時に預けられない。実際にはやむ
を得ず親を頼っている」、「預けるには事前に手続きする必要があるが、前日夜の時点で実
際に預けられるか分からないことがある」、「手続きには医師の診断書も必要で面倒」とい
った生の声が多く聞かれる。
仕事と子育てを両立している女性にとって病児保育・病後児保育は切実な問題であるこ
とから、地方自治体への支援を拡充し、施設数や定員を増やしていくとともに、手続きを
出来るだけ簡素化するなど利便性を向上していくことが望ましい。また、民間が実施して
いるサービスを後押ししていくことも有効である。

(4)認可保育所の入所に係る書式の統一

認可保育所の入所に係る書式、特に就労証明書は書式が地方自治体ごとに異なり、証明
書に記載する内容も地方自治体ごとに異なっている。こうした現状に対し、企業の人事担
当者から、「保育所の入所申込み時期である秋になると、社員から就労証明書の発行を依頼
され膨大な作業になるが、書式が地方自治体ごとに異なるので、個別に対応している。書
式を統一してくれれば、作業の生産性が大幅に向上する」、「証明書に記載する内容や基準
が地方自治体ごとに異なるので、その都度、地方自治体に問い合わせをする必要がある。
手間が大変」との生の声が多く聞かれる。
認可保育所の入所に係る書式や記載する内容を統一することで、企業の人事担当者が担
う作業の生産性が大幅に向上することから、国は書式や記載する内容の統一化に向け、地
方自治体等関係者と調整されたい。また、「待機児童対策協議会」で統一化に向けた協議を
していくよう、本協議会を設置した都道府県に対して働きかけられたい。

(5)保育現場の業務負担の軽減に向けたICT化の推進
保育の現場ではパソコンやタブレット型端末等のICT機器が十分に導入されていない
ことから、ICT化を推進することで業務の効率化、業務負担の軽減が図られると思われ
る。また、仕事と子育てを両立している女性から、「保育人材が不足している中で、保育現
場の業務負担を軽減することで、人材確保を進めていくべき」、「保育士からの連絡事項は
全て手書きでメモしているが、ICT化されるとだいぶ負担が減る」との生の声も多く聞
かれる。「子育て安心プラン」には、保育士の業務負担軽減のための支援として、ICT化
に係る調査研究や、業務のICT化を行うために必要な購入費用等の補助が盛り込まれて
いるが、これらの施策等により業務のICT化を推進していくべきである。

(6)保護者によるボランティア活動の参加促進

小学校等で行われている保護者によるボランティア活動は、子どもの教育環境の改善・
充実に大いに寄与しているが、平日昼間に実施されるケースがあることから、仕事と子育
てを両立している女性から、やむを得ず仕事を休んだり遅刻・早退して参加しているとの
生の声が聞かれる。女性の就業率が大幅に上昇し、女性のさらなる労働参画と活躍推進が
期待されている中で、保護者がボランティア活動に参加しやすくなるよう、在宅でできる
活動や休日の活動を増やしていくなどの方策が求められる。

(7)マザーズハローワーク事業の拡充

子育てをしながら就職を希望している女性等に対して、担当者制による職業相談や地方
自治体等との連携による保育所等の情報提供、仕事と子育ての両立がしやすい求人情報の
提供など、総合的かつ一貫した就職支援を行っているマザーズハローワーク・マザーズコ
ーナー(※―6)は、女性のさらなる労働参画に有効な施設である。従って、拠点数の拡
充および仕事と家庭の両立ができる求人の確保、母子家庭の母等のひとり親への就職支
援の強化、マザーズハローワークにおける職業訓練関係業務のワンストップ化など一
連の取組をより一層推進していくことで、機能を拡充していくべきである。

(8)リカレント教育など女性の学び直しに関する支援の拡充

育児等で一旦離職し、その後、復職や再就職を目指す女性が多様なスキルを習得できる
機会を増やしていくために、ICTなど今後の成長が見込まれる分野の講座や土日・夜間
講座、eラーニング講座を設定するなど、リカレント教育に資する講座の多様化や利便性
の向上を図っていくことが望まれる。あわせて、費用面での支援を図る観点から、教育訓
練給付金制度の指定講座について、商工会議所等が実施するビジネススキル習得に資する
講座を拡充されたい。

(9)女性活躍等好事例の周知、横展開

厚生労働省は企業における女性の活躍状況に関する情報を一元的に集約したデータベー
スを構築し、ホームページで女性活躍推進企業の事例を公表している他、両立支援に取り
組む企業の好事例も公表している。また、内閣府は仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バ
ランス)に関する先進事例を、中小企業庁は「中小企業・小規模事業者人手不足対応ガイド
ライン」の中で女性が活躍している企業の好事例を取り纏めそれぞれ公表している。こう
した事例を公表していくことは他の企業の参考になり、機運醸成にも寄与することから、
中小企業や地方の企業における好事例を今後も発掘し広く周知していくとともに、セミナ
ー等を通じて横展開を図っていくことが望まれる。また、各府省庁が連携し、これら女性
活躍等の好事例をワンストップで閲覧できるサイトを構築することが求められる。
加えて、好事例を参考に自社の経営を見つめ直し具体的な行動に移していくには、専門
家による客観的なアドバイスが有効なことから、女性活躍推進アドバイザーが企業を訪問
し行動計画の策定等を全面的にサポートする「中小企業のための女性活躍推進事業」の利
用を促進していくことが期待される。

(10)「くるみん」認定(次世代育成支援対策推進法に基づく認定)の周知とインセンティブの拡充

政府は次世代育成支援対策推進法(法律の有効期限2025年度末)により、常時雇用
する労働者数が101人以上の企業を対象に、従業員の仕事と子育ての両立に関する一般
事業主行動計画の策定・都道府県労働局への届出・公表を義務付けている。厚生労働省に
よると、常時雇用する労働者数が101人以上の企業における一般事業主行動計画の届出
数は2017年12月末日現在で46,691社、届出率は98.3%であり、策定・届
出・公表が義務付けられた企業のほぼ全てが既に対応している。
これに対して、常時雇用する労働者数が100人以下の企業等は一般事業主行動計画の
策定・届出・公表が努力義務となっているが、届出数は上記期日時点で29,124社に
とどまっていることから、女性活躍推進と同様に、仕事と子育ての両立推進には企業数の
大宗を占める中小企業が自発的に一般事業主行動計画の策定・届出・公表に取り組むなど
対応を進めていくことが期待される。

また、一般事業主行動計画に定めた目標を達成したなど一定の基準を満たした企業は、
申請することにより「くるみん」認定を受けることができる。しかし、「くるみん」認定
の取得企業数は、上記期日時点で、2,848社にとどまっており、一般事業主行動計画
の策定・届出企業における「くるみん」認定の取得率も3.8%にとどまっていることか
ら、一般事業主行動計画の策定・届出が「くるみん」認定の取得につながっていない状況
である。

「くるみん」認定は仕事と子育ての両立推進に向けた機運醸成に寄与する制度であるこ
とから、認定企業数を大幅に増加させていくことが求められる。そのためには、認定制度
のさらなる周知に加え、一般事業主行動計画の策定・届出と「くるみん」認定の取得申請
を一体でできるようにするなど申請の手間を減らすことや、同計画の策定・届出をした企
業に対する「くるみん」認定の取得促進に向けた取組の強化、公共調達における加点評価
等のインセンティブを拡充していくことが求められる。

(11)「介護離職ゼロ」に向けた取組の推進

介護・看護離職者は年間約9万人でそのうち約8割が女性であることから、負担の多く
は女性に偏っている。こうした中、政府は「ニッポン一億総活躍プラン」で「介護離職ゼ
ロ」を目標の一つに掲げ、介護の受け皿拡大や、介護人材の処遇改善、さらには介護ロボ
ットの活用促進やICT等を活用した生産性向上による労働負担の軽減等により、介護人
材の確保に総合的に取り組んでいくこととしている。
「介護離職ゼロ」の実現に向けこれらの取組を推進していくとともに、男性の介護参加
の促進や、改正育児・介護休業法(※―7)の周知をより一層推進していく必要がある。

(12)女性の活躍推進・子育て世代の支援に向けた制度の見直し

①女性の働きたい意思を尊重した税制・社会保険制度の見直しについて

1)所得控除制度の見直しに関する考え方~税額控除制度への移行~

現行の所得控除制度(基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除)は、累進税率の下では高
所得世帯ほど税負担が軽減されており、多くの子育て層が含まれる低所得世帯(年収30
0~400万円)には税負担の軽減効果が小さい。このため、所得控除制度の見直しにあ
たっては、基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除を一本化し、所得額によらず税負担の軽
減額が一定となる税額控除制度に移行すべきである。その際、夫婦それぞれの所得に対し
て税額控除を適用するとともに、夫婦どちらか一方に控除しきれない税額控除額がある場
合、他方の税額控除に上乗せする仕組みとすべきである。
夫婦それぞれの所得に対して税額控除を適用することで、単身世帯との公平性を担保す
ることが可能となる。また、夫婦どちらか一方に控除しきれない税額控除額がある場合、
他方の税額控除に上乗せする仕組みとすることで、現在の配偶者控除と同様に専業主婦世
帯の税負担の軽減が可能となり、専業主婦が担っている家庭内での貢献や、地域活動への
貢献にも配慮した制度となる。

2)社会保険制度の見直しに関する考え方~被保険者間の公平性、保険財政的な視点も踏まえて総合的な検討が必要~
社会保険上の扶養認定を外れ、保険料負担が生じる「130万円の壁」は、労働者の就業
調整の大きな要因となっている。さらに、2016年10月から施行された短時間労働者
への社会保険の一部適用拡大により130万円より低い106万円の壁が新たに生じ、さ
らなる就労調整を余儀なくされる労働者が増加することも懸念される。今後、適用対象と
なる年収要件をさらに引き下げたとしても、「壁」が生じる以上、就労意欲の阻害要因を無
くすことにならない。
従って、保険料負担の発生により手取収入が急激に減少する不合理を解消し、それをな
だらかなものにする制度改正あるいは政策的措置が必要である。

②公的年金等控除の見直しによる子育て世帯への支援の拡充について

消費税10%の範囲で一定期間は持続可能な社会保障制度とするためには、社会保障給
付の重点化・効率化を徹底・加速化するとともに高齢者の応能負担割合をなだらかに高め
る必要がある。社会保障給付の重点化・効率化によって生まれる財源や、女性や高齢者の
活躍により増加する所得税収を、若年世代の結婚、出産、子育て等に係る環境整備や、子育
て支援に要する費用に係る税制措置の創設など、少子化対策に重点的に配分すべきである。
税制においては、現役世代に比べて手厚い控除が適用されている、公的年金等控除を見
直し、子育て世代への支援の拡充を図るべきである。

4.民間が主体となり国と連携して取り組んでいくべき事項

(1)長時間労働の是正

女性の就業率が高まり、共働き世帯も増加している中で、女性の活躍推進には長時間労
働が当然とされている労働慣行を変革し、仕事と生活の調和が図られ、男女がともに充実
した職業生活、家庭生活を送ることができる社会を実現していくことが不可欠である。ま
た、人手不足が深刻化する中で、女性等多様な人材の活躍推進、生産性の向上、従業員の健
康確保のためにも、不要な長時間労働は是正すべきであり、「長時間労働は仕事と家庭の両
立に際し障害になっている」、「労働時間ではなく成果や能力を重視した人事評価が導入さ
れれば、仕事と家庭との両立がしやすくなる」といった生の声も多く聞かれる。
「働き方改革関連法案」には時間外労働の上限規制が盛り込まれているが、長時間労働
の是正には労使双方の意識改革はもとより、「経営トップのコミットメント」が効果的であ
ることから、国や地方自治体は機運醸成に資する取組や各種支援を強化していくとともに、
経営トップのリーダーシップのもと、多くの企業が主体的に不要な長時間労働を是正して
いくことが期待される。

(2)ワーク・ライフ・バランスの推進

第一子出産を機に約5割の女性(出産前有職者)が離職するなど、出産・育児を理由に離
職する女性は多く、介護・看護離職者についても約8割が女性である。女性の活躍推進に
は子育てや介護・看護と仕事の両立ができる環境整備が不可欠であることから、長時間労
働の是正や多様で柔軟な働き方の推進など働き方改革の導入により、仕事と生活の調和(ワ
ーク・ライフ・バランス)を促進していく必要がある。
ワーク・ライフ・バランスに資する取組を推進していくことは、男女を問わず働く人が
意欲と能力を十分に発揮し、企業活力や競争力の向上につながることに加え、有能な人材
の確保・育成・定着にも寄与することから、多くの企業が自社の実情に応じて働き方の改
善や休み方の改善に資する社内制度を構築し、実践していくことが期待される。また、国
や地方自治体は機運醸成に資する取組や各種支援を強化していくべきである。

(3)テレワークの推進

テレワークは時間や空間の制約にとらわれず働くことができるため、子育てや介護・看
護と仕事の両立に資する有効な手段の一つである。しかし、平成28年通信利用動向調査
によると、適した職種がない等の理由から導入しているまたは具体的な導入予定がある企
業は16.6%にとどまり、特に中小企業では10.9%と少ないのが現状である。
一方、同調査ではテレワーク実施企業の約9割が効果を実感していることに加え、仕事
と子育てを両立している女性から「テレワークが導入されれば、自宅やサテライトオフィ
スでも仕事ができるので効率的だ」との生の声が多く聞かれる。また、特に地方では人手
不足が顕著であり対応が急務である状況の中で、テレワークは人手不足解消の切り札にな
り得る可能性があることから、本年2月に策定された「情報通信技術を利用した事業場外
勤務(テレワーク)の適切な導入及び実施のためのガイドライン」の周知や、テレワーク相
談センターにおける導入支援、セミナーの開催など、特に中小企業におけるテレワークの
普及促進を図るべきである。
なお、東京商工会議所が2017年に実施した「東京2020大会における交通輸送円
滑化に関するアンケート」では、テレワークを既に導入した企業は5.0%、2020年ま
でに導入する予定が1.5%、導入を検討してみたいが9.9%であり、合計で16.4%
の企業が2020年までのテレワーク導入に前向きな姿勢を示している。一方、「テレワー
ク導入に伴う費用補助等のインセンティブや技術的支援」、「成功事例の積極的な開示」を
求める声や、「テレワークを導入するには、準備期間として最低でも1年は必要」といった
声もあることから、上記の普及促進策を通じて、企業が取り組みやすい環境を整備してい
くことが重要である。

(4)建設業や運輸業における女性活躍の取組の推進

日本商工会議所が2017年に実施した「人手不足等への対応に関する調査」では、6
0.6%の企業が「人手不足」と回答しているが、建設業は67.7%、運輸業は74.
1%と他の産業に比べて人手不足感が強い状況となっている。また、平成29年労働力調
査によると、就業者に占める女性の割合は全産業で43.8%であるが、建設業は15.
3%、運輸業・郵便業は19.7%と他の産業に比べて低いことから、建設業、運輸業とも
に女性活躍の取組を推進していくことが課題となっている。
建設業、運輸業ともに女性の入職や定着に向け、女性も働きやすい現場環境の実現や業
界の魅力発信に官民を挙げて鋭意取り組んでいるが、女性の職域拡大の観点からも、より
積極的に実施していくべきである。

(5)女性の活躍推進に向けた職場風土の醸成

企業が女性の活躍を推進していくには、女性の採用や職域の拡大、就業継続、キャリア
アップや管理職への登用など様々な課題が挙げられている。これらの課題は各社各様であ
るが、課題の根底にあるのは男女それぞれが持つ「意識の壁」である。この「意識の壁」
に関しては、日本・東京商工会議所が設置した「働く女性のための検討会」でも多くの意
見が出されている。
平成28年度雇用均等基本調査によると、短時間勤務制度(60.8%)や所定外労働
の制限(55.9%)、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ(33.6%)、育児の場合に
利用できるフレックスタイム制度(12.9%)など、育児のための所定労働時間の短縮
措置等の制度導入は進みつつある。加えて、女性活躍のためのキャリアアップの仕組みを
整え、管理職登用に向けた施策を実施している企業も少なくない。
しかし、特に大企業では、制度や仕組みは整備されたものの、その運用・マネジメント
において「意識の壁」が存在するとの声がある。男性管理職は、育児中の女性への配慮か
ら、負担の大きい職種や業務を避けて女性を配置することが散見されるが、女性管理職登
用のための中長期的なキャリア形成には、マイナスに働く過剰な配慮となっている可能性
がある

一方、女性の側には、管理職へ登用され昇格していくことに自信を持てない、あるいは
育児のために時間の制約がある自分に部下が付いて来てくれるのかという不安等から、管
理職へ昇格することを希望しないという意識も存在する。女性がこうした意識を払しょく
するには、キャリアデザインの参考となるロールモデルの存在が有益とされる向きもある
が、自分の周りにはスーパーウーマン的なロールモデルしか存在せず、自分にはとても参
考にならないという生の声もあることから、階層別に多様なロールモデルが存在すること
が有効である。

いずれにしても、各企業がこの「意識の壁」を打破し女性の活躍推進に向けた職場風土
を醸成していくには、経営トップによる情報発信や管理職に対する意識啓発が重要であ
り、経済界を挙げてこうした機運を高めていく必要がある。また、活躍を期待する女性に
社外の女性との交流や相互啓発の機会を積極的に付与することも有効である。

(6)女性の登用促進

政府は女性の登用促進について、「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指
導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度となるよう期待する」という目標
を掲げ、特に上場企業役員に占める女性の割合については「早期に5%、2020年に1
0%」を目指す目標を掲げている。しかし、日本商工会議所の調査では女性の活躍推進に
向けた課題として、「女性の職域が限定されている」が38.6%、「女性が管理職登用を望
んでいない」が23.0%挙げられている。
女性の活躍推進には、業種・業態の特性や企業独自の事情があることに加え、働く女性
の価値観も多様であることから、政府は登用率等の数値目標にとらわれずに、民間と連携
した機運醸成や好事例の発信、女性が働きやすい職場環境づくりに取り組む中小企業への
支援など、多岐にわたる対策を積極的かつ粘り強く講じていくことが望まれる。

(7)配偶者手当の支給

配偶者手当を支給する際の配偶者の収入制限の額については、約4割の企業が103万
円、約2割の企業が130万円に設定しており、世帯単位での手取り額の逆転に拍車をか
けている。こうした現状に対し、なだらかな支給に変えていく必要がある他、配偶者手当
を廃止、子育て手当に支給を重点化する等の検討も必要である。政府はそうした企業の取
組を後押しするインセンティブを設ける等の検討を行っていくべきである。

(8)男性の家事・育児への参画促進

「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に賛成する男女の割合は減
少傾向にあるが、平成28年度男女共同参画社会に関する世論調査では4割超の男性がそ
うした考えに賛成している。

平成28年社会生活基本調査 生活時間に関する結果によると、共働き世帯における家
事・育児など家事関連に参画する時間(一週間)は、妻が約5時間であるのに対し夫は1
時間にも満たず、諸外国と比べても少ないのが現状である。また、平成28年度雇用均等
基本調査によると、男性の育児休業取得率は3.16%であり、2020年までに13%
とする政府目標を大きく下回っている。夫の休日の家事・育児時間と第2子以降の出生状
況には正の関係性があるとの調査結果もあることから、男性の家事・育児への参画を促進
することは、少子化対策としても重要である。

従って、男性の家事・育児の参画を促進するために、国民的な機運の醸成を図っていく
とともに、官民を挙げて男性の家事・育児参画への意識啓発や育児休業を取得しやすい雰
囲気作りに取り組んでいくことが重要である。

(9)ハラスメントの防止

セクシャルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止措置を
講じることは、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法により事業主に義務付けられてい
る。しかし、平成28年度雇用均等基本調査によると、防止に向けた取組を行っている企
業の割合は、セクシャルハラスメントでは約6割、妊娠・出産・育児休業等に関するハラス
メントでは約5割にとどまっている。
規模を問わず全ての企業がハラスメント対策を講じていくことは当然であるが、上記の
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現状を踏まえ、国は法の趣旨のみならず有効な取組内容等をより一層周知すべきである。
その際、商工会議所は国と連携していく所存である。

5.商工会議所の取組例(参考)
(1)日本・東京商工会議所の主な取組例
①「若者・女性の活躍推進」ポータルサイト(日本)
日本商工会議所は中小企業における若者・女性の活躍を支援するために、「若者・女性の
活躍推進~中小企業のための情報ポータルサイト~」を2014年に開設した。本ポータ
ルサイトでは、国や関係機関の施策をタイムリーかつ幅広く紹介している。
②若者・女性の活躍に係る好事例の紹介(日本)
「若者・女性の活躍推進~中小企業のための情報ポータルサイト~」では、「光る!リー
ダーシップ!」と題して先進的・継続的に若者・女性活躍推進に向けて取り組んでいる中
小企業の好事例を紹介している。
③女性活躍推進法の周知(日本)
女性のさらなる活躍推進には企業数の大宗を占める中小企業が自発的に対応を進めてい
く必要があることから、日本商工会議所は女性活躍推進法および一般事業主行動計画策定
の呼びかけをホームページ、機関誌、各種会議等を通じて行っている。
④女性活躍推進法・行動計画策定支援ツールの無料提供(日本)
日本商工会議所は、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を、中小企業が必要最
小限の作業で策定できるようにするために、本ツールを2016年からホームページ上で
無料提供している。女性活躍推進法に基づく行動計画の策定およびその実施は、女性等多
様な人材の活躍に注力している旨を表明することを通じて人材確保に寄与するとともに、
社内の実態を客観的に把握することで職場環境の改善や生産性の向上に向けた検討を進め
る機会となることから、本ツールを用いて多くの中小企業が計画を策定することが期待さ
れる。
⑤中小企業のための女性活躍推進ハンドブック(日本・東京)
日本・東京商工会議所は、中小企業の現場で女性の活躍を推進するための具体的な取組
を分かりやすく解説した小冊子「中小企業のための女性活躍推進ハンドブック」を201
6年に発行した。本ハンドブックは、働く女性が入社から退職までの間に抱える様々な課
題に対応しながら、さらに活躍の場を広げるために、中小企業経営者に理解していただき
たいことを纏めたもの。中小企業経営者とそこで働く女性だけでなく、就職活動中の学生
や再就職を目指す方にも参考となる内容になっている。
ハンドブックの前半部では、入社から退職までの各キャリア・ステージと、それに伴う
結婚や妊娠、出産、育児、介護といったライフ・イベントごとに女性従業員と企業が抱え
る課題を明らかにした上で、それらを解決するための取組のポイントを、図表を交えて示
している。後半部では、働く女性に関して知っておくべき雇用のルールについて、労働基
準法、男女雇用機会均等法、女性活躍推進法等の法律の解説や、社内体制の整備に使える
助成制度を掲載している。
⑥「TOKYO働き方改革宣言企業」制度を通じた働き方改革の宣言(東京)
東京商工会議所は、都内企業等の働き方改革の機運を高めていくために、東京都が20
16年度に創設した「TOKYO働き方改革宣言企業」制度を通じて、新ビル移転も見据
え、長時間労働の削減や年次有給休暇等の取得促進に向けた取組を事務局が実施していく
旨を宣言した。なお、東京商工会議所が2017年度の第一号宣言企業であることから、
小池東京都知事、三村会頭の参加のもと2017年5月に、東京都が承認した宣言書の手
交式を実施した。
⑦東京における働き方改革推進等に関する東京都との連携協定(東京)
東京商工会議所は、働き方改革の推進、テレワークの普及、家庭と仕事の両立支援、女
性の活躍推進、都内企業に対する人材確保の支援など、東京都が実施する雇用就業施策に
相互協力していくことを目的に、2017年11月に連携協定を締結した。
本協定に基づき、セミナーや説明会等を通じて東京都の雇用就業施策を会員企業へ周知
していく他、東京都に対する要望の策定や、会員企業の生の声を施策に反映していくこと
を目的とした意見交換会等を実施していく。
⑧働き方改革フォーラムの開催(日本・東京)
日本・東京商工会議所は内閣府と共催で、「働き方改革フォーラム~生産性向上と多様
な人材の活躍推進にむけて~」を本年2月に開催した。本フォーラムでは、1)働く意欲
のある全ての人が仕事を通して活躍できる職場環境の実現、2)働く人がその能力を最大
限発揮する職場環境の実現の2つのテーマのもとで、講演と企業事例の紹介を行った。当
日は働き方改革に関心のある企業経営者や人事担当者など全国から約300人が参加する
など盛況であり、好評を博した。
(2)各地商工会議所、女性会の主な取組例
①女性起業家大賞等女性会活動(全国商工会議所女性会連合会、各地商工会議所女性会)
全国商工会議所女性会連合会(以下、「全商女性連」。全国416商工会議所女性会、
約22,000人で構成される連合組織)では、地域の女性経営者への支援事業の一環と
して、2002年に「女性起業家大賞」を設立。女性ならではの視点で革新的・創造的な
創業や経営を行う女性起業家に対し、顕彰を通じて支援している。これまでに、全国より
560件の応募がある。
このほか、全商女性連では、政策提言活動や、女性活躍推進、少子化対策、地方創生等
に積極的に取り組む女性会に対する支援、本格的震災復興と福島の再生の継続的な支援な
ど、多岐にわたる活動を積極的に展開している。また、各地商工会議所女性会でも地域に
根差した幅広い活動に取り組んでいる。
②女性創業塾(各地商工会議所)
一部の商工会議所では、創業を目指す女性をサポートするために、創業に必要な知識・
ノウハウを体系的に学ぶことができる創業塾を実施している。この他、創業関連の相談
や、創業者同士の交流会等に取り組んでいる商工会議所もある。
③札幌なでしこ表彰(札幌)
札幌商工会議所は、「札幌なでしこ表彰」を2015年、2016年の2回にわたり実
施した。女性が活躍できる機会を積極的に提供している企業や女性の活躍により業績を伸
ばしている企業、ならびに、活躍する従業員を表彰しPRすることで、女性が活躍できる
場の拡大を図っている。また、仕事と子育ての両立や管理職など他の職員のロールモデル
として活躍する好事例を横展開している。
④女性の活躍先進企業表彰(秋田)
秋田商工会議所は2017年に、女性活躍推進法に基づき一般事業主行動計画を策定し、
女性の活躍推進に積極的に取り組んでいる会員の中小企業8社を、「秋田商工会議所 女性
の活躍推進先進企業」として、創立110周年記念式典において表彰した。また、受賞企業
の事例を盛り込んだパンフレットを作成し、取組を広く紹介した。
⑤女性活躍推進事業「名商 Career Women’s Platform(CWP)」(名古屋)
名古屋商工会議所は様々な分野で活躍している、または活躍したい女性のネットワーク
形成を目的に、女性活躍推進に係る事業を実施しており、そうした事業を「名商 Career
Women’s Platform(CWP)」と総称している。CWPでは、啓発事業として男性経営者・
管理職等を対象に女性活躍推進のメリットを啓発し行政施策等の紹介もするセミナーや、
交流促進事業として活躍している、または活躍したい女性に交流の場を提供する異業種交
流セミナー・勉強会、「エコ女ワーキンググループ」の活動支援等を実施している。
⑥女性活躍支援拠点「京都ウィメンズベース」(京都)
京都商工会議所等は、京都における女性の活躍の加速化に向け、経済団体等と行政(京
都府、京都市、京都労働局)が連携した女性の活躍推進を図る体制として「輝く女性応援京
都会議」を2015年に設置した。また、同会議において、京都商工会議所、京都府、京都
市、京都労働局が一体となって運営する女性活躍支援拠点「京都ウィメンズベース」を2
016年に開設した。「京都ウィメンズベース」では、女性リーダーの育成や中小企業の一
般事業主行動計画の策定など、企業の経営戦略としての女性活躍推進を総合的に支援して
いる。
⑦大阪サクヤヒメ表彰(大阪)
大阪商工会議所は、大阪の地域活性化の原動力である企業文化や文化的活動において、
中心的役割を担う女性役員や管理職等をたたえるため、「大阪サクヤヒメ表彰」を2016
年に創設した。また、受賞者を対象とした勉強会や交流会を開催し、他社他業種の女性リ
ーダーとのネットワーク構築の機会を提供している。一連の事業を通じて、未だ数が少な
いといわれる女性リーダーや管理職のロールモデル輩出を目指している。
さらに、「制度も社風もよくわかる!女活のススメ~女性活躍推進に取り組む大阪の企
業事例集」の作成や、女性の活躍によって経営革新に成果を上げた企業の成功事例を紹介
するフォーラムの開催など、女性活躍の推進に資する事業を鋭意、展開している。
⑧企業主導型保育事業に関するセミナー・共同利用マッチング(大阪)
大阪商工会議所は、企業主導型保育施設の普及・促進を目的に、内閣府や大阪府と連携
し、全国に先駆けて制度や事例を紹介するセミナーや共同利用マッチング会を6回実施し
ており、多くの企業が参加している。また、保育施設の見学会や情報交換会も7回実施
し、共同利用契約が2件成立するなど、実効性の高い情報提供に積極的に取り組んでい
る。
⑨「広島県働き方改革実践企業」認定制度(広島県連)
広島県商工会議所連合会は、広島県や働き方改革推進・働く女性応援会議ひろしま等の
関係機関と連携し、県内企業の働き方改革に対する取組を推進するために、企業内に改革
を進めるしくみを設け一定の成果が認められる企業を認定・評価する「広島県働き方改革
実践企業」認定制度を2017年に創設した。この認定制度により、先進モデル事例を見
える化し、情報発信や普及啓発活動に活用することで、中小・小規模企業を含めた県内企
業の機運醸成や取組促進を図っている。
⑩福岡の女性活躍行動宣言(福岡県連)
福岡県商工会議所連合会は2016年に、福岡県や福岡労働局、福岡県経営者協会等と
ともに「福岡県女性の活躍応援協議会」を設立した。また、2017年には、1)女性の
活躍に向けた機運醸成や組織トップの意識改革、2)男性も女性もともに仕事と生活を両
立できる環境づくり、3)女性がその個性と能力を十分発揮できる環境づくりなど、同協
議会が一体となって取組を進める上で目指すべき方向性を纏めた「福岡の女性活躍行動宣
言」を採択した。
⑪働く女性の応援リフォーム商品券の販売(延岡)
延岡商工会議所は、女性が働きやすい職場環境の整備に向け、1名以上の女性従業員を
雇用する中小企業等を対象に、託児室やトイレ、更衣室等の福利厚生施設の整備に利用可
能な「働く女性の応援リフォーム商品券」の販売に取り組んだ。
⑫イクボス宣言(湯沢、魚津、犬山、草津、生駒、北九州、福島県連、群馬県連、広島県連、
鳥取県連、大分県連)
6商工会議所、5県連は、NPO法人ファザーリングジャパンが行うイクボス宣言に賛
同している。イクボスとは「部下や同僚等の育児や介護、ワーク・ライフ・バランス等に配
慮・理解のある上司」のことで、対外的に宣言することにより自ら範を示すともに、宣言の
輪が広がっていくことで機運醸成にも寄与している。
※―1:日本商工会議所「働き方改革関連施策に関する調査」(調査期間:2017年11月16
日~2018年1月15日)。なお、概要版に記載の「日商調査」とは本調査を指す。
※―2:地方自治体によって待機児童に含めるかどうかの判断が分かれていた「保護者が育児休
業中の者」の取り扱いについて、保育所に入所できた時に復職する意思を確認できる場
合には待機児童数に含めるもの。なお、新定義の全面適用は2018年度から。
※―3:女性活躍推進法に「政府は、この法律の施行後三年を経過した場合において、この法律
の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この法律の規定について検討を加
え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と規定されている。
※―4:「えるぼし」認定の取得には、①男女別の採用における競争倍率が同程度であること、②
平均勤続年数が男女間で同程度であること、または10事業年度前およびその前後の事
業年度に採用された新規学卒採用者の継続雇用割合が男女間で同程度であること、③法
定時間外労働および法定休日労働時間の合計時間数の平均が月ごとに全て45時間未満
であること、④管理職に占める女性割合が産業ごとの平均値以上であること、または直
近3事業年度における課長級より一つ下位の職階の労働者に占める課長級に昇進した労
働者の割合が男女間で同程度であること、⑤女性の非正社員から正社員への転換実績が
あるなど多様なキャリアコースが整備されていること、の5つの評価項目がある。ま
た、5つの評価項目を満たす項目数に応じて、取得できる認定段階が変わる制度になっ
ている。
※―5:子どもを保育所に入所させるために保護者が行う活動。
※―6:全国のハローワーク544カ所のうち、マザーズハローワークは21カ所、マザーズコ
ーナーは178カ所に設置。
※―7:対象家族1人につき、通算93日まで、3回を上限として、介護休業を分割取得するこ
とができる/介護休暇の半日単位の取得を可能とする/介護のための所定労働時間の短
縮措置等を介護休業とは別に、利用開始から3年の間で2回以上の利用を可能とする/
所定外労働の制限を介護終了までの期間について請求することのできる権利として新設
する等。2017年1月施行。
以上

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2018年4月4日