・中国政府が"宗教白書”、党中央統一戦線工作部が宗教所管-規制強化へ(Tablet)

  「枝の主日」を祝う若い信徒たちの行列(中国河北省で)(CNS photo/Damir Sagolj, Reuters)

(2018.4.5 Tablet  James Roberts)

中国の共産党政権が今週、信教の自由に関する初の「白書」を発表した。この文書は英国政府の「白書」に匹敵する権威付けはされていないが、議会での議論と立法のための政策を提示している。香港中文大学・崇基学院の曾思瀚神学部長は「政策文書や法律ではなく、(政府の)姿勢についての表明、報告に過ぎない」とアジア地域のカトリック・ニュースサイトUCA Newsに語った。

 「白書」が関係者から関心を持たれているのは、中国政府とバチカンの間で進められている中国国内のカトリック教会の司教の任命をめぐる協議に影響を与える可能性があり、協議結果が、政府・共産党に忠誠を誓う”愛国教会”とバチカンに忠誠を誓う”地下教会”に分かれている中国のカトリック教会の将来に大きな影響を与える、と見られるからだ。

 発表された「白書」は、宗教に対する共産党の権威を「中国の独立のために必要なもの」と主張し、キリスト教のような西欧の諸宗教は「長い間、植民地主義者と帝国主義者によって管理され、利用されてきた」と指摘、中国におけるイスラム教指導者は過激な思想から信徒たちを引き離さねばならない、と強調している。

 習近平・国家主席は最近、”愛国教会”の代表も参加した中国共産党全国代表大会で圧倒的な支持のもとに確固たる地位を確立した。大会は、主席が進める宗教とカトリック教会に対する事実上の党による統制を「中国化」と表現することを支持した。

 同党の中央統一戦線工作部は先月、宗教監視・監督の任務を政府国務院の国家宗教事務局から移譲されている。権限の委譲は、党指令の執行という厳格なものだ。

 国家宗教事務局の陳宗栄・元副局長は4月3日、「自分は『司教任命の完全な権限をバチカンに持たせないことが信教の自由を妨げる』という考えには同意しない」としたうえで、UCA Newsによれば「中国政府は中国側が司教候補者を選定するが、教皇は拒否権を持つ内容でバチカンと合意することで、両者が別々に司教を選ぶやり方を終わりにするよう、努力している」と述べている。協議の過程で漏れてきた情報では、具体的な合意の中身として、中国側が特定の教区について3名の司教候補を出し、教皇はその中から一人を選ぶ-という方式を取ろうとしている。

 「白書」のもつ極めて偏向した、懸念される要素は、中国で宗教活動をしている人の数を示した箇所にある。それによれば、中国全土での人数は2億人と、1997年に出た前の「白書」の1憶人の二倍に増えている。だが、宗派別では、カトリック信徒の数は600万人、プロテスタント信徒は3800万人、イスラム教徒は2000万人としており、カトリック教徒の数は通常、1200万人といわれている数字の半分だ。つまり、600万人という白書が示した数字は、中国政府・共産党に忠誠を誓う”愛国教会”の信徒の数字、となる。それは、”地下教会”に属する600万人の信徒の存在を認めないことを意味し、バチカンと中国政府が協議で合意すれば、彼ら一般信徒、司祭・聖職者の運命は不安定なものになる恐れがある、ということだ。

 宗教を所管することになった中央統一戦線工作部が諸宗教の共産党への服従を強化することで、元香港司教の陳日君・枢機卿と他の多くの人々が指摘しているように、「中国の教会の新秩序に従わない”地下教会”の信徒たちにもたらされる恐怖」が現実となる恐れがある。”自宅教会”で礼拝する1000万人のプロテスタントの人々も、白書の統計にある3800万人には数えられておらず、その命運にも不安の影が漂っている。

 Catholic News Serviceによれば、香港の正義と平和協議会のプロジェクト・オフィサーの王陽陽氏は、この白書は「法律に従って宗教活動を管理する」としているが、中国における「法律」は人々の信教の自由を守るためのものではなく、「宗教を監視し、管理するのが目的」と指摘し、中国本土で導入された数多くの規制と法律、特に2月に改定された宗教活動に対する規制は「世界人権宣言で言明された信教の自由の保護」を侵すもの、と指摘。白書は「独立」「自発性」「自己管理」の原則、と美辞麗句を並べているが、「カトリック教会の文化受容、自主性、本質に敬意を払うことよりも、教会の真髄と信仰の原則を破壊することを意図している」と警告している。

 (翻訳・「カトリック・あい」南條俊二)

(Tabletはイギリスのイエズス会が発行する世界的権威のカトリック誌です。「カトリック・あい」は許可を得て翻訳、掲載しています。 “The Tablet: The International Catholic News Weekly. Reproduced with permission of the Publisher”   The Tablet ‘s website address http://www.thetablet.co.uk)

 

(関連)中国が宗教対策を政府から党中央直轄へ

 【2018.4.11 CJC】中国はこれまで宗教組織と宗教活動の統制、管理を国務院国家宗教事務局(宗教問題事務局)の管轄としていた。それが3月21日、最高権力機関『全人代』(全国人民代表大会)での決定に伴い、共産党中央統一戦線工作部担当に変わった。カトリック系『アジア・ニュース』が報じた。

中央統一戦線工作部は、共産党と非共産党員との連携、チベットや台湾に対する反党勢力への工作を含めた祖国統一工作などを担う部署。宗教統制の強化によって、信者たちの思想を祖国統一へのパワーに結びつけるのは中国共産党の任務という。国務院から中央統一戦線工作部へ移管するとの決定は、2月に開かれた共産党の最高指導機関『中央委員会』の総会で承認された。移管は2018年内に完成の予定。

今回の移管は、2017年10月の党大会で、習近平総書記(国家主席)が打ち出した宗教管理を強化する方針に沿ったもの。習氏は『全人代』大会初日の18日、党トップとして初の政治報告で、宗教活動を「社会主義社会に適応するよう積極的に導く」と表明した。宗教活動を党の政策や指導方針に適合させる「中国化」を強調、宗教政策を担当する党幹部も「国家の利益や社会の公益に関係する宗教事務の管理を強化する」と明らかにした。国家宗教事務局元副局長の陳宗栄氏は、この機構改革について「宗教の中国化方針を堅持し、統一戦線と宗教資源を統率して宗教と社会主義社会が相互に適応するよう積極的に指導することを党の宗教基本工作方針として全面的に貫徹する」と説明している。

今回の移管で、キリスト者に衝撃を与えたのは、教会堂からの十字架強制撤去を行った浙江省の夏寶龍(シャ・バオロン)前党書記(66)が3月14日、人民政治協商会議(政協)の第13回第1回会議で秘書長兼副主席に選出されたこと。習近平国家主席派で『全人代』環境・資源保護委員会の副主任委員(副委員長)だった夏氏が、党中央への助言組織とされる同会議の権力者の地位に就いたのだ。夏氏が17年4月に浙江省から異動になった時には、引退を待つだけで、政治生命は終わったと見る向きが多かった。浙江省で夏氏は2003年から活動していた。当時の4年間は習近平氏が同省の党書記だった時期に当たる。夏氏は12年から17年4月まで同省党書記だった。その時の3年間、十字架撤去と教会堂破壊が都市計画のためとして行われた。13年末から16年4月まで、プロテスタント教会を中心に約1500の十字架が撤去された。十字架を守ろうとした牧師、信徒は拘留、脅迫、告発され た。その弁護に当たった弁護士も告発された。□

 

 

 

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2018年4月12日