・「中国との暫定合意は”口約束”、バチカンは台湾の信徒を見捨てない」-台湾の教会幹部(CRUX)

(2019.10.31 Crux  Seinor Correspondent Elise Harris)

 台北発-中国本土における司教任命に関するバチカンと中国当局の暫定合意について、台湾カトリック教会の「中国地域司教協議会」のOtfried Chan事務総長が24日、記者団との会見に応じ、「正式なものというよりは、口約束」と理解していると述べた。

Taiwan priest doubts Vatican-China deal exists ‘on paper’

 事務総長は、また、この暫定合意がバチカンと台湾のカトリック教会との外交関係を危機に陥らせる可能性について、これによって、関係がいずれ変わることはあり得るが、バチカンは台湾のカトリック信徒たちを”見捨てる”ことは無い、と確信している、と強調した。

 さらに、”独り言”と前置きして、「『バチカンの司教任命に関する取り決めは、文書ではなく、当事者たちの頭の中だけに存在する』という“うわさ”を聞いている、と語った。

公表された唯一の中身は、中国当局が教皇の同意なしに叙階した(不法に司教としての活動をしていたことを意味する)7人の司教についてバチカンが取っていた破門を取り消す、というものだ。

さらに、事務総長は「教会から十字架を降ろしたり、聖母マリアの像を破壊したりするなど、中国当局が国内のカトリック教会の活動を日常的に厳しく取り締まっている」との情報が中国国内から伝えられていることに言及。

このようなニュースから分かることは、暫定合意後にバチカンと中国当局の間に「対話」はなく、バチカンの高位聖職者たちが、暫定合意を弁護するためにしている「独白」であり、高位聖職者の間には批判もある。

「だが、中国当局から言及はない。しかし、北京は言葉、文書ではなく、『行動』で語っています… つまり、彼らは宗教的抑圧を非常に強化している… 彼らは誠実ではない。バチカンとの外交関係を構築することには興味がない。聖座は今、それを分かっていると思う」。

また、「書面による合意があれば、北京はそれに同意するでしょう… 合意で彼らが目指しているのは、一部の不正な司教を合法にし、地位を合法化し、地下教会と政府公認教会を一つにすること。ですが、合意をどう見るか、誰にもわかりません」と述べ、教皇は霊的指導者として(注:中國も含めて)世界のカトリック教徒を世話する責任があり、「それは彼の義務であり、政治家の義務ではない」「そのためには、中国当局との対話が必要だが、成功していない。それは事実です」と言明した。

ヨーロッパでより効果的だったと思われる当時の東欧共産主義諸国に対するバチカンの「東方政策戦略」が中国に適用されていないのは、「キリスト教の概念が中国文化にとってまだ比較的新しい」ことが一因との見方を示し、香港の陳日君・枢機卿の(注:暫定合意が中国の専制独裁体制を利する、という)批判には必ずしも同意しないものの、彼の立場は「預言的です」と述べた。

第二次世界大戦の後、中国で共産党の人民軍と国民党軍の内戦が続き、1949年に人民軍が勝利して当時の蒋介石総統と国民党政府は台湾島に逃避し、本土に共産党政府が作られた。以後、中国政府は台湾を独立国とは認めず、世界各国は、いずれか一方を外交の相手とすることになった。現在、ほとんどの国が北京に大使館を置き、台湾と外交関係を続けているのはわずか。その一国がバチカンだ。

台湾の司教団は昨年5月にバチカンで、教皇と教皇庁首脳たちと定期協議を行い、台湾の外交的地位も話題となったが、事務総長は、教皇とパロリン国務長官は「教会は決して羊を捨てることはない」と言明し、北京と正式な関係を結んだとしても、それは「台湾を『放棄する』ことを意味しない」と語ったといい、「物事がどのように見えても、台湾が忘れられることはない」との確信を示した。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2019年11月1日