・「中国の教会を自殺に追いやる行為だ」元香港司教の陳枢機卿、”バチカン・中国和解”を改めて批判

(2018. 3.12) バチカンと中国政府の司教任命に関する合意が目前に迫ったといわれているが、米国のカトリック・テレビ放送EWTNがこのほど放送したところによると、前香港司教の ヨゼフ陳枢機卿が同放送のニュースショーThe World Overのインタビューに答え、「Better no deal than a bad deal(悪い合意はしない方がいい)」とこれを改めて批判した。

 枢機卿はさらに、近年のバチカンの対中国政策は「中国におけるカトリック教会を一段と弱体化させている」とし、「そのような弱い立場から、協議によって得るものは何もない」と断言した。また、現在の状況について、バチカンは中国政府公認の愛国天主協会と不当に叙階された司教たちの姿勢に悩まされ、「彼らの傲慢で偽りの態度の前に沈黙している」が、”地下教会”と”愛国協会”のいずれに対しても、中国政府の方針に屈するように促している。このような行為は、われわれ中国の教会を弱める。一種の自殺に追い込む行為だ」と強く非難した。

 バチカンと中国政府の間で合意が迫っていると伝えられている内容は、愛国協会の司教をバチカンとして公式に認め、バチカンに忠誠を尽くしてきた地下教会の司教のうち二人に教区長のポストを降りるか降格を受け入れることを求める、というものだ。これを支持するカトリック関係者は「中国における教会の権威を維持するために必要」としているが、陳枢機卿はかつて共産党政権下にあった中欧のカトリック教会の例を引き、「そうした合意は、共産党政府に反対する司教の任命を阻み、政府に追従するやからを司教に選ぶことを意味する」「そのような司教たちは、群れの世話をする羊飼い、というよりも、中国政府の官僚だ」と警告した。

 そして、「中国の信徒たちはこのことにすぐには気づかないかもしれないが、早晩、わかるようになる。そうなったら、彼らはどのようにしてカトリック教会を信じることができるだろう」とし、ハンガリーの共産党政権とバチカンの秘密合意の内容が後に明らかになった時、そこに、政府批判をした司祭は誰かれの区別なく、職を解かれる、ということが書かれていた、と指摘し、「政府にはすべてが得られ、教会が得るものは、ほんのわずかだ」と断言した。

 また、陳枢機卿は、バチカンに公認されていない中国の司教7人が最近、バチカンに公認を求める書簡を送ったことを明らかにし、「彼らは全員が中国政府の手の内にある。本当に回心したとどうやって信じろというでしょうか」「どうやって、彼らを正式な司教と認めることができるのでしょう。群れの羊飼いとなることを。人々を従わせ、尊敬させるようにするために、何ができるのでしょう」と問いかけた。それにもかかわらず、バチカンがこうしたことを受け入れれば、「まったくに悲劇です。信仰に対する裏切り行為だ」と述べた。

 現在中国にはバチカンと中国政府の双方が認めた司教が約60人いるが、バチカンのみが公認している司教も30人いる。前教皇のベネディクト16世は中国政権の支配下にある愛国協会所属の司教を多く認めたという。

 現在協議されているのは、中国政府側は3人の司教を公認することを提案しているが、バチカンが3人の司教候補を出し、中国政府がそのうちの一人を認める、というこれまでのやり方と逆になっている。だが枢機卿は「中国側は、”最後の言葉”は教皇にあるのだから、教皇の権威は確保される、と言っているが、何が”最後の言葉”かが問題なのです」と語った。合意がなければ、中国政府は妥協する方向での圧力を感じ、バチカンの判断に注意を払うが、彼らの手に力をゆだねれば、彼らはそれを最大限に利用する、と警告し、「もともと教皇は中国政府から教会の長として認めれもらう必要はないのです。(そのようなことをしなくても)彼らは教皇を認めています。教皇を恐れているのです。それなのに、今、教皇の側近たちは、その権威を捨てるように進言しているのです。教皇はこれまで、教会が正式に認めた司教に辞任して、破門した司教にポストをあけるように求めたことは一度もなかったのです」と強調した。

 また、「彼は今の中国を知らない」と批判する声に対して、陳枢機卿は「私は中国の教会神学校で1989年から1996年まで教えた経験があります。自分自身の経験から、現在の中国のカトリック教会は中国政府に完全に屈従させられているのを知っており、香港を訪問する中国の人々から常に新たな情報を得ています」とし、そうした情報の中で、現在は、二人の司教を現在のポストから外し、政府公認の司教の就任を認めることに焦点が当たっているが、他にもバチカン非公認の5人の司教がいる。そのうちの二人は妻子を持っていることでよく知られているが、『そのような証拠はない」と彼らを擁護する者もいる。

 また、中国政府が認めていない地下教会の30人の司教を、政府が認めるだろう、とされているが、実際に実行されるかどうか、枢機卿は疑問を呈した。「本当に、地下教会の司教として働くことが認められるのでしょうか。そんなことはあり得ない。籠の中に入れられるのです。恐ろしいことです。中国政府は地下教会を抹殺しようとしているのです」「多くの善意の司教たちが虐待を受けながら戦っています。ですが、合意ができれば、彼らは未来への希望を失ってしまう」と訴えた。

 枢機卿が信徒たちを殉教に追いやろうとしている、との声があることについては、「私はそのようなことを祈ったこともありません。でも、神が私たちに信仰の証しをお求めになるのでしたら、それはありがたいことあり、お力をくださるでしょう」と語った。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

このエントリーをはてなブックマークに追加
2018年3月12日