・「暫定合意は、中国のカトリック教会”殲滅”の大きな一歩」陳枢機卿が米有力紙で警告

(2018.10.27 「カトリック・あい」)

 バチカンが中国政府との間で、中国国内のカトリック司教任命について暫定合意書を取り交わしてから一か月経ったが、いまだに暫定合意の具体的内容は明らかにされず、「正式合意」への進展も明らかになっていない。

こうした中で、自身も中国国内で1996年まで教会活動の先頭に立った経験を持ち、中国の戦後のバチカンとの関係と現在の実情に精通している前香港司教の陳日君枢機卿が、米ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し、「暫定合意は、中国における真のカトリック教会の”殲滅”への大きな一歩だ」「教皇フランシスコは中国共産党を理解されていないように見える」と強く警告した。

 陳枢機卿が22日付けの同紙に寄稿したもので、バチカンが中国の共産党政権と外交関係を断った1950年代以降の、中国おけるカトリック教会の活動、教会の指導者たちの中国政府への対応、時々の教皇の対中問題への対応などについて、概略を説明したうえ、現教皇のフランシスコは共産主義について楽観的、優れた司牧者だが、彼が活動してきた南米は歴史的に軍事政権と金持ち階級が一体となって貧しい民衆を抑圧し、民衆に見方をしたのは共産主義者たちだったことから、教皇も共産主義者たちに自然な共感を持っているのかもしれない、との見方を示した。

 また、対中政策の実質的な最高責任者であるバチカン国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿は「教会のことより、外交面での成功を気にかけており、彼の最終目標は、中国との国交の正式な回復だ」としている。

 このようにバチカンが対中政策で前倒しの政策を進める中で、中国のカトリック信徒たちは信仰を守るために苦労を強いられ、圧力はさらに強まっている、と枢機卿は述べ、中国政府が今年初めに、宗教活動に対する規制を強化して以来、信徒たちは逮捕される危険からミサへの参加にも消極的になっている、と「地下教会」(注:教皇に忠誠を誓い、中国政府・共産党の監督・支配を拒否している司教、司祭、信徒たちの教会)の司祭たちは、現地から枢機卿に訴えてきている、という。

 そして、3日から始まった「若者シノドス」には、中国政府公認の「地上教会」の司教2人が参加したが、枢機卿はこの寄稿で「いったい誰が2人の派遣を決めたのか。彼らは中国政府と近い関係にあることが知られている。彼らのシノドス参加は、中国にいる善良な司教たちに対する侮辱だ」と強く批判した。

 枢機卿によれば、現在、中国には「地上教会の」司教が約70人いるが、「地下教会」の司教は30人だけだ。「中国当局は『あなた方は我々が選んだ7人を司教と認め、我々はあなた方の30人を認めよう』と言う。これは有利な取引のように聞こえるが、30人は『地下教会』の司教としての機能を続けることを認められるのでしょうか。そうではありません」と断言する。「彼らは、いわゆる『司教協議会』に入ることを強制されるでしょう。すでに”鳥かご”にいる司教たちと一緒になるのを強制され、その鳥かごの中で少数派となるでしょう。バチカンの中国との取引は、中国における教会の一致の名の下に行われた、中国における真の教会の”殲滅”を意味するのです」と中国の教会の将来に強い懸念を示している。

 そして枢機卿は「もし私が漫画家なら、教皇がひざまずいて、習近平国家主席に天国の鍵を渡し、『どうか、私を教皇と認めてください』と言っている場面を漫画で描くことでしょう」としたうえで、次のように寄稿を結んでいる。

 「それでも、私は『地下教会』の司教と司祭の皆さんに、こう申し上げることしかできません-『革命を始めることはしないでください。彼らはあなた方の教会を奪っていますか?あなた方はミサ典礼をできなくなっていますか?帰って、家族と共にお祈りください。土に返るまで。事態が改善するのを待ってください。カタコンベに戻ってください。共産主義は永遠ではありません』と」。

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2018年10月27日