・「地下教会の教区長2人退任、後任は政府支持の司教に」と中国共産党機関紙系列ニュースが報道

(2018.12.19 カトリック・あい)

 中国共産党機関紙系列のインターネット版は18日、中国のカトリック汕頭教区長を務めていた「『地下教会』の司教が退任し、中国政府承認の聖職者に交替することになった」と伝えた。

 明らかにしたのは中国共産党の機関紙『人民日報』系列紙で海外のニュースを中心とした「環球時報」の国際版Global Times。

中国人司教のHuang Bingzhang (黄秉章)が18日、中国南部・広東省の汕頭教区長の任命を受けた後、職務を全うすることを誓約した。任命は12月7日付けで発出され、先週行われたバチカンの訪問団と幾人かの中国司教たちとの会合の席で伝達された、という。

 また中国の宗教部門の関係者がGlobal Timesに確認したところによると、前任の88歳になる地下教会のZhuang Jianjian(荘渐渐)司教は退任する。黄司教は「与えられた使命は、当教区のカトリック信徒を一つにし、相違を縮め、それによって教会員たちに対するより良い奉仕という共通の目的を達成することにある」とGlobal Timesに述べた、としている。

 さらにGlobal Timesは「今回の任命は、中国とバチカンの司教任命に関する歴史的合意と双方の温かい関係の中で先週のバチカン代表団の類まれな我が国訪問を受けたものだ」と”論評”している。

 これと併せて、Global Timesは、政府が公認したもう一人の聖職者、Zhan Silu(張思潞)司教が、中国南東部、福建省の Mindong教区長となり、現教区長の地下教会のGuo Xijin(郭希菫)司教は補佐司教の役割を受け入れた、と伝えている。

 また、Global Timesは、今後の中国とバチカンの協議の見通しについて、中国社会科学院のカトリック専門家の話として、現在も、教会の資産や教区の扱いについて話が続いているが、「内容が複雑で、時間がかかるだろう」とする一方、「いつになるかは、中国政府の判断による・・政府は最近、これまで認めていなかった地下教会の司教のうち少なくとも6人を公認していることもあり、政府が承認を与えるのは可能だ」「事情は地域によって異なっており、バチカンと中国政府は、地域の違いに応じて対応を考えることになるだろう」としている。

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【解説】バチカンは”功を焦”らず、国際・国内情勢を冷静に見つめ、「信徒ファースト」の判断を

 Global Timesが伝えた「人事」について、世界の司教人事については逐一公式発表しているバチカンからは、これまでのところ一切の発表はない。

 バチカンは中国政府と9月に中国国内の司教人事について、これまで中国政府が一方的に認め、バチカンから破門状態にあった8人(うち一人は死亡)の”地上教会”である中国天主愛国協会の司教を教皇が承認することで暫定合意した、と発表したが、その具体的内容は未だに明らかにされていない。

 そうしたなかで、教皇が承認し、中国政府・共産党の統制・監督を拒んできた地下教会の司教2人の教区長退任と、この2人のうち75歳の”司教定年”に達していない司教の補佐司教への降格、そして中国国内での宗教活動の統制・監督の権限を持つ中国共産党の機関紙の系列紙が一方的に事実上の発表をしたことに、関係者の間には、地下教会の司教、司祭、信徒を、地上教会に統合し、党・政府の従属化に置こうとする動きの一環、ととらえる声も出ている。

 先の”暫定合意”が果たして、中国のカトリック信徒にとって、望ましいものだったのか、「中国化」の名のもとに、国内の宗教活動への締め付けを強めようとしている中国政府・共産党の”意図”にそったものなのではないか、考えざるを得ない。

 今回”降格”が明らかになった郭司教は、これまで中国政府・共産党の統制・監督下に入ることに抵抗を続け、昨年の聖週間の20日間にわたって警察当局に逮捕・勾留され、いったんは釈放されたものの、今年5月、中国との交渉を進めるバチカンから中国政府・共産党の統制・監督に従っている中国天主愛国協会の司教と共にミサを共同司式するよう求められたのを拒否した後、当局から事情聴取されたあと、再び拘留されるなど、繰り返し圧力を受けていた。

 そうした経過をたどったうえでの、今回の“降格”の”受け入れ”は何を意味すのか、説明の必要もない。この司教の姿に、江戸時代に、幕府の指示を受けた各藩の役人が「ころばないと、お前はもとより、親族にもルイが及ぶ」などと脅迫され、泣く泣く踏み絵を踏んだキリシタンの姿をだぶらせるのは、小論だけではないだろう。

 言い過ぎとの批判を承知で言うなら、明治初年、信教の自由を認めて近代国家の仲間入りをしたはずの明治政府が「浦上十番崩れ」のような信徒迫害をしたにもかかわらず、バチカンは速やかに対応することがなかった。さらに、第二次大戦中に、ナチス・ドイツがポーランドも含む地域のユダヤ人を老若男女問わず拘束し、大量虐殺した際も、バチカンは、イタリアの信徒やバチカンに類が及ぶのを恐れてか、何も手を打たなかった。このような過ちを繰り返すべきではない。

 暫定合意前の6月、アジア地域での宗教関係のインターネット・ニュースを報じるAsia Newsは、中国政府・共産党の管理下にある中国天主愛国協会と中国司教協議会が「中国におけるカトリック教会の中国化のための発展の5か年計画」を開始したことを伝えていた。

 中国のカトリック教会も含めた宗教の”中国化”は2015年、習近平・国家主席が、中国共産党中央委員会直属の機関で諸宗教に対する規制・管理の権限をもつ「統一戦線工作部」の会議で実施を宣言していた。”中国化”は宗教的な表現から、”外国の影響”を排除し、中国文化への同化促進、”外国の影響”からの自立は、教皇の権能を無視し、共産党の指導に従って活動することを意味する、と受け止められている。

 自身も中国国内で布教経験があり、現在も中国の信徒たちと強いパイプを持つ香港名誉司教の陳日君・枢機卿が10月29日から11月1日にかけてバチカンに飛び、教皇フランシスコに、中国の「地下教会」が直面している危機的状況に充分配慮するよう求める7ページにわたる”直訴状”を手渡した。

 書面では、先の暫定合意後、中国政府・共産党の「地下教会」への対応は厳しさを増しており、活動資金の没収や、信徒の逮捕・投獄などが続いていること、中国の教会の実態として、司教選出の自由は与えられていないこと、など実情を詳しく説明している。

 陳枢機卿は11月8日にバンコクに本拠を構えるカトリック・ニュースメディア、ucanews.comのインタビューに答え、「9月のバチカンと中国政府の”暫定合意”以来、『地下教会』の司祭たちは私のところに苦難を訴えてきています」とし、具体的には「政府・共産党が彼らに(注:中国政府・共産党の管理・支配を受け入れる)中国天主教愛国協会への加盟と、『教皇が中国・バチカン暫定合意に署名した』ことを理由に司祭であることの証明書を(注:政府から)取得することを強要されている」と訴えていた。

 暫定合意発表の際、バチカンの外交責任者のピエトロ・パロリン国務長官は「中国のカトリック教会の活動や、教皇庁と中国の当局間の対話のためはもとより、国際レベルで多くの緊張が見られる今日、世界平和の基礎づくりのためにも重要なもの」と意義を強調していたが、その後の中国の動きをみると、むしろその逆に進んでいるようにも見える。

 とくに米国と中国が貿易摩擦にとどまらず、政治・外交、軍事の分野で緊張を強め、米中を中心とした国際情勢が微妙な段階にあり、中国国内では新彊ウイグル地区などでのイスラム教徒、人権活動家への弾圧などの動きが進んでいる現在、中国・共産党の動きに、かりそめにも、一方的な”お墨付き”を与える、あるいは利用されるようなことは、絶対にあってはならない。

 教皇フランシスコは9月の”暫定合意”発表に当たって「過去の傷を克服し、中国のすべてのカトリック信者との完全な交わりを実現するための、新しい道程が開かれる」ことを願われ、「中国のカトリック共同体に福音を新たに告げるために、より兄弟愛に満ちた協力を生き、教会を通してイエス・キリストと、御父の赦しと救いの愛を証しする」ように促された。

 バチカンの関係者が、陳枢機卿や地下教会の司祭、信徒の声をしっかりと受け止め、性急に“功を焦る”ことなく、こうした教皇の願いが真に実現するように、慎重に、賢明に対応することが強く求められる。

 (「カトリック・あい」南條俊二)

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2018年12月19日