教皇、チリ訪問を聖職者の性的虐待への謝罪で始める(CRUX)

 (2018.1.16 Crux  Inés San Martín) サンチャゴ(チリ)発-チリを訪問した教皇フランシスコは16日の最初の一般演説で、教会の信頼を大きく傷つけている司祭たちの弱者性的虐待について改めて謝罪した。

 教皇は「私の痛みと恥を語る義務を感じています。カトリック教会の聖職者たちによって子供たちになされた二度と繰り返してはならない行為に恥じ入っています」と述べ、「私は兄弟である司教たちと共に、犠牲になられた方々に許しを請い、支援のためのあらゆる努力をいしたします。二度とこのようなことを起こさないように確約します」と誓った。

 この言葉は、15日から4日間のチリ訪問の最初の演説として、サンチャゴの官邸「モネダ・パレス」で、同国の政府、民間団体、外交団の代表を前に語られた。

 聖職者による幼児性的虐待事件は欧州と米国を除くと、チリがもっとも多く起きており、この問題へのバチカンと現地教会の対応のまずさが信徒の教会離反に拍車をかけている、と言われている。

 チリにおける問題の中心はフェルナンド・カラディマ神父で、サンチャゴのエリート説教師とされていた人物。何十年にもわたって幼児性的虐待を繰り返したとして有罪判決を受けている。彼を批判する人々は、彼の上司に当たる上位聖職者もこの醜聞を隠蔽した、と批判している。

  同神父の犯罪は1980年代にさかのぼるが、2010年まで明るみになることはなかった。2011年にバチカンが彼を有罪とし、残りの人生を贖罪と祈りで送るように言い渡した。犯行は時効を過ぎていたため、刑事裁判にかけられることはなかった。だが、その4年後に、教皇フランシスコがホアン・バロス司教を軍の指導司祭から南部のオソルノ市に異動させたことで、批判が巻き起こった。同司教は他の二人の司教たちとともにカラディマ神父と親しくしており、犠牲者たちは同神父の犯罪を知っていた、と訴えていたからだ。司教はそれを繰り返し否定している。

 オソルノ市の多くの市民がこの司教の人事に抗議したが、これに対して、司教は「抗議している者たちは『愚かさゆえに不快な体験』をしている」「『左翼主義者』の手先に指導されている」と批判していた。

 2015年3月、この人事が発表された後、バチカンはバロス司教を擁護する声明を出し、「この人事は慎重に調査、検討した結果であり、決定を妨げる理由はみつからない」としていた。

 

「性的虐待に対して、聖職者全員が重い代価を支払う」と教皇

Pope says all pay ‘heavy price’ for abuse scandals, including clergy

Pope Francis meets with priests at the Cathedral, in Santiago, Chile, Tuesday, Jan. 16, 2018. (AP Photo/Alessandra Tarantino)

(2018.1.16 Crux Inés San Martín)サンティアゴ(チリ)発 – チリ訪問中の教皇フランシスコは16日、サンティアゴの司教座聖堂に集まった男女聖職者たちを前に、同国でも問題になっている聖職者による性的虐待に言及し、「多くの聖職者が、そうした身なりをしているというだけで公けに非難される『思い代償』を払っている」と語った。

  聖職者の性的虐待隠ぺいを批判されたチリの司教、隠蔽を否定

(2018.1.17 Crux  contuributing  Editor Austen Ivereigh)サンチャゴ(チリ)発 -教皇フランシスコの訪問先となったチリで幼児性的虐待を繰り返した司祭を隠蔽したとして被害者3人から訴えられているオソルノ教区のホアン・バロス司教たちと、筆者は一時間以上を共に過ごした。司教は2015年3月に教皇からオルソノ教区の司教に任命されていた。

 司教は、やはり問題司祭の元上司だったタルカ教区のホラシオ・バレンズエラ司教とともに隠蔽の非難を浴び、チリ全国で非難の嵐を巻き起こしたが、二人は共同の声明で、被害者たちはバロス司教を「性的虐待の証人だとして訴え、意固地になっている」と批判している。二人の司教は筆者に対して、犠牲者たちの主張は単なる虚偽であり、問題が2010年に表面化する前にはその司祭の性的虐待について全く知らされていなかった、とし、知った時には大きなショックだった、と説明した。

 また問題司祭の行動-金に執着し、権威を振りかざし、残酷な振る舞いをし、口汚くなっていった-は十分に知る立場にあったにもかかわらず、二人の司教は、彼の政敵虐待を見たこともなく、隠蔽して放置したこともない、と言い張った。

 これまでのところ、被害者たちの訴えを裏付ける証拠はなく、民法上も教会法上も取り上げられていない。だが、問題司祭による性的虐待は疑いのないことであり、チリや外国のメディアは犠牲者たちは真実を述べている、と見ている。実際に、このサンチャゴで、バロス司教の無実を信じようとする人を見つけるのは難しい。

 バチカンの司教省が2014年に、それまで10年に渡って従軍司教を務めていたバロス司教をオルソノ教区長に任命することを決めた際には、国内の批判が極めて強かったことから、同国の使用司教たちは任命に反対し、教会にとって大惨事になると教皇に撤回するよう訴えていた。だが、教皇はバロス司教の無実を信じ、2015年初めにスペインのイエズス会の黙想の家で30日の黙想をしていた彼の任命を決定通り実行した。

 この問題について、司教は筆者に、自分は教皇の意志に忠誠を誓い、教皇が最良の裁判官だと信じている、と述べた。

 だが、2015年3月のバロス司教の着座式には、チリ司教協議会議長をはじめ主要司教たちが欠席、着座式ミサは抗議の人たちで大荒れとなった。(バロス司教は抗議行動を予想していたが、暴力行為への対応を準備せず、ただ嫌悪した、と言っている。)

 教会と社会の流れに抗して、バロス司教をあくまで支持する教皇の決断は、教皇がこれまでにした決断の中で最も大胆、あるいはおそらくもっとも無謀なもの、とされるに違いない。この決断は、教皇が設置した性的虐待対策委員会の被害者代表委員二人が、このような教皇の対応が問題司祭の性的虐待の犠牲者たちの声を「無視している」と強く抗議し、彼らが委員を辞任する原因の一つを作ってしまった。

 教皇を強く批判する人々の中には、オソルノ教区の司祭、信徒のグループもいる。彼らは、現地教会の感情を踏みにじる権威主義的な振る舞いが大きな負担になっている、と訴えている。2015年5月の水曜恒例の一般謁見の際、チリから来た巡礼者たちが「バロス司教のオルソノ教区長への任命で苦しめられている」と教皇に訴えたことがあったが、教皇は「オルソノ教区は何の証拠もなしに司教を裁くことで頭がいっぱいになっている」とし、「自分の頭で考え、左翼主義者の扇動に乗らないように」と諭し、「神の言葉に心を開かず、愚かな者たちによってもてあそばれているために、オルソノ教区は苦しんでいるのです」と聞き入れなかった。

 この言葉は思慮を欠いていたかもしれない。「侮辱」として、チリのメディアで際限なく繰り返し伝えられた。だが、これが反対運動についての教皇の見方を反映しているのは疑いがない。実際のところ、バロス司教のオルソノ教区長への任命を批判する人々の中には、左翼の過激派や反バロスを標榜する団体「一般信徒組織」も社会主義者の集団に属しているのも事実だ。

 そうした背景のもとで、16日の教皇フランシスコの性的虐待問題についての言葉は、政府や民間団体代表に対する謝罪と聖職者たちとの黙祷を伴って特別に大きな意味をもったものだった。

 チリの社会と犠牲者たちに対して、性的虐待を犯した者たちの罪と犯罪を全面的に心から詫び、教皇は余裕を持って、聖職者たちに教会の内的生活への打撃に焦点を当てることができたようだ。

 バロス司教によれば、オソルノ教区の混乱は続いているが全体として正常に戻りつつある。自分を受け入れない小教区が二つあり、35人の司祭のうち自分を認めない司祭がわずかにいるが、抗議はなくなっている、という。司教たちも、教皇の決定を受け入れるようになった、と付け加えた。

 「あなたたちが愛する教会はどのようなものですか?」教皇は16日の聖職者との会見で問いかけた。「イエスの傷に命を見出す傷ついた教会を愛しますか?」

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

 

 

 

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2018年1月19日