・新使徒憲章の主眼は、教理省に優先する「福音宣教のための部署」の新設(Crux)

(2019.4.22 Crux Rome Bureau Chief Inés San Martín)

 ローマ発-教皇フランシスコが6月にも公布予定の新使徒憲章で示されるバチカンの統治機構改革の最大の目玉は、福音宣教を担当する”スーパー官庁”の設置となりそうだ。今週27日発行予定の週刊誌”Vida Nueva“の新使徒憲章に関する記事で、スペインのジャーナリスト、ダリオ・メノール・トレス氏が明らかにした。

教皇の宿願であるバチカンの機構改革を主題とす新使徒憲章は、教皇の指示を受けた枢機卿顧問会議が中心になって数年にわたる検討の末に、このほど最終案がまとまり、現在、世界各国の司教団、主要修道会などから意見を聴取中だ。

「 Praedicate Evangelium=福音の宣教(仮題)」と題する新使徒憲章で最も注目されるのは、「福音宣教のための部署」で、バチカンの官庁の中で“The Supreme Congregation(最上位の省)”と呼ばれてきた教理省をしのぐ最も重要なバチカン官庁となるとみられる。

 教理省は、異端審問所を起源とし、現在のバチカン官庁の中で最も古い歴史をもつ。内部関係者は今でも「検邪聖省」と呼び、カトリックの教理を守り、広め、教会を異端から守る役割を果たしてきた。現在では、教理擁護に加えて、未成年性的虐待で訴えられた司祭を裁く役割も担い、それだけのために17人の幹部職員が配置されている。

 新使徒憲章でもう一つ注目されるのは、バチカンの官庁がこれまで、上位の「congregation(省)」とそれより低い地位にある「pontifical council(評議会)」に分けていたのを、全ての独立した官庁の呼称を「dicastery(部署)」に統一することだ。教皇フランシスコが就任以来、すでにバチカン組織の再編統合が一部実施され、「信徒・家庭・いのちの部署」と「人間開発のための部署」が生まれているが、この呼称を全面的に適用することになる。

 福音宣教のための”スーパー部署”は、現在の”宣教地域”を監督・指導する「福音宣教省」と欧米諸国の急激な世俗化に対処するために名誉教皇ベネディクト16世が2010年に開設した「新福音化推進評議会」を統合する形で、新設される。

メノール氏の記事は、インドのオズワルド・グラシアス枢機卿とホンジュラスのオスカー・ロドリゲス・マラリアガ枢機卿とのインタビューをもとに書かれた。二人の枢機卿は、教皇がバチカン改革への助言を得るため設けている枢機卿顧問会議の創設時からのメンバー。

マラリアガ枢機卿はVida Nuevaに掲載される記事で「教皇フランシスコはいつも、『教会は宣教する者です』と強調されている。ですから、私たちが教理のための部署ではなく、福音宣教のための部署をトップに位置付けるのは論理的なこと」「このようにして、教皇は、全ての神の民に対して、改革の重要なシグナルを送られるのです」と新設される福音宣教のための部署の重要性を強調している。

グラシアス枢機卿もVida Nuevaのインタビューで「新しい使徒憲章の重要なポイントは『教会の使命は福音宣教にある』です。これを、教会とバチカンが行う全てのことの中心に置くのです。『福音宣教の部署』はバチカンの筆頭部署になるでしょう。新使徒憲章のタイトル(Praedicate Evangelium)は、福音宣教が、何ごとにも優先する重要な目的だ、ということを示すものです」と語った。

 CruxはこのVida Nuevaの記事の事前報道を独占的に行う権利を得ている。同紙によると、教皇は聖ペトロと聖パウロの祝日である6月29日に、この新使徒憲章に署名される見通しだ。

 先にCruxがグラシアス枢機卿とのインタビューの内容として伝えたように、憲章の最終案は世界各国の司教協議会、バチカンの各省トップ、そして他の教会幹部に送付し、5月末を回答期限として意見・提案を求めている。意見・提案をもとに必要な修正を加え、6月25日から27日にかけて開かれる次回の枢機卿顧問会議で再度、検討が加えられたうえで、教皇の署名に至る予定だ。

 新使徒憲章では、福音宣教の部署の他、「慈善活動のための部署」の新設、教育省と文化評議会の統合も予定されている、という。また、教皇フランシスコが聖職者による性的虐待に対処するために新設した未成年保護委員会は、機能を強化するために、教皇庁の機関とすることになる、とされている。

 メノール氏の記事によれば、新使徒憲章は教皇庁を「教皇と司教団に仕える」存在と位置付けている。マラリアガ枢機卿はインタビューで「使徒たちの後継者として、司教たちは、教皇庁で働いている人々の下に置かれるような教会的な立場にはありません」と述べ、したがって、この憲章が合意されれば、どれほど小さな教区の司教であろうと、バチカンの部署のトップと同等の力を手にすることになる、と説明した。

 この憲章が承認されれば、25年間の試行期間に入り、バチカンの部署はもはや、現地教会を教皇のために管理・監督する機関ではなくなり、世界中の司教たちに仕えるものとなる。教皇と司教団の間に入る”身体”ではなくなり、両方に使える組織となる。

 新設される慈善活動の部署は、現在、”関連機関”と位置付けられている「教皇慈善活動室」を吸収する形をとり、国務省と新設される「福音宣教の部署」に続く位置づけとして、慈善活動がカトリックの信仰の重要な要素であることを思い起こさせるものとなる。原資は、教皇が受ける献金とバチカン中央銀行からの借り入れとなる見通しだ。

 これらの機構改革は、すでに発足、活動中の信徒・家庭・いのちの部署」と「人間開発のための部署」、そして「広報の部署」に続くもの。マラディアガ枢機卿はインタビューで、新使徒憲章はカトリック信徒たちに、教皇フランシスコの就任当初に抱いた希望を取り戻させる手がかりになる、とし、「神の民に、教皇フランシスコの精神による改革への新たな勇気づけられる展望をもたらします」と述べ、さらに、憲章が、教皇がこれまでに出された主要文書、「福音の喜び」「ラウダー・ト・シ」「(家庭における)愛の喜び」から多くを取り入れている、と説明。

 グラシアス枢機卿も、「私個人としても新使徒憲章がこのような内容でまとめられたことに満足しています… 表面的で中身の無い変革でない、というだけでなく、すでに始まっているメンタリティ-の変革に弾みをつけることになるでしょう」と強い期待を示している。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

 

 

 

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2019年4月23日