・教皇の新枢機卿14人任命に七つの評価(Crux・解説)

(2018.5.20 Crux Editor John L. Allen Jr.

(ニュース解説)たぶん、教皇のひとつの行為で、自らの後継者を選ぶことになるであろう枢機卿を選ぶこと以上に重いものはないだろう。だから、教皇が、教会の最上級のクラブに新メンバーを招き入れる時、そこに常に、教会の現在についてだけでなく、将来の方向についての強力なメッセージが込められているものだ。

教皇フランシスコが20日、教皇選挙権を持つ80歳未満の11人を含めて14人の新枢機卿を選んだ。そして、今回の新任について、イラク、パキスタン、ペルー、マダガスカル、そして日本から選んだことをもって、「教会の普遍性の精神を込めた」と説明した。

今回の新任で特筆すべきものが7つある。

1.「サコ枢機卿」に込められたイラクへのメッセージ

 2016の枢機卿会議で、教皇は、シリア駐在のマリオ・ゼンナリ・バチカン大使を、現在のポストのままで枢機卿に任命する、という教皇の外交慣例からは予想外の人事を、シリアの教会の苦しみと連帯する強い声明とともに発表した。20日の今回の新枢機卿任命でも、イラクに関して同様のことが意図された。それは、イラクのルイス・ラファエル・サコ、カルデア典礼バビロニア総大司教を枢機卿にしたことだ。これらに共通する狙いは、”イスラム国”による破壊行為と、シリアでの血みどろの内戦に苦しむ彼ら個人だけでなく、彼らが活動しているキリスト教共同体社会に、強い関心を向けることだ。

 教皇は、世界の様々な地域でキリスト教徒が迫害されることで作り出される広範な”血の教会一致”に言及しつつ、「現代の殉教者」について繰り返し語っている。教皇は、ゼンナリとサコの二人を枢機卿にすることで、迫害されている彼らの教会の声をもっと世界の人々に聞いてもらえるような、大きな”メガホン”を、彼らに与えたのだ。

 サコの枢機卿任命が、イラクに新政権が作られるタイミングで行われたことにも意味がある。宗教的な多様主義の重要性と少数派であるキリスト教徒の安全を、新政権に求めるメッセージとなるからだ。

 さらに、サコは教皇フランシスコが教皇が任命した枢機卿として、東方典礼カトリック教会からの二人目となる。教皇が彼を枢機卿顧問団のメンバーに入れるとすれば、それは、「教皇の顧問団に自分たちの声が反映されない」という東方典礼カトリック教会の従来からの不満に応えることになるだろう。

2.「ベッチウ枢機卿」の狙いは 

 「ベッチウ枢機卿」も関心を呼んでいる。彼は現在、大司教で、バチカン最強の官庁、国務省の長官代理、ナンバー・ツーだ。枢機卿への任命は、バチカンの財政改革から対中国外交政策のカギを握る役割を果たす、フランシスコ教皇政治の実際の権力者としての地位を固めることになる。枢機卿が(国務長官である)枢機卿の下に入る、ということは極めて不自然であり、近い将来、ベッチウは他のポストに就くとの見方も出ている。注目されるのは、彼が現在のポストで同じ影響力を行使し続けるのか、それとも、実際に、転出するのか、ということだ。

3.“教皇庁の非中央集権化”はこれまでか?

 教皇フランシスコがバチカンの官僚体制を弱体化するために、官庁のトップは枢機卿が務める、という伝統を壊すのではないか、枢機卿が官庁のトップとなることは重要ではない、大事なのは権力よりも奉仕だ、と考えているのではないかと、しばらくの間は見られていた。

 だが、結局は、少なくともいくつかのケースで、「伝統のけん引力はとても強い」ということになったようだ。教皇は、歴史的に教理の監視機関として強い力を持つ教理省の長官とローマ教区教皇代理の二人がこれまで大司教だったのを、枢機卿に任命したのである。(形式的には、ローマ教区教皇代理は教皇庁には属していないが、実際の機能はその役割を果たしている。)

 教会学的に、あるいは神学的にどうであろうと、バチカンにおける現実政治の世界では、しばしば枢機卿にいかなることもさせるのだ。教皇代理について話せば…。

 4.デ・ドナーティスに注がれる眼差し

 今年4月、異例の事態が起きた。教皇フランシスコが、新使徒的勧告「 Gaudete et Exsultate」の 全世界に向けた発表を、教皇庁の高位聖職者が行う慣例を無視して、当時まだ大司教のンジェロ・デ・ドナーティス・ローマ教区教皇代理に任せたのだ。このことは、彼が教皇の好意と信頼を得た重要な盟友、という評価を確固としたものにした。教皇が彼に初めて会ったのは、2013年に教皇になって間もない時期、ローマで高名な10人の司祭を集めた彼が主催する昼食会の席だった。以来、何度も会見を重ね、ローマ郊外で行われる恒例の四旬節の黙想にも呼ばれた。「おそらく、その機会に、展望を深く分かち合えたのだと思います」とデ・ドナーティスは4月に語っている。そして、その直後に、教皇は、彼をローマ補佐司教に、次いで教皇代理に選任していた。デ・ドナーティスはフランシスコの重要な盟友であり、言い方と変えれば、教皇が行くところにはどこにでもついていく”首鈴付き羊 “なのだ。

5.きわめて教皇と近しい枢機卿たちと、そうでない枢機卿たち 

 フランシスコに限らず、教皇が必ずしも常に新任の枢機卿を個人的に知っているとは限らない。そして、おそらく、今回もマダガスカルと日本のような場合がそれに当てはまるだろう。その一方で、個人的な知己もいる。これまでに挙げたベッチウとデ・ドナーティスに加えて、教皇慈善活動室責任者のコンラート・クライェウスキ大司教がそうだ。彼は長年、フランシスコの盟友であり、54歳という若さで、今後の教会における重要な評価基準に位置付けられることになった。

 この三人は、少なくともこの点で、強固な塊-フランシスコが選挙権を持つ11人を含む新枢機卿14人の中で”最上位の三人”とみなしている人々-と見て間違いないだろう。

6.米国からの新枢機卿は”一休み”

 昨年の新枢機卿任命で、フランシスコは米国から一挙に三人の枢機卿-ケビン・ファレル(前ダラス大司教で、現在「信徒・家庭・いのちの部署」長官)、ブレーズ・クピック・シカゴ大司教、そしてジョセフ・トービン大司教(当時はインデアナポリス大司教区長、直後にニューアーク大司教区長)-を選んで関係者を驚かせた。これまで枢機卿団に米国人はおらず、今回また、米国出身の新枢機卿はゼロに戻った。

 枢機卿に選ばれる可能性として、いつも名前が挙がっているのは、ロサンゼルスのホセ・ゴメス大司教だ。彼が枢機卿になれば米国史上初のスペイン系枢機卿になるだろう。もう一人はフィラデルフィアのチャールズ・シャプー大司教。”兄弟愛の町”の教会トップは伝統的に枢機卿だからだ。教皇フランシスコのやり方であれば、次に米国から選ばれる枢機卿は、どの教区からも選ばれる可能性があるが、今回はそうならなかったのは確かだ。

 7.権力の中枢を抜かしたが…

 教皇フランシスコが枢機卿を新任する際の習慣となっていることの一つは、通常は一国の教会権力の中心とされている所を抜かして、重要ではあり得ない所から枢機卿を選ぶことがある、ということだ。その好例がイタリアだ。世界の”超大司教区”の一つであり、教区長は枢機卿であることが当然のようにされてきたミラノ教区のマリオ・エンリコ・デルピーニ大司教を枢機卿に任命せず、代わりに、ラクイラのジュゼッペ・ペトロッチ大司教を枢機卿に選んだ。ライクラはイタリア中部の人口約6万7000人の都市。アブルッツォ州の州都でラクイラ県の県都でもあり、2009年4月に、イタリア中部地震に襲われ、死者308人を出す被害を受け、現在も復興の過程にある。

 それでも、伝統的な力の中心が無視されたわけではない。今回選ばれた教皇選挙権を持つ11人のうちイタリアは3人を占めている。次回の新枢機卿選任で何か起きようとも、イタリア勢が枢機卿団で過小評価されることはあり得ないだろう。

 (「カトリック・あい」南條俊二)

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2018年5月22日