・教皇、性的虐待隠ぺいでチリの大司教と司教2人を解任(CRUX)

 ローマ発―教皇フランシスコが、聖職者による性的虐待を隠ぺいしたとして訴えられているチリの大司教1人と司教2人の辞表を受理した。チリでは先月、同国の司教全員が辞意を教皇に対して表明していたが、教皇が受理したのはこれが初めてだ。

 3人の事実上の更迭はバチカンが10日、教皇の決定として発表した。3人はバロス司教のほか、プエルト・モントのクリスチャン・カロ・コルレド大司教とオソルノ南部のホアン・バロス、バルバライソのガルシア・デ・コルタザール両司教だ。

 コルレド大司教とコルタザール司教はいずれも75歳で、現役司教の事実上の定年を迎えていたが、バロス司教は2015年に教皇から任命されたばかりで、61歳。この任命は、地元信徒たちや同国で小児性愛で最も悪名高い司祭の犠牲者たちから、強い批判を浴びていた。

 教皇は今回の決定に続いて、マルタのチャールス・シクルナ大司教ら2人の高位聖職者を12日からチリに派遣、14日に性的虐待問題が最も深刻なオルソノ入りして、被害者への補償とケアなどを含めて抜本的な対策の推進を指導させる見通しだ。

 バロス司教を2015年1月に任命して以来、教皇は、何回も彼を弁護していた。同年5月に、チリ司教協議会の前広報担当者がバチカンで一般謁見に参加した際、教皇は彼に、現地教会が”頭をなくした”、政治家のあるグループが”何の証拠もなしに”裁くのを許している、とし、「頭で考えなさい。反対を一緒にする左翼主義者たちに手玉に取られないようにしなさい」と語った、と言われている。教皇の言った「左翼主義者たち」とは、チリ議会の51人の議員を指しており、その大部分が、バロス司教任命に反対を表明したミシェル・バチェレ元大統領の社会主義政権を支持していた。
 今年1月のチリ訪問でも、教皇は改めて、バロス司教を弁護する発言をしていた。同司教は、2011年にバチカンから幼児性的虐待で有罪とされたフェルナンド・カラディマ神父の霊的指導を受けていた4人の司教の1人だったが、教皇は「バロス司教に対する証拠を提示されたら、対応しましょう」と記者団に語り、さらに「そのような証拠は一つもない。まったくの中傷」としていた。
 チリ訪問を終え、帰国の途上でも、「彼が司教に就任した後も、調査を続けていますが、証拠はあがっていない…私は彼に有罪を宣告できません。証拠がないからです。彼の無実を確信しています」を語ったが、この発言は、カラディマから性的虐待を受けた被害者たちとオソルノ教区の信徒たちから激しい非難を引き起こした。

 だが、教皇の帰国から10日後、バチカンは、教皇がシクルナ大司教ら2人を現地調査のため派遣することを決めた、と発表。2人はまず、カラディマの被害者の1人が住む米国に向かい、それからチリに入った。そして64人の関係者から聞き取り調査をし、2600ページに上る報告書をまとめて、教皇に提出。教皇は、これをもとに、チリ司教団あてに書簡を送り、「私は、チリの状況についての判断で、信頼できるバランスの取れた情報の不足から、重大な間違いをしていた」ことを認めた。

 その後、チリの司教団がバチカンに召喚され、司教全員が教皇に辞表を提出して、その2週間後に、カラディマの被害者のうち3人がバチカンに呼ばれ、さらに、先週末、他の被害者とかれらのケアをしてきた人々が、教皇と会見した。

 バロス司教は、カラディマに指導・教育を受けた4人の司教のうちの1人だが、現在は、健康上の理由により、司牧活動はしていない。4人はいずれもチリのサンチャゴ大司教区の補佐司教とチリ・カトリック大学の副学長の前歴がある。バロス司教に対する訴えは大部分が、カラディマの幼児性的虐待を隠ぺいしたことについてだ。

 もう一人の司教は幼児ではなく、若い神学生に対する性的虐待のほか、物理的、精神的な虐待でも訴えられている―たとえば、キスを強要されて拒んだところ、公衆の面前でぶたれた、というものだ。被害に遭った神学生は虐待や隠ぺいの事実を教会上層部に訴えたが、何の措置も取られなかった、といい、チリ司教協議会も、地元紙の取材に対し、その司教に対する調査は過去も現在も行われていない、と答えている。

 また、今月初めにこの問題で教皇と会見した司祭9人のうちの1人、ハビエル・アスタブルアガ・オサ神父は、この地元紙にこの問題について2008年に手紙を送り、さらに、チリのバチカン大使にも複数の文書を提出した、とし、大使に会う前に、教皇顧問会議のメンバーであるハビエル・エラスリス枢機卿とも面談したが、枢機卿はカラディマの性的虐待を隠ぺいしたとして訴えられている。オサ神父は「私が出した情報が個人的な犠牲を伴う可能性があることは知っていますが、教皇は私たちに真実を語るように言われ、お話ししました」と語った。

 先の4人の司教たちに加えて、聖職者による性的虐待を隠ぺいしたとしてさらに複数の司教たちが訴えられており、その中には首都サンチャゴ大司教長、リカルド・エザッチ枢機卿、先週までチリ教会の性的虐待防止全国委員会の委員長だったアレハンドロ・ゴイク司教なども含まれているが、2人とも司教定年の75歳を超えており、先のバチカン召喚前に辞表を出していた。

 バチカン召喚から何週間か経って、さらに、聖職者による性的虐待に関係する複数の醜聞が明らかになった。教皇がチリ司教団に送った秘密文書には氏名が明記されており、文書の中で教皇は「司教たちの更迭は『必要なこと』だが、十分ではない」と述べ、さらに、チリ教会の高位聖職者たちに対して、聖職者による性的虐待に関する証拠を破棄し、訴訟を最低限に抑えるように教会付きの弁護士に圧力をかけ、性的虐待が確認された司祭たちを他の小教区へ異動させ、小児性愛嗜好の司祭たちから子供たちを守ることについての『重大な怠慢』について、強く責任を問うている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2018年6月12日