・幼児性的虐待への対応で一段と深まるチリ教会の危機(CRUX)

(2018.5.26 Crux 

 ローマ発 – 司祭による幼児性的虐待とその対応をめぐって起きているチリのカトリック教会の危機が、連日のように明らかになる問題で、さらに深刻化している。チリ司教団は先週ローマに呼ばれ、教皇フランシスコから直接、性的虐待とその隠ぺいについて事情聴取を受けた後、全員が教皇に辞表を提出していたが、また新たな問題が表面化した。

 新たに明らかになったのは、聖職者による幼児性的虐待の訴えの受け付けを担当していたチリの司祭が、本人自身も性的虐待をしていたことを表明後、今年1月初めに辞任させられていた事実。首都サンチャゴの大司教区事務局長を務めていたオスカル・ムニョス・トレド神父で、教皇のチリ訪問の二日前の1月2日に職を解かれた。このことはチリの地元紙El Mercurioで明らかにされ、La Tercera紙が、大司教区の声明で確認した。声明は「この司祭は、自分自身が性的虐待をしたことを報告した。慎重な調査の結果、彼を教区事務局長および教区司祭としての職を解いた」とし、「虐待行為は教会の施設内では行われなかった」としている。

 新たに首都大司教区事務局長も、性的虐待認め、辞任

 ムニョスはまた、公的な司牧を行うことも禁じられ、さらに詳細な内部調査も始めれた。報告は、バチカンで聖職者による性的虐待問題を担当する教理省に送られたが、政府当局に対しては告訴されていない。教会当局は、告訴の判断は被害者が行うものだ、としている。したがって、被害者の氏名などは明らかにされておらず、成人か幼児かも不明だ。教会法では司祭による幼児性的虐待の案件は教理省が専門に担当する、とされているが、被害者が成人の場合に、教理省に報告することを、現地司教に禁じてはいない。 フェルナンド・カラディマ神父-チリの問題深刻化のもとになった、同国で幼児性愛者として最も悪名の高い神父-から性的虐待を受けた犠牲者の一人、ホアン・カルロス・クルス氏によると、ムニョスは、同神父を訴える文書を受け取っていたが、その後、「何も(問題に対処する動きは)起こらなかった」という。  クルス氏は先月、バチカンで教皇に謁見したカラディマによる性的虐待の犠牲者で生存している3人の一人。バチカンには6月、さらに同神父から過去20年間に性的虐待を含めた暴力などの虐待を受けた被害者9人が出向く予定だ。 カラディマについての訴えが最初にされたのは2003年半ば、被害者アンドレス・ムリリョによってだった。彼は、サンチャゴ大司教区事務局の次長として2003年8月から勤務を始め、2011年に事務局長になった。事務局長は大司教区における活動、文書のすべてを管理すると、同大司教区の規則に定めれている。

 司祭、信徒団体からも”隠蔽司教”辞任を求める声

 カラディマの悪行を隠ぺいしたとして訴えられている4人の司教の1人、ホレイショ・バレンズエラ司教は、ローマから帰国した後、司教区の司祭たちと会い、教皇との会議の結果を説明したが、説明の場にいた司祭の1人、セルジオ・ディアス神父は、司教に対し「あなたは性的虐待問題に取り組んでこなかった」として、教区長を辞任するよう率直に求め、さらに、「カラディマの仲間」とされていたトミスラフ・コリャティック司教が隠ぺいに携わっていた、と糾弾した。 ディアス神父はこれに加えて、チリ駐在のバチカン大使、イボ・スカポロ大司教についても、「ある司祭が数人を性的に虐待し、そのうちの一人は自殺している」との報告を受けていた(そして対応を怠った)「悪人」と、異議を唱えた。大使は、神父が犠牲者の何人かを連れて会う約束をしていたにもかかわらず、後になって面談を拒んだという。 このようなディアス神父の主張に対して、バレンズエラ司教は何も反応を示していないが、スカポロ大司教とコリャティック司教は神父の指摘を否定。コリャティック司教は「ディアス神父はそのようなことは言っていない。虐待問題は調査が行われ、バチカンに報告している。対応が遅れているのは、自分の責任ではない」と述べているが、性的虐待の犠牲者の1人で侍者を務めていたクリスチャン・アルカイノ氏も「コリャティック司教は、訴えについて教区の司祭と話したが、回答はなく、電話も無視された」と、隠蔽行為を指摘している。 スカポロ大司教は声明を出し、「この件について知らせを受けたことはまったくない。ディアス神父と面談の約束をしたことはない」と全面否定しつつ、「神父が訴えている事の深刻さは認識しており、調査のための委員会を開きたい」とも述べている。 二人の司教の教区の一般信徒の団体はいずれも、「ディアス神父の発言は信用できる、神父は我々の想いを代表してくれている」との立場だ。チリの司教全員から出された辞表の扱いについて、教皇フランシスコの判断はまだ出ていないが、両団体は「バレンズエラ、コリャティック両司教は、教皇の判断を待たず、辞任すべきだ」としている。

 チリ大統領も「罪ある司教は皆、辞任すべき」と

 「性的虐待に背金がある司教は皆、”家に帰る”べきだ」‐チリのセバスティアン・ピニェラ大統領は地元テレビtvnで24日放送されたインタビューで、こう語った。大統領は、チリ中部のランカグア教区で連鎖的に起きた性的虐待について言及する中で語ったもの。教区長のアレハンドロ・ゴイク司教は、La Familiaという司祭の友愛団体とその会員が幼児に対する性的虐待を含めた違法な性的行為をしたとする被害者たちからの訴えを無視した、として訴えられている。大統領は「このことは私を痛撃した。長期にわたって行われてきたからだ」と怒りを述べた。

 さらに、チリの教会で起きていることに「私は二つの理由から、強い怒りを覚えている」とし、まず、「神に一生を捧げ、他の人々に奉仕する男たちがこのような野蛮で、残酷な、虐待行為を我が国の子供たちに対して行ってきた、というのはとても理解しがたい、ということだ」と指摘。だが、一番、心が痛むのは「教会の上層部が、この問題に速やかに対処せず、子供たちを保護する対策をとらず、誤った対応-組織防衛-に走ったことだ」と強調した。

 また、大統領は、性的虐待をした司祭を別の教区に移動させるという行為が「教会に、致命的な損害をもたらした。なぜなら、そのことが、カトリック教会の上層部に対する信徒、国民を信頼を失わせたからだ」と高位聖職者たちの対応を糾弾した。

 インタビューの最後に、自身がカトリック信者の大統領は、残された希望は、教皇フランシスコの「毅然とした、明確な(幼児性的虐待に対する)姿勢が、教会の真の存在意義を取り戻すような、変革をもたらすことだ」と語っている。

(「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

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2018年5月28日