・バチカン”金融スキャンダル”で新たな局面-教皇側近は総反撃に(Crux)

2019.10.22 Crux  Editor John L. Allen Jr.)Facing fresh charges of financial scandal, all the pope’s men strike back

Cardinal Oscar Andres Rodriguez Maradiaga, right, makes space for Pope Francis under his umbrella as they leave at the end of a morning session of the Synod of bishops at the Vatican, Thursday, Oct. 11, 2018. (Credit: AP Photo/Alessandra Tarantino.)

 ローマ発 -今から十年前の2009年、当時のイタリア司教団の新聞の編集局長、ディノ・ボッフォをめぐって、同性愛の不正行為が騒ぎとなり、誰が彼を嵌めたかについて憶測が飛び交った。多くの人が、バチカンの国務長官、憲兵隊長官、バチカンの新聞編集局長が関与しているという観測をした。それに対して、バチカンは最終的に反論を出すまで18日間も沈黙を続けた。しかも、その反論について、イタリアのある日刊紙が「バチカンはすべてを否定する…誰もそれを信じない」という見出しで報じていた。

 ローマでの21日の動きから判断すると、教皇の側近全員が「歴史を繰り返させない」という決意を固めているようだ。バチカンをめぐる金融スキャンダルについての記事を掲載したイタリアで最も広く読まれている週刊誌が20日に、21日に同スキャンダルに関する新刊本が相次いで発行されるに至って、有力な教皇側近の2人が反撃した。

 「起こっていることは、私たちの信用を落とすための計略そのものと思われる」と、枢機卿顧問会議のメンバーで教皇の最側近の1人、オスカル・ロドリゲス・マラディアガ枢機卿が、イタリア最大の日刊紙、La Repubblicaへのインタビューで語った。

 「彼らは教皇職に打撃を与えたいのです。最初、彼らは小児性愛者の集まりとして教会を非難したが、今は、経済的な無軌道ぶりを取り上げようとしているが、そんなことは無い」と断言した。

 6月に(注:バチカンの不動産とソブリン債投資を管理する)聖座財産管理局(APSA)の局長に任命され、教皇の信任あついヌンツィオ・ガランティーノ司教は、イタリア司教団の新聞Avvenireとのインタビューで、バチカンの会計には「”ひび割れ”や債務不履行などはありません」とし、「問題の本の試し刷りを読みましたが、スキャンダラスな書きっぷりは本としてはいいのでしょうが、教会のような複雑かつまとまった組織を描くにしてはお粗末です。”秘密”とか”正道を踏み外した”とかいう表現には合わない」と批判した。

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 バチカンの財務・金融をめぐる記事は、イタリアのジャーナリスト、エミリアーノ・フィッティパルディとジャンルイージ・ヌッツィによるもので、バチカンの内部調査のメモを含む漏洩文書に基づいていると言われている。 2人は、「Vatileaks II」として知られる2015年のバチカンの機密財務情報のすっぱ抜きで、バチカンの検察官から告発されたが、最終的には「管轄違い」ということで立ち消えになった。

 フィッティパルディが20日付けのイタリアの有力週刊誌 L’Espressoに載せた記事によれば、バチカンの国務省が、世界の教会から集められ教皇の慈善事業支援にあてられる「聖ペトロ使徒座への献金」から、2億ドルを引き出し、ロンドンの高級住宅街チェルシーにある有名デパート・ハロッズ所有の倉庫群の一部を高級マンションへの転用目的で購入し、さらにバチカンの「宗教事業協会」(通称「バチカン銀行」)に残りを購入するために1億5,000万ドルの融資を求めた。バチカン銀行は、金融取引に関して新しく定められた規則に従って、バチカンの司法当局にこの件を報告した、司法当局が調査を始めている。

 これに対して、マラディアガ枢機卿は「慈善活動のための資金が流用された」との報道を否定し、「『聖ペトロ使徒座への献金』が金融目的に使われることは無いし、私はそのようなことは聞いたことがない」と言明した。また、現在バチカンで教皇も参加して開かれているアマゾン地域シノドスの時期に、この報道がなされたのは「偶然ではない… 地域シノドスで扱われている重要議題のほかに、この問題を載せようとしたものと考えざるを得ない」と批判した。

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 一方、ヌッツィが21日に出版した単行本「 Final Judgment」は、バチカン財政の問題を取り上げ、「バチカンは収入の減少で財政危機に直面しており、債務不履行に陥るリスクの水準に達している」としたうえで、「バチカンの真の財政状況を明確に把握できない原因の一つは、聖座財産管理局(APSA)に秘密の口座が存在し、無名の個人の債権を隠していることだ」と指摘した。

 これに対し、ガランティーノAPSA局長は「書かれていることは全て偽、ないしは誇張されている」と反論。「APSAには、秘密あるいは暗号コード化された口座はない。反論の証拠がある」と述べ、「APSAには、聖座、関連団体、バチカン市国政府以外に、個人やは法人の口座はない」と否定した。

 そして、現在、歳出について見直しを進めていることを認めたうえで、「人件費と材料の調達を抑えるために歳出を見直す必要があり、現在、細心の注意と注意を払ってそれに取り組んでいるが、いわゆる”債務不履行”の恐れはない」と言明。「私たちが話しているのは、歳出を抑えねばならない、ということを自覚する必要がある状況についてです… 良い家庭やまじめに国で起きるのと同じことです」と語った。

 ガランティーノ局長はまた、財政金融の論争と情報漏出は、教皇と彼が進める教皇庁改革をめぐる内部抗争の産物、との見方を否定。「『教皇の教皇庁への対応に反対』というのは、使い古されたジャーナリスティックな決まり文句だ」とし、「私たちは皆、収支の均衡を図り続けている。私たちは教皇の意向を正確に、それだけを目的にやっている…そうしたことを語る以外の現在の状況についての記事は、まったくの創作、「ダヴィンチコード」(注:米国の人気作家、ダン・ブラウンがカトリックを題材に書いた長編推理小説)を想起させます」と批判している。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2019年10月23日