・バチカン福音宣教省がマカオに神学院開設、”新求道共同体の道”に運営委託(LaCroix)

(2019.8.5 LaCroix Vatican City  Claire Lesegretain=with Fides and Vatican news)

Cardinal Fernando Filoni, Prefect of the Congregation for the Evangelization of Peoples. (Photo by DAVID CHANG/EPA/MAXPPP)

 バチカン福音宣教省がこのほど、アジアにおける宣教を目的とした神学院をマカオに開設し、運営を Neocatechumenal Way(新求道共同体の道)委ねることを決めた。.

 同省のフェルナンド・フィローニ長官がバチカンの Fides news agencyとのインタビューで明らかにしたもので、同共同体運営のレデンプトリス・マーテル神学校はアジア地域のための司祭育成を進めることになる、と述べた。

 7月29日付けで、福音宣教省が来年9月にマカオに神学院を開設し、アジアにおける宣教活動をする司祭を育てることになった、と報じている。

 マカオに神学院を開設することについて、VaticanNewsは、マカオは長い間、ポルトガルの植民地となり、1999年12月に中国に返還されたが、「アジアにおける宣教の歴史の中でマカオは重要な地位を占めており、イエズス会士のマテオ・リッチ、フランシスコ・ザビエル、アレッサンドロ・ヴァリニア―ノもマカオを通って、中国や日本に向かった歴史がある」と、神学校開設の意義を強調。

 フィローニ長官も「このような経過も考慮し、私たちは現地のステファン・リー・ブン・サン司教に、神学院開設を打診。司教は、教区の司祭たちとの協議をもとに、前向きに対応してくださった」と説明した。

 神学校の名称は「レデンプトリス・マーテル」神学院で、 Neocatechumenal Way(新求同共同体の道)が運営する。同団体は、スペインのマドリードで1964年に芸術家のキコ・アルグエロが福音宣教を目的に創設。カトリック教会が不在、少数の国に教会の存在を確立したり、世俗化が進み困難な状況の中にあるカトリック共同体の存在を強めるために、証しと暮らしを通して、彼らのメンバーを働かせることに主眼を置いている、という。一方で、同団体は、バチカンの福音宣教省に”教会法上、依拠”している、とフィローニ長官は説明。福音宣教省は、現在も、教皇ウルバノ13世が1627年に設立し、アジア、アフリカから170人の学生を受け入れているウルバノ大学の運営権限を持っている。

 長官は「教会の宣教の歴史の中で、アジアに福音を伝えるために、様々な形や様式が取られてきた」とし、イエズス会士、ドミニコ会士、フランシスコ会士などや、様々な会が活動してきたことを挙げ、(注:ピオ12世の1957年の)回勅『フィデイ・ドヌム(信仰の贈り物)』発出と司祭、教区間の協力などが進み、「今、聖霊は、私たちがこれから経験するであろう新たな形を示されています」と述べた。、

 また、福音宣教省がこの新たな神学院をNeocathecumenateに託す理由について、長官は「委託を受ける能力」と「アジアでの宣教のための司祭育成の長い経験」を挙げ、「この大陸での、福音宣教には、特定の育成-特に、アジアの状況と言語についての深い知識を育てることーが必要だ」と説明した。

 そして、この新神学院設立は、新たな1000年期の初めに、「偉大な諸宗教の揺り籠(注:となった歴史的背景)と素晴らしい文化的感性が、この大陸を福音化する」と言明された「聖ヨハネ・パウロ2世の直感」を明確に示すものであり、キリスト教が始まって最初の1000年の間に、キリストの十字架が欧州の土に、次の1000年期はアメリカとアフリカの地に根付いたように、第三の1000年期には、この広大で活力あふれる大陸で、信仰の大きな実りが刈り取られることを、私たちは願うことができる」と、ヨハネ・パウロ2世は1999年に使徒的勧告 Ecclesia in Asia(アジアにおける教会))」で述べている。

 長官によれば、教皇フランシスコは、前任者の業績を受け継ぎ、「司祭育成の学校は、非中央集権化の考えかたにより、異なった大陸に設けることができる」と確信しておられる、という。そして、今回のマカオへの開設が最初の一歩となる、という。「今後、同じような神学校が、福音宣教省の手で、他の大陸にも誕生することになるでしょう」と語り、司祭育成は「哲学、神学を学び、各地を巡回する宣教活動を通して」なされ、「現地教会にとって貴重な司牧の助けとなるだろう」とも語った。

 また、この神学院の神学生は、使徒的な友愛の会や修道会に属さず、アジアの様々な教区で、「現地司教の要請に従って」教区に入籍し、神学生として勉強を始める段階から、その国の言語と文化を学ぶことになるだろう、とも述べた。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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*東京に計画され、抵抗にあって断念した神学院をマカオに-宗教弾圧強める中国政府・共産党との関係は

(2019.8.7「カトリック・あい」解説)

 バチカン福音宣教省はもともと、「アジアにおける福音宣教のための司祭養成」を目的にNeocatechumenal Way(新求道共同体の道)に委託する形で、「レデンプトーリス・マーテル神学院」を東京に本拠地とすることを計画し、決定の形で昨年夏、日本の司教団に一方的に通知、これに司教団の中から難色を示す声が出され、紆余曲折の挙句、今年6月、福音宣教省のフィローニ長官から「教皇様ならびに新求道共同体の道の代表と協議の結果、同計画を見直すことを決定した」と事実上の計画撤回の通知が、菊地・東京大司教宛てに伝えられていた。「レデンプトーリス・マーテル神学院」のマカオ設置の決定は、同省のこのような経過を踏まえた判断とみられる。

 日本ではかつて、同団体の神学院が高松教区に設立されていたが、小教区に派遣されたNeocatechumenal Way共同体の司祭たちが、独自の司牧を展開し、信徒たちの間に深刻な分裂をもたらした結果、日本の司教団が閉鎖を求め、2009年にいったん閉鎖された。

 その際、再開を希望する場合は、混乱が繰り返されないよう十分な事前協議が必要と伝えていた。だが、その後、当事者であるネオカテクーメナートの責任者やバチカンの福音宣教省から、誠意のある説明が日本の司教団にあった、あるいは突っ込んだ話し合いがされた、とは伝えられておらず、そうした中での、一方的ともいえる神学院の再設置通告に、過去の問題の再燃を懸念する日本の司教団の中から強い難色を示す声が出ていた。

 今回のマカオへの新神学院設置で、日本との関係では問題がひとまず終わったことになるが、懸念されることが二つある。一つは、日本を含むアジアの宣教の指導、調整の権限を持つバチカン福音宣教省(長官と次官補がNeocatechumenal Wayのメンバーと言われる)が、今後、日本の教会にどのような対応をするのか、”意趣返し”のようなことをーこのようなことを考えざるを得ないこと自体、福音宣教の立場から全く情けない話だがーしてくるのではないか、という懸念だ。すでにその兆候が具体的にみられる、との見方もある。

 このことより、深く懸念されるのは、福音宣教省が「アジア宣教の司祭育成の拠点」としてNeocatechumenal Wayの神学院を開設するマカオの地政学的問題だ。ポルトガルの植民地だったマカオは、英国の植民地だった香港とともに、1999年に中国に返還され、それまでの民主的な政治・社会制度を維持する中国の特別行政区とされている。だが、香港で現在大きな抵抗運動が起きている中国政府による”本土への併合”の動きは早晩、マカオについても起きるだろう。

 香港の人々が抵抗しているのは、中国本土で進行する信教の自由を含む人権の弾圧の動きが、本土への併合で、香港でも現実のものとなる可能性が強いためだ。同様の危険が目前に予想されるマカオに神学院を置き、しかも、将来の本土への育成司祭の派遣を念頭に置こうとする福音宣教省とNeocatechumenal Wayは、現実をどのように見、どのように対応しようとしているのだろうか。新疆ウイグル地区でのイスラム教徒弾圧に象徴される中国政府・共産党の政策を受け入れ、”中国化”に協力し、カトリックやプロテスタントの”地下教会”の粉砕に協力し、”福音宣教”を進めるのがいい、と考えているのだろうか。

 杞憂に終わることを祈りたい。

 

 

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2019年8月7日