・カトリック教会の性的虐待で、国連委員会がイタリア政府に苦言(CRUX)

ローマ発-国連の「子供の権利委員会」が7日、聖職者による性的虐待への対処についてイタリアを非難する報告書をまとめ、「児童がカトリック司祭によって性的に虐待された数多くの案件があるにもかかわらず、わずかな調査、刑事訴追しかなされていない」ことに疑念を呈するとともに、独立かつ公正な調査委員会による実態究明を求めたことが明らかになった。

 子供の権利保護の専門家で構成される同委員会は国連・子どもの権利条約の順守状況を聴くため、イタリア政府関係者を1月22,23両日、ジュネーブの国連高等弁務官事務所に召喚。イタリア政府がカトリック教会における児童性的虐待に”連座”している、とされている問題が中心に扱われた。

 この場で、イタリア政府は移民、難民の子供たちに関して弱者の権利保護と、国内全域での注意喚起活動の実施状況について説明を求められたが、聖職者による性的虐待問題にも時間が割かれた。委員会は、児童に対する性的搾取防止のための政府の政策を問うとともに、政府として「カトリック教会の聖職者たちによる児童性的虐待の全ての案件について検討する独立、公正な調査委員会の設置」するよう求めた。

 報告書はこの他、「聖職者による性的虐待の全ての案件に関する公明正大で、効果的な捜査、訴えられた加害者の刑事訴追、有罪とされた者に対する徹底した刑事罰、現在成人している人も含めて被害者たちへの補償とケア」も提言している。また、虐待による被害を子供たちが安心して訴えられる窓口を開設し、有罪とされた加害者が彼らに近づけないような確実な体制をとることも、イタリア政府に求めた。

 委員会は1月のイタリア政府からの聴聞の席で、イタリア政府とバチカンが1929年に結んだ現行のラテラノ条約第4条が「教会は、聖職者による虐待についてイタリア当局に報告をしなくてもよい」と解釈できる内容になっている、と指摘していたが、報告で、イタリア政府に「加害者が処罰を免れることのないよう、児童性的虐待が疑われる聖職者を刑事訴追するにあたっての障害を、バチカンに取り除かせるためにあらゆる努力を払う」ように要請した。

 委員会は2014年2月に出した報告書で、バチカンが、子供たちの保護よりも教会と加害者の司祭たちの評判を「組織的」に優先する「沈黙の規範」を大事にしている、と批判するとともに、堕胎、避妊、同性婚に関するカトリック教会の教えを変えるように求めたが、今回の報告書では、「児童性的虐待に関するいかなるケース」も、イタリア政府に報告することを、教会に義務付けることの重要性を強調している。また、欧州議会が2007年に署名した「性的搾取と性的虐待に対する児童保護に関する協定」にカトリック教会の代表も加えるように、イタリア政府に提言している。

 今回の報告書について、イタリアで唯一の聖職者による性的虐待の被害者ネットワーク Rete L’abusoは高く評価している。代表のフランチェスコ・ザナルディ氏は「とても満足しています。国連が私たちの訴えを認めてくれたことは、大きな力になる」と語った。同ネットワークは、4大陸の18カ国の被害者で作る団体「Ending Clerical Abuse Global」にも参加し、昨年6月から、同委員会に資料を送って来た。

 イタリアでは、他の多くの国と同様、聖職者による弱者に対する性的虐待の被害件数やその正確な実態の掌握が難しい。教皇庁立グレゴリアン大学の児童保護センター所長で教皇庁の弱者保護委員会の委員であるハンス・ゾルナー神父によると、イタリアの状況は教区ごとに違っている可能性があり、「この問題に迅速かつ組織的に対応している教区もありますが、多くの教区の対応はとても遅れています。この問題に対応する有能な人材が不足していることも原因です」と説明する。

 Rete L’abusoは、国連の委員会のイタリアの調査に協力しているが、教皇フランシスコがこの問題に対処するために招集した21日からの全世界司教協議会会長会議を前にして、重要な役割を果たしている。同会議の準備にも関わっているゾルナー神父は「彼らの活動は、21日からの会議を、イタリアも含めた世界の各国司教協議会が様々な対応を加速する契機となる方向に効果を上げています。この会議は時宜を得たものであり、当然ながら、成果を出さねばなりません」と語っている。

 イタリアの司教団は、すでに2014年版に代わる、弱者保護の新たな指針を策定し、虐待防止に力を入れており、イタリア司教協議会として、被害者と聖職者を支援する全国ネットワークも作った。だが、虐待被害の実数は彼らにとっても、まだ明確になっておらず、最近の記者会見で具体的な数字がないことを認めている。

 ゾルナー神父は「数字はともかく、他の多くの国と同様、イタリアでは幼児性的虐待の問題が広く知られ、頻繁に報道されています」と述べ、メディア、聖職者、そして社会によって、これまでの(注:隠ぺいの)文化が大きく変わってきている、と指摘する。そしてこう語った。「問題は存在しており、否定すべきではありません...イタリアの教会もあらゆる方法で、決意をもってこの問題に取り組まねばならない」。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

 

 

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2019年2月13日