ボンベイ大司教「快楽主義の文化と無神論的思考が、家庭を脅かしている」Amoris Laetitia司教会議で

(2017.10.17 Crux Contributor  Nirmala Carvalho)ムンバイ(インド)発―教皇フランシスコの家庭に関する使徒的勧告「Amoris Laetitia(愛の喜び)」に関するインドの司教たちの会議が13日から15日にかけてムンバイで開かれ、ムンバイ大司教のオズワルド・グラシアス枢機卿が講演、この勧告が、家庭が福音を率先して活かし、教会の福音宣教の主導的役割を果たすように求めるものであることを強調した。欧米の教会関係者の間で勧告の特定の箇所―離婚・再婚者に対する聖体拝領に前向きな姿勢を示した箇所―をめぐって大きな議論になっていることには触れず、勧告の内容について、関心の持たれた方が、国、地域によって大きく異なっていることを改めて印象付けた。

 グラシアス枢機卿は講演で「Amoris Laetitiaは、キリスト教徒の家族に対する、結婚と家庭と言う贈り物を大事にし、寛大で、忠実、忍耐強い愛のなかで保ち続けるように、との招きです」と強調。そして、米フィラデルフィアのチャールズ・チャプット大司教の「私たちはこれまで現状に安易な妥協をしてきた。現状を理解し、受け入れ、飢え渇きを感じた。その過程で私たちは、時代の『文化』を聖化するように派遣されたのに、逆に脱色され、飲み込まれてきた」という言葉を引用した。

 講演はインドの司教たちを対象としていたが、枢機卿はインド司教協議会の会長であるばかりでなく、アジア地域の司教協議会連盟の会長であり、教皇フランシスコが設けた9人の枢機卿による顧問団の一員でもあり、発言は全世界に向けたものだった。

 そこで枢機卿は、Amoris Laetitiaは現代世界との妥協を呼び掛ける文書ではなく、キリスト教徒の家庭に「キリストの愛と現存を喜んで受け入れ、四方に広め、世界に示す」ように呼びかける文書だ、としたうえで、「マスメディアの悪影響、快楽主義の文化、相対主義、物質主義、個人主義、世俗主義、無神論的な思考、そして道徳の行き過ぎた利己的な自由化によって、多くの家庭が今、文化的、イデオロギー的、社会的、そして精神的な危機の増大に直面している」と警告し、「別居や離婚を求める夫婦の増加、結婚の契約をせずに同棲する人々の増加によって、家庭生活が影響を受けている。片親の家庭も増えている。多くの家庭が、貧困と欠乏、基本的な保健医療と子弟教育も満足に受けることのできない状態にあり、そうした中で、女性たちは家庭と社会の中で差別と抑圧を受けるなど、最も深刻な影響を受けている」と世界の家庭の多くが置かれている現状を分析。実例として、インドにおける女性に対する尊厳の抹殺、持参金をめぐる殺人、堕胎の強制、人身売買などの虐待と暴力の連鎖的な増加を挙げた。

 さらに、インドの現状について、「ストリート・チルドレンたちは、彼らを生んだ親、兄弟姉妹、家庭から、主として経済的な困窮によって、助けを得られず、十分な食事や水も与えられていない。そして彼らの多くは性的、肉体的、精神的に親たちから虐待され、街頭で暮らすことで、児童労働や売春に引き込まれる危険にさらされている」と説明。

  発展途上の国々で起きていると考えられる様々な問題は明らかにはされるが、西側世界で公になされている議論のなかには的外れのものもある。このことは、枢機卿が、アジアを含めていたるところで起きている結婚の破たんと家族構造の変化のような問題を無視している、ということを示すものではないが、このような現象についての、同様の傾向のレンズを通した教皇の論評に彼は目を通していない。

 

 枢機卿は、Amoris Laetitiaの「これらすべての状況は、福音に即した結婚と家庭の実現に導くことのできるチャンスに変えるような建設的な反応を求めています。夫婦たちは歓迎され、忍耐強く、慎重に導かれる必要があります」という箇所を引用して、結婚生活が困難な状態にある人々に「感受性をもって耳を傾ける」必要が、教会にあります」と強調した。

 その一方で、家庭生活に現代のメディアが及ぼしている否定的な側面を指摘、「不貞、夫婦以外との性交、結婚の約束における道徳的、精神的理想の欠落が何の批判もなく書き立てられ、時として、離婚、避妊、堕胎、同性婚を積極的に支持するような論調をとる。こうした報道は共通善を害するもの」と批判し、特に今日の世俗的な社会において「私たちは、生の文化と死の文化のせめぎ合いに直面しています」と強調した。

 さらに枢機卿は「Amoris Laetitia は『人間の生命の価値が偉大であるがゆえに、母胎の中で成長する罪のない赤子の生きる権利を絶つことを、誰も正当化できない。同様に、教会は、強引な延命治療や安楽死でない、自然な死を迎える権利を強く主張します』と明確に述べている」とし、「人工受精、とくに胚芽を壊すような(受け入れがたい)やり方を認める最新の技術が提起する「深刻な倫理的問題」についても指摘した。

 そして、両親、養子を迎え、里子を世話する道を選んだ夫婦は「家庭の愛の力強いしるしと信仰を証しし、尊厳を奪われた人に息子や娘の尊厳を取り戻すチャンス」を創り出しているのです」と力説した。

 最後に枢機卿は、 Amoris Laetitiaはすべての家庭に、福音を率先して生きるように、教会の福音宣教の主導者となるように呼びかけている、として「家庭のどのメンバーも良き知らせを、居心地のいい自分の住まいから表に出て、外周まで及ぶように、ありとあらゆる場所で、熱心に、喜びを持って、皆に宣べ伝える必要があります。私たちはそれぞれの人の良心を、社会の良心を、神を渇き求める心を、生の文化への回帰に向けて、目覚めさせねばなりません」と訴えた。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2017年10月18日