・「素晴らしい言葉、だが今は行動の時」-教皇書簡へ被害者たちの反応(CRUX)

(2018.8.21 Crux Vatican Correspondent Christopher White and Inés San Martín)

 ダブリン発 – 聖職者による性的虐待を原因とする危機に対して教皇フランシスコが20日に出した書簡で、教会が「小さな人々にいたわりを示さず、私たちは放置した」ことを告白したことは、性的虐待の被害者たちに好感をもって受け入れられたものの、関係者の全体としての感想は「それは前にも聞いたことだ」という言葉にまとめられるようだ。

 「バチカンや教皇の声明は、どれほど酷い性的虐待があったか、どうやって説明責任が果たされねばならないか、を語るのを止めるべきです」。性的虐待の被害者でアイルランド人のマリー・コリンズ氏はツイッターに書き込んだ。「そのようなことを語る代わりに、(性的虐待と隠ぺいの)責任をとるために何をしているか、を説明してもらいたい。それが、私たちの聞きたいことです。『今、やっています』と言えるのは、何十年もの対応の”遅れ”について説明することではありません」と強調した。

 教皇が書簡を出した前の日に、コリンズ氏はCruxとのインタビューで、教皇が25日にアイルランドを訪問される際、「お詫びを繰り返す」ことよりも教皇に聞きたいのは、性的虐待を隠ぺいした司教たちに責任をとらせることを保証する具体的な処置についての説明です」と語っていた。(カトリック・あい注・コリンズ氏は、教皇が数年前に設置した弱者保護に関する員会の委員だったが、バチカン官僚などの問題意識の低さ、非協力的な態度に抗議して、他の性的被害者代表と共に委員を辞任している。)

 教皇は書簡で、聖職者による性的虐待の犠牲者たちの「胸を締め付けられるような痛み」に言及し、彼らは「天に向かって叫び」をあげても、「長い間、無視され、黙らされていた」。だが、「彼らの叫びは、それを黙らせようとするすべての手立てを上回る力があり、連鎖に落ち込むことで重大性を増した決断によって、問題を解決しようとさえしました」と述べていた。

 チリの被害者、ホアン・カルロス・クルス氏は、十年以上にわたって、加害者であるフェルナンド・カラディマ神父を糾弾し、同神父の犠牲となった人々を代表してバチカンで教皇と会見していたが、今回の書簡について「バチカンと教皇が、(聖職者による性的虐待について)『犯罪、怠慢、司法当局に委ねる、隠蔽』などの言葉を使っていることを、うれしく思います。書簡はすべて好ましい内容になっている」と評価した。そして、このような用語は、司法当局だけでなく、教会でも通常使われるようになっているが、「いつものことながら、遅れているのは司教たちです」とチリの司教たちの対応の遅さを嘆いた。

 チリの検察当局はこのほど、いくつかの教区とチリ司教協議会本部の資料保管庫を強制捜査し、首都サンチャゴ大司教のリカルド・エザッティ枢機卿を聖職者による性的虐待を隠ぺいした疑いで事情聴取のため召喚。枢機卿は21日に事情聴取を受ける予定だったが、弁護士の求めで、延期されている。

 このようなチリでの動きを見て、クルス氏は「教皇の書簡で、私は大きな希望を持ちました」としつつ、「私たちが受けた(性的虐待の)恐ろしさはあまりにも酷く、心身に受けたダメージは修復しがたい。書簡で安心せず、被害者たちを支援する戦いを続けねばなりません」と言明する一方、チリの司教たちについて「被害者たちを『教会を攻撃しようとする者』と非難することで、今だに自分たちを守ろうと汲々としている者は、教会を去るべきです。時代は変わったのです」と語った。

「言葉を少し抑え、もう少し行動を」

 コリンズ氏と共に教皇の委員会の委員の委嘱を受け、任期前に退任した英国のピーター・サンダース氏は、教皇の書簡についてのCruxの質問状に「Fine words(素晴らしい言葉)。 WORDS??」とだけ、答えた。

 被害者たちだけが書簡に意見を述べている訳ではない。高位聖職者の何人かも、書簡について見解を表明している。自国も性的虐待スキャンダルのただ中にあるオーストラリア司教協議会会長のマーク・コラリッジ大司教は「若い人々、弱者の成人を守ろうとする教皇の決意を、私たちも共有します」としたうえで、「教皇フランシスコから重要な言葉が語られましたが、言葉だけでは不十分です」と被害者たちに同調し、「今は、多くのレベルで行動する時です」と改めて、事態収拾、信頼回復への決意を示した。

 ペンシルバニア州大陪審報告などで、オーストラリアを上回る広域、かつ深刻な事態に追い込まれている米国では、司教協議会会長でガルベストン・ヒューストン大司教のダニエル・ディナルド枢機卿は、司教団を代表して声明を出し、教皇の言葉は「特に司教たちが、行動につなげねばならない」と強調した。

 一般信徒の間でも、同様の受け止め方をする人が多い。米国の人気テレビドラマに出演し、昨年はニューヨーク大司教のティモシー・ドーラン枢機卿が主宰した慈善夕食会で司会を務めた女優のパトリシア・ヒートンさんは、ダウン症の胎児への優性保護的措置に反対するなどカトリックの中絶反対運動のヒーローとして知られるが、ツイッターへの書き込みで、書簡に対して不満を述べた。

 「これは、私の教会についての最後のコメントです(強く抱きしめないで-彼らはひどく怒らせる新しいやり方を見つけているようだ)。私たちはとうとう @Pontifex(注・教皇のツイッター、転じて教皇の意味)からの手紙を手にした、いつもの衣服を切り裂くような苦しみの後で、(行動する)準備をし、実施しようとしている人たちの意に反して、具体的な行動を何も示そうとしない。 ‘Nuf said(注・もう議論はいらないの意味)」と書いている。

 米バージニア大学で National Marriage Projectの事務局長をしているウイリアム・ブラッドフォード・ウィルコックス氏も同じだ。「米国の司教たちの間で指導者の立場で犯した過ちに(更迭などの)実効性のある制裁を行うこと。そうした行動が、言葉に伴わなければ、教皇の書簡の意味はとてもわずかなものでしかない。(性的虐待の隠ぺいなどで退任に追い込まれた枢機卿の)マカリックについて警告されても何もしなかったバチカンの人々のための実効性のある規律を求めたい」と訴えた。

 また、 BishopAccountability.org(司教たちの説明責任を明らかにするブログ)を運営するアン・バレット・ドイル氏は、「そのような具体的な計画を待っていたが、出てこなかった。私は今回の書簡を見て、これまでの書簡を切り抜いて、張り付けたものを読んでいるように感じました。良い考えを繰り返し述べるのが悪い、と言うのではありません。しかし、カトリック信徒たちが現在の事態を終わらせる計画とした強く切望しているものについて、『深刻な読み間違い』があると思うのです」と指摘している。

 彼女は21日、Cruxに「チリの教会の悲惨の状況について申し上げれば、この16年間で初めて、教皇が語り、なさっていることに、とても驚かされました。教会全体の改革が起ころうとしているのかと、思いました」と語った。「初めて、私は信じました…司教たちと高位聖職者たちを罰する新しいメカニズムが出来ようとしている、と考えたのです…でも、この書簡を見ると、教皇ご自身の権力と責任についての認識が欠けているように思われます」と厳しい見方を示した。

「子供たちを第一に置くべきだ」

 聖職者の性的虐待に対応するために教皇が設置した弱者保護の委員会も、教皇の書簡発表の翌日、21日に声明を出し、教皇の言葉と性的虐待の隠蔽に対する説明責任を果たす約束に「勇気づけられた」と述べた。

 同委員会の委員で、教会法の専門家であるミリアム・ウィレン氏は、性的虐待と力による虐待、倫理面での虐待と関連づける教皇の決断を評価しながら、「赦しを願い、修復を望むという対応は、全く不十分です。後ろを見ているだけです。前を向いた対応-子供たちの安全を最優先する文化への大胆な改革を求めること-が必要です」と具体的な対応の必要性を強調した。「教会の評判を守るために、子供たちの安全を第一にすることを明確に規定すべきです。聖職者だけでは、そのような思い切った改革をすることはできないでしょう。書簡で、教皇は(聖職たちに)求めておられます-『謙遜の心をもって、教会共同体全体に助けを求め、助けを受けねばなりません』と。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

 

 

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2018年8月22日