・「性的虐待被害者に耳を貸さなかったことを恥じる」教皇、チリ司教団に改めて書簡(Crux)

(2018.5.31 Crux Vatican Correspondent  Inés San Martín)

 ローマ発―教皇フランシスコが5月31日付けで、チリ司教団に改めて書簡を送り、その中で、「聖職者に性的虐待を受けた犠牲者に『私たちが耳を貸さなかった』こと、そして『すぐに対応しなかった』ことについて、恥ずかしく思う」と 述べた。さらに、犠牲者たちに対し、「あなた方の『耐え忍ぶ努力』がなかったら、浄化の取り組みは始まらなかった」と、感謝の意を示した。

 教皇はまた、「この問題には皆が関与している」ので、対応を誤った司教たちを退出させるだけでは、変革にはならない、と言明。「見直しと浄化を全体と進めるのか可能なのは、あらゆる希望と信頼が裏切られる中で、真実の追及をあきらめなかった意志の固い人々のおかげです―その人々とは、性的虐待、暴力と権力の犠牲者、そして彼らを信じ、ともに歩んだ協力者です」と虐待の犠牲者とその支援者をたたえた。

 全文で8ページの書簡は、31日にチリでの記者会見で明らかにされた。会見は、チリ司教協議会事務総長のフェルナンド・ラモス司教と、チリの虐待防止と犠牲者対応の全国会議の議長に就任したホアン・イグナチオ・ゴンザレス司教が共同で行った。(これまで議長の前任者は、本人が担当する教区での大量の虐待の訴えに対して適切に対応していなかったとして辞任させられていた。)

 書簡の中で、教皇はさらに、「犠牲者たちの叫びは天に届きました。この機会に、私は改めて、彼らすべての勇気と忍耐に感謝したいと思います」と語ったうえで、カトリック教会が、聖職者による性的虐待問題への対処に、外部の協力を必要としていることを強調。「問題への対処は自分たちだけ、自分たちの力と手段だけで出来るようなふりをすることは、すぐに腐敗する危険な動きの中に自分たち自身を閉じ込めてしまうでしょう」と”内部処理”を図ろうとする動きに強く警告し、「助けを受けましょう。そして、”虐待の文化”が生き残る余地のない社会を作り出すのを助けましょう」と述べ、キリスト教徒一人ひとりが「はっきりと、戦略をもって、”気配りと保護の文化”」の創出に一致するよう、強く訴えた。

 そして「私たちの主たる欠陥と怠慢のひとつは、犠牲者たちの声をどうやって聴いたらいいのか知らないこと」であり、「そのために、健全で明確な識別をするための重要な要素を欠いたまま、不完全な結論が作られしまった」と指摘。すぐに腐敗してしまう”虐待と隠ぺいの文化”を『絶対に繰り返さない」ために必要なのは、「(周りの人々と)関係を持ち、祈り、考え、権威を示すやり方に満ち渡らせる”気配りの文化”を創り出すために、全力を尽くすこと」だ、と強調した。

 また、「いつも、私たちは(上位の者に)取って代わろう、黙らせよう、無視しよう、あるいは「神の民」を少数のエリートたちに限定しようとします」、そして「教会共同体、司牧の計画、神学的な裏づけ、崇高な雰囲気、そして枠組みを作りますが、それらには根も、沿革も、顔も、記憶も、体もありません。つまり、命がないのです」と、いまだに、チリの教会も含めて、カトリック教会内部に存在する悪しき傾向を暗に批判した。

 教皇はさらに、チリの性的虐待の犠牲者たちとの対話に触れ、「私ははっきりと知ることができた-彼らの話を『分かって聴くこと』をしていなかったことを、錯誤と怠慢を教会から分からなかったことを、そして『自分自身を前進させるのを妨げていた』のを」としたうえで、「彼ら生存者たちのおかげて知ることができたのは、『善意の表現』以上のことに違いありません」と強調。「責任のある仕方で虐待を事実とし、いつも真実を追い求め、辛い現実を点数を上げる手段とすることのないメディアを正当と認めるのはよいことです」と虐待の犠牲者たちを評価した。

 さらに、多くのチリの教会共同体に生きている「敬虔な心」に光を当て、それを「かけがえのない宝であり、神の心と同じ行為の中で我々の民の心を聴くことを知る真正な学び舎」とし、ご自身の司牧の経験を通して「敬虔な心の空間が、民を聖別する神をいつも抑え、妨げようとする聖職権主義の影響を受けることのない、わずかに残された場の一つである」ことを知った、と語った。

 司祭、一般信徒、聖職者による性的虐待、精神的虐待、力による虐待の犠牲者、そして20年にわたって悪名高い司祭、フェルナンド・カラディマの犠牲者を支援してきた人を代表する9人のグループが6月1日、バチカンで教皇と会見する。また、教皇は近いうちに、カラディマによる性的虐待と教区長だったホアン・バロス司教による隠ぺいが、チリ国内で最もひどかったオソルノ教区に二人の検察官を派遣し、犠牲者たちへの償いと癒しを進めることにしている。二人はすでに今年2月にチリで現地調査をおこない、2300ページに上る報告書を教皇に提出し、これをもとに教皇は、カラディマから性的虐待を受けた信徒たち、チリの司教全員から話を聴いている。

(「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

 

このエントリーをはてなブックマークに追加
2018年6月1日