・「性的虐待の責任追及よりも”虐待の文化”改める”回心”が必要」教皇、米国司教団に書簡

(2019.1.3 Crux National Correspondent Crsitopher White)

 教皇フランシスコは3日、シカゴにある神学校で一週間の黙想を始めた米国の司教たちに書簡を送られた。

 聖職者による未成年性的虐待問題で大揺れを続ける米国のカトリック教会の責任者たちにあてた8ページにわたる書簡で、教皇は、”責任追及”に関心を持つ行政管理者である以上に、謙遜と一致に基礎を置いた「団体指導責任を持った霊的教父」によって特徴づけられる指導者としての司教たちによる「新たな教会の活動期」を迎えるように求めた。

 米国の教会の苦境に対する処方箋の提示に先立って、教皇はまず、教会の信用失墜という疾患を診断し、病因は、性的虐待の「悪行と犯罪」だけでなく、それ以上に、「そのことを否定したり、隠したりするのに汲々としたこと」にある、と指摘。そうしたことの結果、「信徒たちの間に、将来への不安、不信、傷つきやすい心が強まった」と嘆かれた。

 さらに「聖職者、男女の修道者、そして一般信徒によって、身体と心を踏みにじられ、性的に虐待された全ての犠牲者の人生は、激しい動揺の時を過ごしてきました。そのような動揺と苦しみは、犠牲者の家族、そして神の民すべてのものでもあったのです」と指摘され、「状況の深刻さからみて、対応が十分でなかったことを、私たちは知っています」と教皇は述べられた。

 今回の米国司教団の黙想は、教皇の求めによるもの。教皇は昨年9月に米国の司教協議会の代表団と、米国教会の性的虐待危機に火を付けた前枢機卿のセオドール・マカリック大司教に対するバチカンの捜査を米が要請したことについて協議。教皇は、要請を承諾せず、代わりに、危機対応の一環として司教たちによる集団黙想を求めていた。書簡の中で、教皇は、ご自分はこの黙想に物理的に参加することはできないが、”言葉”で、共に黙想ができるようにしたい、とされた。

 教皇は、米国教会を翻弄している「虐待の文化」を認めたうえで、「このような悪行と犯罪が引き起こした痛みは、司教たちの霊的交わりにも、深刻な影響を与え、生きている体のどこにもある『健全であり、必要な不適合と緊張』ではなく、『分裂と離散』を引き起こした」と厳しく指摘された。

 そして、今後の進むべき道を示す中で、教皇は、司教たちの失墜した信頼の回復は「まるで私たちが人事・管理の担当者であるかのように、厳しい規則を出したり、単に新たな委員会を作ったり、作業手順を改善したりすることでは、達成できません」、そのような対応は、司教の役割を小さくし、教会を「福音宣教ビジネス」における運営管理者か組織運営者にしてしまうだろう、と警告。

 管理運営に心を配るよりも、米国の司教たちに必要なのは、祈り、権力、資金、そして広く世界とのつながりについての対応を改める、新たな考え方を追求することだ、と強調された。端的に、教皇は「虐待の文化」を改める「司牧的回心」を改めて求められた。

 またご自分が米国教会に求める「新たな教会の活動期」とは、様々な単なるアイデアではなく、神の民の間での霊的な識別によって引き起こされるもの、とし、「私たちのカトリックの教えが危機に瀕している」と警告したうえで、「試練と苦難の今の時が、私たちの兄弟の交わりを脅かす時であることを、私たちは知っています…しかし、今の時が、神の恩寵が私たちのキリストとの結びつきを保ち、信頼できるものとする時ともなり得る、ということも知っているのです」と教皇は述べた。

 さらに、司牧者にとって互いの、そして大きな羊の群れとの和解に必要なのは、積極的に聴き、失敗から学ぶこと、身を守るような振る舞いをすることではない、と注意を与えた。

 教皇は書簡の最後に、司教たちが負った課題-聖性を取り戻し、信頼を回復するために努めること-信頼は「全ての人、とくに主の心に最も愛されている人への謙虚で寛大な奉仕」によって証明される、と改めて強調した。

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 今回の司教黙想会の初めに当たって、全米司教協議会会長のダニエル・ディナルド枢機卿は教皇にメッセ―日を送り、黙想の日々を、教会によって苦痛を味合わされたと感じている全ての人の痛みと希望を共有して過ごす、と誓った。

 同時に、「未来が、私たち自身だけでなく、神によっていることを思い起こすことに感謝します。希望は、キリストにおいて見出すべきもの。キリストにおいて、希望は揺るぎないものとなります」と述べ、「聖なる父、私たちはまた、祈りと司牧であなたに近づきます… 世界中の痛み苦しみへのあなたの証しが、私たちを強めてくれます。私たちの黙想の日々が、普遍教会の霊的交わりを反映するものとなりますように」としている。

 教皇は昨年4月、やはり聖職者の性的虐待で危機の最中にあるチリの司教団に、今回と同様の書簡を渡している。教皇は昨年1月にチリを訪問された際、性的虐待危機へのご自身の対応について、各方面から批判を受けた後、4月にチリの司教団をバチカンに召喚したが、書簡はその際に出され、ご自身の「重大な誤り」を認めたうえで、幾人もの高位聖職者が性的虐待を犯した者たちを隠蔽した問題へのご自身の対応について謝罪していた。

 米国の司教たちは、2日から8日までの黙想期間中に、教皇付説教師ラニエーレ・カンタラメッサ師から、毎日二回、黙想指導を受けている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

 

 

 

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2019年1月4日