・「世界の繁栄とアジアの平和で日中が背負うべき責任は」-東京・北京フォーラムで(言論 NPO)

政治・経済・安全保障の専門家8氏が新時代の日中協力の姿を議論

 初めに、日本側司会の宮本氏は、「世界の状況をどう展望し、その中で中国と日本の役割をどう考えていくのか、各分野の視点から答えてほしい」と議論の視点を提示し、議論が始まりました。

中国が示す二つの将来像

続いてマイクを握った日本側の五百旗頭真氏(公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長)はまず、これまで世界をリードしてきた米国の存在が、日中関係の今後を考えるにあたっても重要になってくるとの見方を提示。

五百旗頭氏は、歴史家の観点から、「孤立主義」と「世界を思うままに支配する米国」という両極の間で揺れ動いているという、米国政治の特徴を描き出しました。具体的には、「初代大統領ワシントンが掲げた孤立主義を長く続けてきたが、二つの世界大戦に巻き込まれた経験から、日ごろから積極的に国際政治に関与すべきだと考えるようになり、ブレトンウッズ体制と国連という新しい秩序をつくった。ところが戦後70年が経ち『大国疲れ』が出てきて、トランプ氏のような指導者が登場するようになった。しかし、現在の中国への姿勢にみられるように、世界の課題に全く関与しなくなったわけではない」と分析。その上で、「孤立」と「単独での世界支配」のどちらも極論であり、各国が密接につながった今の世界では持続不可能である、と話しました。

一方で五百旗頭氏は、米国と並ぶ超大国の立場を築こうとしている中国にも「両極」はある指摘。まず、歴史上、東アジアの超大国として長く超法規的に振舞ってきたとし、「伝統がそうなので、現在でも何も考えずにそのような行動をする危険がある」と発言。一方で、清朝末期以降、列強の支配に屈した「100年の屈辱」を経験していることに触れ、この両者を経験していることが中国の特徴だとしました。

さらに、改革開放以降の30年間、年10%の成長を続けてきた中国の成長が戦後日本の発展と異なる点は、経済力に加えて軍事力を、伝統的に国力の両輪としてきたことだと指摘。「米国などは冷戦後、中国が発展すれば責任あるステークホルダーになると期待し、WTOなどの仕組みに迎える関与政策を進めてきたが、今ではそうした期待はなくなっている」との見方を提示し、「2008年のリーマンショック時に4兆元の経済対策で世界経済を下支えしたことで、実力を隠して力を蓄える『韜光養晦』を卒業する時が来た、というナショナリズムが強まり、東シナ海や南シナ海の現状変更に対する米欧日の警戒感につながった」と解説しました。

一方で、習近平主席が、中国が自由貿易や地球環境など世界の課題解決をリードする考えを示していることに言及し、中国の将来像として、「他国を尊重し国際公共財を支える国」と「『100年の屈辱』を乗り越えた、米国と並ぶ大国」の二つが示されている、と分析。「これからの中国はどんな文明国になるのか」と問題提起しました。そして、自身が周王朝の遺跡で目にした文書「天の道を尊び、民を慈しむ」を引用し、「力はあるが過度な行使は控え、他国を尊重するのが尊敬される国だ」と中国側に呼びかけました。

米中「熱戦」を避けるため日本の役割が重要

次に五百旗頭氏は、米中対立に関連し、米政治学者グレアム・アリソンの研究によれば「最近500年で新興国が既存の覇権国に挑戦した15回のケースのうち、戦争を回避できたのは4回だけだ」と紹介。このうち、妥協不可能と思われた米ソ冷戦が「熱戦」に至らなかったのは、核兵器をもし行使すれば相互が壊滅する状況にあったからだ、と語り、その状況は今後の米中にも当てはまるがゆえに、米中の熱戦は回避しなければいけない、と主張しました。そして五百旗頭氏は、覇権争いが戦争に至らなかった「4回」に同じく含まれる英米間でそうであったように、双方が相手を尊重、理解していく努力が必要だ、と訴えました。

最後に五百旗頭氏は日本の役割について、「米中両国と密接な関係を持ち、安倍首相は米中の両首脳と良い関係にある。米中対決が深刻化を食い止める、国際ルールの再編を進める役割を果たすべきだ」と強調。そして、「それはトップだけでできる話ではない。官民の英知をまとめ未来を切り開くビジョングループの役割が重要だ」とし、その舞台として本フォーラムの場も活用し、「人類史の大きな課題を平和のうちに超えていく努力を尽くしたい」と決意を述べ、発言を締めくくりました。

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日中関係は正常軌道に戻りつつあるが、根本的な解決には至っていない

中国側からは、この5月まで駐日大使を務めていた程永華氏が発言。同氏は、「中日関係は今や正常な軌道に立ち戻り、改善基調にある」との見方を提示した上で、6月の安倍首相と習近平主席の首脳会談で合意した「新時代の日中関係の構築」を実行に移し、両国相互の課題や国際課題での協力を進めるべきだ、と主張しました。

そして、2日前に言論NPOなどが発表した「日中共同世論調査」に基づき、四つの問題を提起しました。

まず、政治・安全保障面での相互信頼が足りない、と指摘。両国関係は正常軌道に戻りつつあるが、根本的な解決には至っていない、とし、「お互いに脅威にはならない」と確認した2008年の日中共同声明を実際の政策に落とし込み、国民の合意にする努力が必要だと訴えました。

次に、相手国や日中関係への認識が中国では大きく改善し、日本では停滞もしくは悪化している、という民意の非対称性に言及し、この背景に中国人訪日客の急速な増加による直接交流の拡大があると指摘。日本の国民にも、中国への修学旅行などを通した顔の見える交流の増加を求めました。

また、程永華氏は第三に、貿易・投資など、首脳間でも確認した実務的な協力の質を高めること、第四に、世界が100年に一度の不確定な時代を迎える中、多くの共通の課題に直面する日中が二国間だけでなく地域や世界の繁栄に貢献することの重要性を訴えました。

世界のデカップリングによる最大の被害者は日中両国

7月まで経済産業事務次官を務めていた嶋田隆氏は、世界の経済秩序という観点から日中の役割を語りました。まず嶋田氏は、トランプ米大統領の出現やイギリスのEU離脱、欧州の極右政党の躍進などは症状にすぎず、根本原因は国際経済全体の地殻変動にある、と指摘。具体的には、第一に、グローバル化と技術進歩と高齢化による社会の分断。第二に、経済と安全保障が一体化し、米中対立においても貿易紛争から技術覇権に焦点が移っていること。第三に、環境や金融などの世界課題で、各国政府ができることと実際の問題とが乖離していることを挙げ、こうした根本原因に向かい合わない限り、問題は深刻化していくという見通しを示しました。

さらに嶋田氏は米中両国の状況に言及。まず、米国人のWTO幹部が「大きなシステムの変わり目には、米国にはシステム自体を否定しながら改革することが許されている」と、現在の局面を1971年のニクソンショックと同列にとらえていることを紹介。米国の政治家だけでなく実務の専門家がそう考えていることは、日中とも深刻に受け止める必要がある、としました。

一方で、中国については、構造改革と経済安定運営の両立を図るために相当緊張感のある政策運営をしている、と述べ、外資規制緩和などの進展を評価。ただ、水際の国境措置を開放するだけでなく、補助金や国有企業などの国内制度をどこまで改革するかが問われているところに問題の本質がある、と述べ、これが中国の構造改革が進みにくくなっている原因だ、と指摘しました。

そして、米中両国で経済のデカップリング論が出ているが、日中とも戦後の相互依存体制の最大の受益者であり、デカップリングの影響を最も受けるのは日中だ、と指摘しました。

最後に嶋田氏は、こうした状況を乗り越えるための三つのキーワードを提示しました。

第一は「多層性」、つまり二国間だけでなく有志国や地域、多国間の枠組みで国際世論を盛り上げながら課題に向かい合っていくことです。嶋田氏は、自身の通産省時代、保護貿易に反対する国際世論を形成していくことで、相手国内の多様な世論を動かした経験に触れ、今の貿易問題でも、日中あるいはアジアが連携して具体的なアクションを働きかけていくことが最も重要だと語りました。

第二に「相対化」。政治や安全保障で国家間が勢力を競う世界から、プラットフォーマーと呼ばれる企業がルールよりもコードで経済の仕組みをつくっていく状況に変わっているという視点を持つべきだと述べました。

第三に、「プロジェクト」の推進について、中国の資金・人材面の強みに加え、そしてデジタルを使った社会変革で必要な官民融合のアプローチがあることを指摘。そうした具体的なプロジェクトを進めながら多層性をもった交渉をし、根本原因にアドレスすることが必要だと主張しました。

CPTPPと一帯一路の融合が新たな経済秩序につながる

一方、中国の経済分野からは、曹遠征氏(中国銀行国際研究公司董事長)が登壇。同氏は、中国経済台頭の本質は、単なるGDPの増加でなく、住民の所得の急速な成長にあると指摘。昨年、中国の小売の売上額が米国を超えたことを紹介し、中国が世界最大の市場、世界経済の原動力であることは世界で共有されている、と述べました。

また曹遠征氏は経済面における「新時代の日中関係」について、政治関係の変化に伴って、経済関係も二国間からマルチへと発展させなければいけない、と主張。具体的には、日中韓FTA交渉の推進や、日本が進めるCPTPPと中国の一帯一路を融合する必要性に言及しました。そして、一帯一路については、関係国がともに話し合い、建設し、それにより市場のパイを拡大し、利益を共有するという点で「人類の理想だ」と発言。この理念を日中が参加して仕組み化することは、日中の経済にとって重要であり、グローバル経済の発展のための新たな秩序につながる、と訴えました。

安全保障面での米中「冷戦」下で、日中の戦略対話が重要に

続いて、日中両国の安全保障関係者が発言に立ちました。

香田洋二氏(元自衛艦隊司令官、元海将)は、「米中経済冷戦」と多くの識者は言っているが、実際は経済・技術面では「実戦」の段階に入っており、安全保障面が「冷戦」状態にある、との視点を示しました。

香田氏は、「日中の経済関係は良好に見えるが、軍事面でも中国の対日戦略の基本的転換はあったのか」という疑問を提示。今の日中関係が、経済面だけを追求した便宜的なものであれば砂上の楼閣である、と語りました。その上で、昨年運用を開始した日中の海空連絡メカニズムはまだ「仏作って魂入れず」の状態にあると指摘し、北東アジアの危機管理に向けたさらなる運用改善の必要性を強調しました。

そして香田氏は、米中の安全保障関係が冷却している実態に注目すべきと主張。4月に日本も参加した、青島での中国海軍創設70周年の国際観艦式に、米国は自らの意図で参加しなかったことを紹介し、中国と軽々に妥協しないという米国務省や国防総省の姿勢がここに表れている、と指摘しました。

香田氏は、この安保面での「米中冷戦」が日中にとっては最大の問題だとし、この局面で日中の戦略対話が重要になると指摘。中国の国家戦略が意図するところ、米国に対して何を考えているのか日中でしっかり共有すれば、日本は米国の世界一有力なパートナーとして、米国にもしっかりと自分の立場を伝えられる、と訴えました。

安全保障面での日中協力には多くのポテンシャルがある

中国側から本フォーラムに7回目の参加となる姚雲竹氏(中国人民解放軍軍事科学院国家ハイエンドシンクタンク学術委員会委員)は、昨年のフォーラム以降、日中の相違だけでなく潜在的な協力の可能性にも焦点を当てるようになったとし、アジアと世界の平和と繁栄を守る上で、日中に求められる5つの協力分野を挙げました。

第一に、朝鮮半島における緊張緩和に向けた日中の連携。第二に、気候変動やテロ、感染症、シーレーンの安全など、グローバルな非伝統的安全保障上の脅威に対処するための努力。第三に、自律型致死兵器など軍事面でのAIの導入によって、戦争の意思決定における人的要素がなくなり、戦争が無制限に激化するリスクに対処する国際ルールの構築、を同氏は上げました。

第四は、日米中の3ヵ国間の関係において、自国の安全保障を巡る問題に対処するための日中の対話です。具体的には、例えば米国がINF(中距離核戦力)全廃条約破棄に伴い、東アジアで大陸発射式の中距離弾頭ミサイルを配備する可能性が指摘される中、こうした核配備の問題への対処で日中が相互に交流を図ることは、日中関係に意義があると語りました。

これに関連し、姚雲竹氏は第五の協力分野に核軍縮の問題を挙げ、核不拡散体制が崩壊し世界の核兵器の総量が増えることは日中両国にとっても良くない状況だと指摘。中国と日本が、米露両国に対し、INFルールの遵守や、2021年に期限を迎える新START(新戦略兵器削減)条約の5年延長を求めていくべきだ、と述べました。

そして同氏は、安全保障分野での日中協力はこれまで十分ではなく、逆に言えば、今後、建設的な安全保障環境を整備するにあたってより多くのポテンシャルがある、との見解を披露。二国間だけでなく地域や多国間の協力の必要性にも言及し、発言を終えました。

最後に日本側司会の宮本氏は、総括のコメントを、娘の結婚式のため間もなく中国を離れる五百旗頭氏に譲りました。同氏は、自身が参加し、2003年から08年まで設けられた外務省の「新日中友好21世紀委員会」では、互いに尊敬の気持ちを持って深い議論ができたと振り返り、今こそこうした対話の舞台が必要だと強調。米中対立やAIの発展など世界の激動の中で、どのような文明世界をつくっていくのかという構想を練るビジョングループをまず日中間で築き上げることが必要だ、と結論付けました。

中国側司会の趙啓正氏は、日中がその影響力を広げ、世界やアジアに貢献するためにも、日中関係の高度化、顕著な改善が必要だと主張。そして、日中関係の基礎は、双方の政府間の信頼だけでなく国民の相互信頼にあると述べ、「皆さんは両国の国民に負託を受けている」と、会場のパネリストらに呼びかけ、議論を締めくくりました。

2019年10月29日

・講演「教皇フランシスコが実践する『慈しみの地政学』」(Fr. Antonio Spadaro S.J.)

(2019.9.20 カトリック・あい)

教皇フランシスコが11月下旬に来日されるが、教皇の側近、アントニオ・スパダロ師(La Civilta Cattolica編集長、イエズス会士)がその準備のため来日、19日に上智大学で「教皇フランシスコによる慈しみの地政学」をテーマに講演した。ご本人と主催者・上智大学の了解を得て、以下にその講演の内容を掲載します。

(文責「カトリック・あい」南條俊二)

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 教皇フランシスコはその言動で、いつも人々を驚かせます。ですから、日本においでになった時に、どのようなお話をなさるのか、実際には”蓋を開けて”みないと分からないのですが、何回か教皇の海外訪問に同行し、身近に接してきた私の経験をもとに、お話ししたいと思います。私の話が、教皇の訪日の思い、意義を理解していただく一助となることを期待してお話を始めます。

*教皇フランシスコの外国訪問は常に「慈しみの旅」

 まず、この講演のテーマ「教皇フランシスコの慈しみの地政学」です。教皇は今年1月の在バチカンの各国外交団への新年あいさつで「慈しみ」という言葉を8回使われました。昨年になさった外国司牧訪問は「慈しみ」の旅でした。旅の根底にあるものは「慈しみ」。それが教皇の地政学のビジョンとも言えます。教皇にとって、それは抽象的な概念ではありません。人々の生活の中にある神の心そのものなのです。

 フランシスコが2013年春に教皇になられて、最初に私とのインタビューに応じてくださったのですが、お話の中で印象的だったのは「教会は”野戦病院”」という言葉でした。教皇はその後、教会のあり方を表現する際に、この言葉を何度もお使いになっていますが、この時が初めてでした-教会は野戦病院であり、野戦病院でなければ、教会ではないーと。もちろんその背景には、「慈しみ」があるのです。

*その実践の具体例は数多い

 具体的に、教皇が「慈しみの地政学」をどのように実践されて来たのか、具体的に振り返ってみましょう。

 まず、内戦が激化したシリアへの対応です。教皇は、2013年9月1日の「お告げの祈り」の中で、同月7日を「シリアと中東地域、全世界の平和のための断食と祈りの日」とすることを宣言。バチカンでの参加者10万人を超える祈りの集会で教皇は「暴力と戦争は決して平和をもたらさない」と訴えました。和平への働きかけは世界の宗教指導者たちにとどまらず、各国指導者にも書簡などで和平での努力を呼びかけ、さらに教皇の意を体したバチカン国務省が各国大使を集めて、対話と和解、分裂回避を目指すバチカンの外交方針を示すなど、具体的な取り組みが進められました。

 次に中国です。教皇フランシスコは、2013年春の就任以来、バチカンが国交を持っていない中国との関係改善に意欲を示しておられます。教皇は2017年にミャンマー、バングラデシュを訪問され、そこでも中国の国際社会における役割の重要性を認識されました。教皇は語っておられますー中国は世界の大国。平和を求めるなら、中国の役割を考える必要がある、と。

 ちょうど一年前、バチカンと中国政府が中国国内の司教任命について暫定合意しましたが、これ自体は司牧的。中国国内での司牧についての希望のメッセージですが、「到達点」ではなく、「出発点」です。これがそのまま、中国の信徒たちの環境が改善される、という保証はまだありませんが、バチカンと中国との関係改善は可能です。

 中南米では、キューバと米国の関係改善に努めています。バチカンのパロリン国務長官は、バチカンが歴史を書き換えることはないが、”前進”させることを希望する、と語っています。武力紛争が長期化していたコロンビアにも紛争終結の努力を訴えられ、2016年6月に政府と左翼ゲリラ、コロンビア革命軍(FARC)が武力紛争終結の最終合意文書に署名に至りました。

 深刻なミャンマーのロヒンギア難民の問題に対しても教皇は継続的な関わりを表明されており、ミャンマー、バングラデシュ訪問の際、バングラデシュの難民キャンプに生活しているときと会われました。私はその場に居合わせたのですが、教皇は涙を浮かべて彼らの訴えをお聞きになりました。とても感動的な瞬間でした。

 教皇は、”世界を、政治とモラルの混同や、絶対的な善と悪で二分して見るのを嫌われます。世界は(注:善悪がはっきりした)”ハリウッド映画”ではない。常にいろいろな利害が対立し、ひしめき合っている。そうした中で、行動している人と会い、ソフトパワーを発揮して、善のために互いに努力するーそれが教皇のお考えです。

*原理主義的思考、カオスへの恐れを解消する「地政学」

 教皇の考えておられる「地政学」は、原理主義的発想、カオスへの恐れを解消しようとするものです。「宗教イコール原理主義」の立場をとりません。宗教間の衝突、文明間の衝突とは関係しません。「カオスがある」と思うだけで、分断が起き、政治と宗教がくっついてしまう。政治的な成功に必要なのは、人々の間にカオスを増幅させ、煽動し、ありもしない恐怖を与えることだ、と言う人がいますが、教皇はこうした考えに反対します。平和を非暴力によって追求する、恐怖を与えるような言葉を使わない、という立場を明確にされています。

 イスラム系のテロリストたちに、教皇は「彼らは可哀そうな犯罪者だ」と言われます。彼らを糾弾する一方で、”共感”を示されます。教皇は、2014年5月の聖地巡礼中にイエスがヨハネから洗礼を受けたとされるベタニアでなさった説教で、「テロリストたちは”放蕩息子”です。悪魔の化身ではありません」とも語っておられます。味方だけでなく、敵も愛する、ということです。

 カトリックは、政治的な権力を保証する存在ではありません。ローマ帝国を継承するのはキリスト教会だ、という誘いに教皇は乗りません。錆びた鎧を脱ぎ、真の力―統合する力-を神に戻すこと。統合する力こそ、神のユニークさなのです。教皇は、米国の司教団とお会いになった時、十字架を世俗的な闘争の”横断幕”に、政治的な利益のために、使ってはならない、と言われました。教会の役割は、終末論から未来を見据え、神の国に向かって、正義と平和にこの世を導くことにある、と教皇は考えます。

*西欧のリーダーシップ喪失の危機に対し、アジアは多様性の中で若いエネルギーに溢れている

 キリスト教を奉じていた西欧でリーダーシップの危機が起きる一方、アジアでは宗教的、精神的価値観が生き生きとしています。多様な文化、宗教。地政学的、人口動態的にも多様性に富み、様々な矛盾が存在する一方で、若いエネルギーに溢れている。フィリピンや東チモールを除いて、アジアでは、カトリック教徒は少数派。無数の宗教的伝統がひしめいている。仏教、キリスト教、イスラム教に、古くからの民俗信仰が交わっています。そうしたアジアの国々へ、宣教師たちが、現地の文化の中に入っていきました。

*教皇の”野戦病院外交”は”傷”に触れる癒しの行為

 先の話に戻りますが、教皇が外国訪問でなさっているのは、”野戦病院外交”です。傷ついた人々、その象徴としての場所に触れ、癒すー抽象的でなく、具体的です。聖地巡礼でも、エルサレムの嘆きの壁に顔をお付けになった、それは癒しの行為でした。ナチのユダヤ人大量殺戮の現場となったアウシュヴィッツを訪れた時も、処刑の場所の壁に無言で手を触れられ、2017年末に武装集団による襲撃で多くの死者を出したカイロ郊外のコプト教会でも同様のことをなさいました。

 キリストがなさったように、「傷」を癒し、人々を隔てている「壁」を「橋」に変える努力を行動で示し続けておられるのです。

 今、地球上のあちこちで小型の”第三次世界大戦”が起きています。平和と正義が揺らいでいる。移民・難民、社会の中でのけ者にされた人々、その背景にアフリカの砂漠化進行なども要因になっている。コロンビアの場合もそうですが、不正、貧困の問題を無視しては和平を達成することはできません。「統合」を基礎に平和を作らねば、新たな紛争を生む。「共通善」を世界に広げることで、平和を実現していくーシンプル過ぎるかもしれませんが、それが「地政学的に慈しみを考える」ことにつながるのです。

*訪日のテーマ「すべてのいのちを守る」、教皇の願いは「命の福音」を伝えること

 教皇フランシスコの今回の訪日のテーマは「すべてのいのちを守る」です。経済、環境の問題、津波や地震など自然災害、原発事故など、さまざまな課題を抱える日本に、キリストが伝えようとした「命の福音」を伝えたい、というのが教皇の願いです。核不拡散の戦いも重要です。日本人は平和の大切さをよく理解しておられます。

 昨年11月にバチカンのギャラガー外務局長が 2018年ギャラハー・バチカン外務局長が来日した際も、そのことを強調され、教皇は一昨年の末に、長崎原爆被災直後に米国の従軍カメラマンが撮った「焼き場に立つ少年」の写真を複製し、裏に「戦争がもたらすもの」と題する小文を署名入りで印刷したカードをお配りになりました。広島、長崎訪問では、原爆犠牲者たちのために祈り、所有も含めた核兵器の廃絶を改めて訴えられる見通しで、来年に予定する国連での核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議での前向きの議論を促すことが期待されます。

 教皇が司祭叙階した時から、ずっと日本での宣教を希望されていたことはよく知られています。健康上の理由から果たすことはできませんでしたが、16世紀にイエズス会士、フランシスコ・ザビエルが日本にキリスト教を伝えて以来、数々の迫害に耐え、司祭がいなくなっても、信徒たちが教えを伝え続けたことに、強い感銘を受けておられました。

 教皇だけでなく、多くのイエズス会士にとって日本は魅力的な国であり続けました。そして、イエズス会日本管区からこの半世紀の間に、アルペ、ニコラスの二人のイエズス会のトップ、総長を輩出しています。上智大学の理事長、学長として大学教育に貢献され、グレゴリアン大学学長、そしてヨハネ・パウロ二世教皇に乞われてバチカンの教育次官・大司教になられたピタウ神父もおられます。

 「神は、時速3マイル歩かれる」と言われます。それは、人が歩く場合の普通の速さ。つまり、神は、私たちの歩幅に合わせて、寄り添ってくださる、のです。速やかにすべての結果を出すことはできませんが、目標に向かって着実に歩むのを神は支えてくださるのです。そのような心で、「地政学的な観点」から教皇をお迎えし、見守っていただきたいと思います。

 

 

2019年9月20日

・「米社会の分断や米中対立は、構造的な現象 」と米有力世論調査機関の前ディレクター、ストークス氏(言論NPO)

 (2019.9 .9 言論NPO)

「米社会の分断や米中対立は、だれが大統領になっても変わらない構造的な現象 」

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 米国の世界的な世論調査機関ピュー・リサーチ・センターでディレクターを務めていたブルース・ストークス氏は9月9日、言論NPOの公開フォーラム「アメリカ大統領選挙の行方と民主主義の現状」に参加し、現在、米国で起こっている社会の分断や、自由と民主主義の牽引役という立場からの米国の撤退、また米中対立に伴う世界の分断は構造的な現象であり、大統領選でトランプ氏と民主党候補者のどちらが勝利しても大きく変わらない、との見方を示しました。

 フォーラムにはこのほか、米国通商代表補代理や在日米国商工会議所の会頭などを歴任し、現在は米国の先端政策研究所で上席研究員を務めるグレン・S・フクシマ氏、そして国際政治学者、文化人類学者として米国社会の状況に詳しい渡辺靖・慶應義塾大学教授が参加しました。

*支持政党により大きく影響を受けている個別政策への態度

 ストークス氏は、同センターが実施した米国の世論調査結果を紹介しながら、トランプ政権下における米国社会の構造を説明。同氏はまず「米国人は今、非常にストレスを感じている」と指摘しました。そして、過去50年間で、非白人や海外生まれの人が人口に占める割合がそれぞれ3倍になった、と紹介しました。そして、移民の割合が今と同程度まで増えた1920年代にも、中国人や日本人を排斥する現象があったとし、今起こっている反移民の動きは、米国の歴史に見られるパターンの再来だ、との解釈を示しました。

 続いて、自身の地元、ペンシルベニア州バトラー郡における2016年の大統領選結果に触れ、「同郡は失業率や平均所得が全米平均より良く、海外生まれの割合も低いが、トランプ氏が67%の票を獲得した」と紹介。同時に、「他国の影響からアメリカ的な国民生活を守る必要がある」と考える人が、民主党支持者では4割なのに共和党支持者では7割を超えることに触れ、トランプ氏への支持が根強い背景には、経済状況よりも、米国人の文化的な誇りが脅かされているという感情にあるのではないか、との見方を示しました。

 さらにストークス氏は、米経済の現状への評価や自由貿易への賛否などで、共和党支持者と民主党支持者が正反対の傾向を示していることを指摘し、「これは純粋に経済のことを言っているのか、それとも、共和党員だから全てが素晴らしく見え、民主党員だから全てが酷い状況に見える、ということかもしれない」と、個別政策への態度が支持政党によって大きく影響を受けている米国社会の分断の状況を明らかにしました。

*トランプは分断の原因でなく結果であり、それは民主主義国に共通する現象

 これを受け、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、「こうした米国社会の分断は、大統領選を経てさらに加速するのか」と問いました。

 ストークス氏は、2年半前のトランプ政権発足以降、その支持率が共和党では8割を超え、民主党では1割に満たないという結果が継続していることを挙げ、こうした固定化の傾向は選挙戦を経ても続くという見通しを示しました。

 渡辺靖氏も、「これだけの分断が回復したケースは世界史の中でもない」と悲観的な見方を提示。トランプ氏の出現は分断の原因ではなく、経済格差や人口構成の変化、情報環境の変化が複合して起きた「結果」であるとし、こうした民意の「タコツボ化」や、それに伴う自国第一主義、強権的指導者の台頭は民主主義国全体に共通する現象だとしました。

 一方、フクシマ氏はこうした見方に基本的には賛成だとした上で、中長期的には異なる方向に向かうだろうとの意見を披露しました。同氏は、2044年には白人の人口が米全体の過半数を割る見通しであることや、非白人や若者は自由貿易や移民、気候変動対策に肯定的な傾向があることに触れ、今後は政策動向が変化する可能性を指摘。人口動態の面で米国全体の変化に先行しているカリフォルニア州の知事がトランプ氏と真逆の政策をとっていることからも、「中長期的にはこれが米国の将来像だ」と語りました。

*対立、分断を煽ることが選挙の勝敗を左右するという構図に

 また工藤は、「トランプ政権の行動により、世界の自由貿易や多国間主義に摩擦が生じている。にもかかわらずトランプ氏は、既成の政治や移民などの敵をつくって社会を分断するという手法で、今度の選挙戦にも挑もうとしている。こうしたやり方がいまだに米国では通用するのか」と疑問を投げかけました。

 これに対し渡辺氏は、選挙戦の勝敗のポイントは「両党のどちらかが、支持者を投票所に向かわせようという熱気を醸し出すことができるか」だと発言。過去の大統領選では、既存の政治と距離があるアウトサイダーが勝つ傾向が強いとし、トランプ陣営は「バイデンは40年近く政治家だったのに、何も変えられなかった。自分の改革がうまくいかなかったのも民主党が邪魔したからだ」と支持者を鼓舞できる、と語りました。一方、民主党については「米国の民主主義の今後を考えたときに、トランプのままでいいのか」という世論を、党派を超えてどこまで高められるかにかかっている、としました。

*民主党政権でも中国への強い姿勢は続く

 さらに工藤は、言論NPOが議論に先立って実施した日本の有識者アンケートにおいて、中国との通商問題やTPPなど自由貿易、気候変動、イラン問題といった様々なグローバル課題について、民主党候補が勝てば進展するという期待が高いことを説明。「それは本当なのか」と尋ねました。そして、特に、米中対立に伴う世界経済の分断は、民主党政権下ではどうなるのか、と問いました。

 ストークス氏は、そう簡単な話ではない、という見方を提示。具体的には、「民主党候補は、トランプ氏と違い日本や欧州と連携して中国と対峙していくだろうが、中国への圧力という結果は変わらない。気候変動対策には積極姿勢に転じるが、市民生活に犠牲が伴う各論では慎重になるだろう。民主党はイラン核合意に復帰に前向きだが、選挙までに復帰が不可能になるほど合意自体が崩壊している可能性がある。ロシアのプーチン大統領には友好的ではないのは明らかだが、ロシアへの厳しい姿勢には限界もある」と語りました。

 一方、ストークス氏は、次の景気後退が選挙後の2021年になるという見通しから、「次期政権は経済対策が最優先にならざるを得ず、景気後退が自分たちのせいでなかったとしても批判を受ける。したがって、世界課題への対応は二の次になるだろう」と語りました。

 さらに、ストークス氏は、「米国は比較的衰退しており、世界のリーダーに戻ってはいけない。日本にも欧州にも役割が必要である。自分の役割が変わったと米国自身が理解しないといけない」とした上で、その点を正直にアピールしていることがトランプ氏の魅力になっていると解説。米国が戦後秩序の中で担ってきた、国際的な公共財の分担を見直さなければいけない、と主張しました。

 また、ストークス氏は米中対立について、民主党候補が当選した場合は対中関係の修復を試みるだろうと予測しながらも、「中国の軍事的野心は我々が経験したことがないものであり、米中の緊張関係を意味する。香港や台湾に対する中国政府の姿勢にも、米国社会はかなり批判的だ。それが現在我々に立ちはだかっているチャレンジだ」と、米中対立は長期化するとの見通しを示しました。

これに対し、渡辺氏は、民主党候補には、トランプ氏のような「米国が国際的な枠組みや同盟関係から搾取されている」という認識はなく、「安全保障で日本がただ乗りしている、という発言が抑制されるなど、変化はあるだろう」と発言。ただ、伝統的には保護貿易色が強い民主党は、「貿易では中国に強く出るだろうし、対日貿易でも甘い期待は禁物だ」と展望しました。

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*日本で予測されているほどトランプ優勢ではない

 さらに工藤は、「民主党候補者のテレビ討論会が始まり、世論調査では民主党候補が優勢という結果も出ている」という状況に触れ、選挙戦の行方を問いました。

 渡辺氏は、民主党の指名争いでバイデン前副大統領がリードしているという報道に対し、「立場が似ているサンダース、ウォーレン両上院議員が連携することで、バイデン氏を抜く可能性がある」と、指名獲得の行方はまだ分からない、と予測しました。

 フクシマ氏は、言論NPOの有識者アンケートで、トランプ氏の勝利を予測する声が多数派となったことについて、日本の有識者には共和党に有利な意見の方が伝わりやすいからだ、と理由を説明。具体的には、共和党の関係者にはビジネス界出身の人が多く、彼らがビジネス目的で来日した際、日本の経済人や政治家、官僚と会って共和党の宣伝をしていると語りました。また、過去の民主党の大統領は、選挙の1年前には無名だった人が多いことを挙げ、「ウォーレン氏やハリス上院議員のような、ワシントンの政治に染まっていない人が有望なのではないか。大票田カリフォルニア州の予備選がある3月には絞られるだろう」と予想しました。

 最後に工藤は、自由と民主主義、多国間主義の規範を守るという立ち位置から今後も大統領選の動向に注目していきたいと語り、議論を締めくくりました。

2019年9月12日

・「キリスト者のあかしとつまずき――虐待の原因・解決策」(阿倍仲麻呂師)

■キリスト者のあかしとつまずき――虐待の原因を考える

 神が責任をもってあらゆるものを慈悲深く見守ってくださることに信頼して生きるのが信仰者の役割です。それは、何か架空の遠い出来事のように感じられますが、イエスはたとえを用いて言っています。

 「王としての神による慈悲深い支えと配慮は、あなたがたのまっただなかにある」(ルカ福音書17章21節)。

 信仰者がいっしょに協力して支え合っているときに、その姿をとおして、神の王としての導きの現実が社会に向けて確かにあかしされてゆく、という意味です。神の目に見えないはたらきは、実に、助け合う人びとの姿のなかにこそあるのです。ということは、私たちのように洗礼を受けたキリスト者も、神の王としての慈悲深い支えを社会のなかで広げてゆけるのです。私たちが協力し合っていればよいのですから。相手のことを思いやって支え合うことが、神の支配の広がりを実現するのです。

 協力する姿そのものが尊いのです。私たちのはたらきをとおして、神が社会に影響力をおよぼします。架空の理念ではなく、私たちのお互いの協力関係が大きな力を持ちます。たしかに、私たちが協力している姿を世間にさらせば、一般の方々も影響を受けます。しかし、逆に、私たちがお互いに無視して傷つけ合っているならば、社会の一般の人びとに対してつまずきを与えてしまいます。

 教会共同体のスキャンダル、自己中心的な利益を優先して他人を切り棄ててしまう動きが生じたときに、社会に衝撃を与えることになります。とくに、昨年(2015年)、騒がれたように、ローマ・カトリック教会の北米の一地域で司祭たちが児童虐待をしていたという事実が発覚しまして、人を導いて守るはずの司祭が自分の興味で欲望のままに動いていたという事件がありました。全米に激震が走りました。

 司祭による児童虐待。この事態は大きなつまずきを社会全体に与えました。教会のなかでキリスト者が他人を傷つける行いを平気でつづけているならば、大きなショックを人びとに与えることになります。
逆に、教会のなかで信仰者同士が助け合って、その励ましに満ちた団結の力強さを示すときに、一般の人たちが感銘を受けながら賞賛を贈ることになります。ですから、小さなふるまいが、相手につまずきを与えることになる場合もあれば、一方で勇気を与える場合もあるわけです。どのように生きるか、という信仰者同士の協力が、いま、問われています。

 アメリカ合衆国のなかでは、精神的に成長の段階が未熟なままで司祭になってしまう人が見過ごされていたわけです。これは、神学養成上の司教の監督不行き届きです。司教たちは、気をつけないと、自分の教区の教会で働く司祭が減っているからという現場の状況に応じて、すぐに人材を得ようとしがちです。簡単に候補者を受け容れてしまって、充分な養成の時間をかけていない場合もあり得るのです。一定期間、神学を修めさえすれば、充分な査定を経ずに認めてしまうのです。働き手が、すぐに欲しいからという理由で、ぞんざいな教育で済ませてしまうのです。精神的に未成熟なままで司祭になった人は現場
で問題を起こします。

 アメリカ合衆国の社会というのは、人間の権利つまり人権を強調するあまり、個人の自由や自己実現を表に出します。それで、家庭が崩壊することもあります。つまり、妻と夫が、それぞれの仕事を優先して相手の気持ちを無視して離婚してゆくという状況がつづいています。自分の自己実現のためだけに生きてしまい、子どもを置き去りにして、家を飛び出す親が続出しています。

 親の愛情を充分に受けずに育った子どもは、大人になって今度は自分の子どもを虐待するようになります。親から虐待された子どもが司祭になった場合、相手を充分に愛せない、つまりゆがんだかたちで相手を囲い込んで私物化してしまい、自分の欲望のことしか考えない、という状況が出てきます。

 ですから、アメリカ合衆国の司祭による児童虐待の問題の背景には、家庭環境の劣悪な状態で愛情を受けずに育った司祭の生活状況があるわけです。悩みをかかえながら司祭職を目指している神学生が司教から充分なアドヴァイスを得ずに、ゆがんだまま進級していった場合に、自分のままならない心の傾きを背負ったままで、結局は相手を理解することができないような人間的な弱さをかかえており、何も解決していない状況で司祭になりかねないわけです。

 ということは、①司祭による児童虐待の根底には、親の責任、家庭のあたたかさが欠如しているという原因があるわけです。そして②司教や養成担当司祭たちによる適切な指導がなされていなかった、という原因もあります。充分な愛情を肉親や指導者たちから受けていなかったということが、虐待を行った司祭たちの欠点に結びつきます。

 教皇フランシスコは最近、2016年6月4日付に児童虐待防止のための指導者による監督責任についての自発教令(使徒的書簡)を出しまして、司教が司祭たちを充分に監督して育てていない場合は、怠慢という理由で公的に解任されると述べています。

 司教は、ただ事務仕事や信仰上の話題を信徒に向けて語っているだけでは足りません。とくに、司教こそが、司祭養成にも心を砕かねばならないのです。司教は神学生たちの声に耳を傾けて、彼らの心の傷を理解し、保護しながら適切に矯正してゆく義務をもっています。とくに児童虐待に関して、司教が指導者としてのアドヴァイスを怠っているときは、司教としての職務を解任されます。教皇フランシスコは、そこまで厳しいことを述べながら、児童虐待をする司祭が増えないように、司教の監督責任を公けに問おうとしています。

■「修復的司法」(Restorative Justice)というヒント――虐待の解決策

 ところで社会的な方向に「ゆるし=愛」を広げて考察を進める必要があります。人間は社会のなかで他者といっしょに協力しながら生きています。その社会的な人間関係を円滑に行うために様々な法律が制定されています。社会生活と法的な規定とは現代人が生きるうえで重要な意味合いをもっているからです。

 プロテスタント系の法学者のハワード・ゼア博士は1990年以前から「修復的司法」(Restorative Justice)」を提唱しました(Howard Zehr, Changing Lenses: A New Focus for Crime and Justice, Herald Press, 1990.)。「修復的司法」は、従来の「応報的司法」(Retributive Justice)の限界を乗り越えるための法的なシステムです。「応報的司法」では、加害者と被害者の関係性を見究める際に、被害者のこうむった苦しみに沿って加害者に相応の刑罰を課すことで、埋め合わせをします。

 客観的に事件概要を吟味しながら一番適正な刑罰を課すことに重点が置かれます。しかし「修復的司法」の場合は、被害者と加害者と被害者関係者と加害者関係者、さらには事件の起こった地域の住民たちにまで幅を広げて事件の原因と結果を究明しながら全共同体的な視野で反省を行い、崩れてしまった人間関係を修復するとともに二度と同様な犯罪がなされないように地域的な意識を高め、「あたたかい支え合いのコミュニティー」を構築する方向性を自覚的に選びます。

 いわば、「修復的司法」は、以下の六点を強調する立場です。――①被害者にとっての正義の見直し(事件に対する認識、関係者への発言権、生活の回復やトラウマからの解放を実現させること)、②加
害者にとっての正義の見直し(加害者に責任を問いつつ償わせる、加害者の健全化、監視システムの設定、③加害者の家族の尊厳の確保)、④被害者と加害者の関係性を実現する共通場の模索(対話、情報交換)、⑤社会的コミュニティー全体の環境整備(犯罪を起こさせないような「あたたかい関わり」の常態化を目指すこと)、⑥将来的な建設的な展望を開く。

 ゼア博士は「修復的司法」を提唱することで、被害者対加害者、被害者関係者対加害者関係者、加害者対地域社会、などの対立構図だけで法的制裁を目指す枠組みそのものを見直そうとしています。
もちろん「修復的司法」はアメリカのディスカッション型の自己アピール社会では「相互コミュニケーション」の技術を洗練させることで容易に実現可能なのかもしれません。

 しかし、少なくとも日本では困難をかかえています。日本人の大半は、相手と積極的に討議して、自分の権利を公然と主張したり、相手の言い分を客観的に聞き容れるようなオープンな「相互コミュニケーション」に慣れていないからです。それゆえに「修復的司法」は、日本においては一部の大学の講義などでは、ひとつの理想的理論としては参考程度に紹介される場合があっても、法的な現場においては採用されることなく今日に至っています。

 ただし、困難だからといって諦めることは、まだ早いわけで、一度破壊されてしまった人間関係を修復しながら「新たな相互協力の方向性を開く」ひとつの理念的な試みが確かに存在するという事実には希望があると言えるでしょう。困難な状況であっても、「決して諦めない」という気概は、まさにキリスト者の生き方の根幹に関わる姿勢であるわけですが、ゼア博士はキリスト者としての生き方を客観的で社会的な法思想の再構築というシステムの根本的変革にまで関連づける努力をつづけています。

 その意味でキリスト者が自分たちの美点としての「決して諦めない」という姿勢を、どのように社会的にシステム化してゆけるのかどうか、つまりキリスト教の核心を社会生活と緊密に結びつけて洗練させることであらゆる人に奉仕してゆくことができるかを計るヒントが「修復的司法」の発想には潜んでいると言えるのです。

(阿部仲麻呂=あべなかまろ=サレジオ会司祭・2016年、カトリック相模原教会での「主の祈り」についての全14回の講演のなかからの一部抜粋)

2019年3月2日

・世界の教会の今、教皇フランシスコの思い、そして日本は?(「カトリック・あい」代表・南條俊二)

*第二バチカン公会議前後からの、歴代教皇と教会の流れ  

 近代のカトリック教会にとって最も重要な出来事となった第2バチカン公会議(1962年∼65年)は、伝統的な教会の行き詰まりに強い危機を感じ、「現代化」、現代の世界と共に歩む、開かれた教会への刷新を強く望む教皇ヨハネス23世によって、”守旧派”の抵抗を押し切って開催された。

  教皇は会期途中で亡くなられ、教皇パウロ6世が跡を継いで、教会憲章、典礼憲章、現代世界憲章など多くの憲章、教令、宣言を決定、公布。ヨハネス23世の切望された教会刷新が始まるかに見えた。

 ミサ典礼文のラテン語から現地語への移行、主の食卓を囲む形へ祭壇の変更など、は進んだが、根本的な教会刷新の推進者として期待された教皇ヨハネ・パウロ一世が在任わずか33日で急死されるという悲劇が起こった。

 初の東欧出身、50代の若さで教皇となったヨハネ・パウロ2世は東西冷戦構造の崩壊を背景に国際的に目覚ましい働きをされたが、守旧派が抵抗を続ける教会刷新は進まず、バチカン官僚支配も進み、続いて教皇となったベネディクト16世は他宗教に対する心ない言動が物議をかもし、バチカン内部の秘密文書漏洩などのスキャンダルも重なって、任期8年足らずで、異例の辞任。

 そして、2013年3月、教会刷新の期待を担って、初の欧州以外の出身教皇として、フランシスコが登場した。アルゼンチンの軍事政権下で苦難の中でイエズス会管区長とし格闘し、不遇の時を生きぬき、ベノスアイレス大司教、枢機卿、そしてラテンアメリカの教会の指導者として庶民と共に歩み続けた新教皇は、就任インタビューの第一声が「私は罪びと」だったことに象徴されるように、自らの弱さを知り、第二バチカン公会議の精神を今に受け継ぎ、弱く傷ついた人々を受け入れる「野戦病院」の教会、内に籠らず、「表に出る」教会、小さな人々と共に歩む教会を目指して働きはじめた。

 

*公会議の精神と狙いを現代に、と懸命に働く教皇フランシスコ

  教皇フランシスコは「世界に開かれた、弱い人々と共に歩む教会」という第2バチカン公会議の精神をそれをもとにした教会刷新の方策を、現代世界の教会、社会の実情に合わせる形で、実践に着手した。教皇の清廉で飾らない言動は、世界の若者を含む多くの信徒の心に響き、教会から離れていた信徒も大挙して戻る、という現象も起きた。サンピエトロ広場での日曜の正午の祈り、水曜の一般謁見に集まる信徒たちの数は、就任から5年を超えた今も、以前の教皇の時代よりもはるかに多い、と現地の日本の関係者も証言している。

 ①精力的な勧告、回勅の発布で全教会、全信徒に祈りと実践を訴え

  これまでの5年半でまず注目されるのは、毎年のように精力的に使徒的勧告、回勅、使徒憲章などを自らまとめて発表し、世界の全教会、全信徒に祈り、霊的活動、そして現実の社会での実践の指針を繰り返し示していることだ。それには、時系列的に示すと次のようになる。

 ☩使徒的勧告「福音の喜び」→信徒、教会の現在の社会の中で生きていく基本姿勢、心構え

☩回勅「ラウダ―・ト・シ」→地球環境を守る人間としての、教会としての、信徒としての課題

☩使徒的勧告「(家庭における)愛の喜び」(教会活動の原点としての家庭の抱える諸問題の克服)

☩使徒的勧告「喜びなさい、大いに喜びなさい」(現代における信徒の聖性)

☩使徒憲章「真理の喜び」→カトリック大学改革が急務

☩使徒憲章、「エピスコパリス・コムニオ(司教の一致)→

 

②シノドスの開催で、世界の司教たちの意思の結集を目指す

  第二バチカン公会議で打ち出された教皇と全世界の司教たちとの協働の精神に従って、直面する重要課題について、全世界代表司教会議(シノドス)を通常会議ばかりでなく、臨時会議も含めて積極的に招集しているのも、これまでの教皇に見られなかったことだ。

  具体的には、使徒的勧告「(家庭における)愛の喜び」とりまとめに当たった毎年、計二回の「家庭」をテーマとした会議、そして、10月3日から「若者の育成、召命」をテーマにした会議が始まる。このほかに、シノドスではなく、開催期間も短いが、聖職者の性的虐待と隠ぺいへの対応という緊急課題を扱う全世界の司教協議会会長による会議も2019年2月に招集されることになった。

 

③日曜正午の祈りの説教、水曜恒例の一般謁見での説教

  その他の場を通して、一貫したメッセージを発出。現地主義、家庭主義の教会をことあるごとに訴え、浸透を図る。

 

④バチカンの組織改革・・”官僚主義”の打破、組織の合理化・活性化、説明責任と透明性確保

  省庁の再編・統合⇒信徒評議会と家庭評議会を統合して「信徒・家庭・命の部署(Dicasty)」、正義と平和、開発援助促進、移住・移動者司牧、保険従事者の4評議会を統合して「人間開発促進のための部署」(移民・難民支援、弱者、失業者、紛争・自然災害、奴隷・拷問被害者に対応)に再編。さらに財政改革、予算の適正な活用を推進める財務事務局を新設した。

 

*教皇就任5年半の課題と守旧派の抵抗・・聖職者の性的虐待と隠ぺいによる打撃・・中国問題

 ・教皇就任5年間を当面の活動のめどとし、5年かけて改革の方向付けをしたい、と考えておられた。

 ・だが、形式は整っても、バチカンの意識改革は遅々として(例・性的虐待対策委員会・・前向きな具体的対応を拒む教理省の担当官僚の抵抗に抗議して、被害者代表が辞任など)進まず。

 ・その中で、聖職者による性的虐待問題への各国レベルの対応がうまくなされず、枢機卿、大司教レベルの関与、隠蔽が米、豪、チリなど主要カトリック国で表面化。司法当局の介入招く事態に。

 ・教皇が最優先課題とする「家庭」「若者」への教会としての前向きな、各地の実情に合った取り組みが、性的虐待・隠ぺい問題への対応に精力を奪われ、進展は思うように進まず。財務事務局の長官、豪の枢機卿が有罪判決を受け、機能不全状態に。

 ・ダブリンで開かれた「世界家庭大会」も、10月のシノドスにつなげる議論が期待されていたが、会場内外で性的虐待批判、大会の主宰者、基調報告者の2人の米枢機卿も同問題の責任を問われ、欠席し、十分な成果を挙げられなかった。。

 ・そうした最中に、米国と経済摩擦強める中国と司教任命で”妥協“の暫定合意したが、合意内容の詳細は発表されず、中国共産党内部のカトリック教会に対する足並みがそろっていない、とも伝えられている。正式合意の展望も具体的に示されず、党による宗教活動規制の強まりの中で、”地下教会“の信徒たちに不安の声も上がっている。

 ・最新のバチカン統計によると、世界のカトリック信徒の数は欧米で減少、アフリカ、アジアなどで増え、差し引き微増にとどまる。欧米の教会では、ミサなどに出る信徒の減少が加速している。教皇フランシスコの人気と努力にもかかわらず、以上のような根深い問題が影を投げかけているのだ。

 

*日本の教会は・・司教団としての連帯を失い、教皇の必死の教会刷新努力にも消極的な対応続く

  第二バチカン公会議(1962⁻1965)の「世界に開かれた教会」の方針を受けて1980年代後半に二度にわたる全国的取り組みとしての全国福音宣教推進会議(NICE)が開催され、教会刷新へ聖職者、一般信徒上げた具体的な動きが広がることが期待された。

  だが、「高松問題」-スペインで始まった運動「新求道共同体への道」が高松教区に、日本の神学校とは関係なく神学校を開設、同運動の外国人を中心とした信徒たちの動きもあって地元教区に大きな混乱を起こし、これに対する司教団の中に姿勢の乱れがでた-を契機に、司教たちの全国的な連帯が崩れた。

  そして、それ以降、NICEは、その取り組みを発展、軌道に乗せるための会議は開かれず、推進役だった白柳枢機卿・森補佐司教が舞台から去った後は、教会刷新に目立った成果も生まない“空白の30年”となった。

  このような流れの中で、現在は、教皇の提起する課題、その検討のカギを握るシノドスなど、世界的な取り組みには“消極的参加”のみ。一連のシノドスでも発言無し、存在感無し。信徒への報告も無い。

  政治、社会、経済各方面のリーダーの劣化。少子高齢化、家庭崩壊、少年非行・自殺など、現在の日本が抱える深刻な社会問題も直視できず、「列福」「東北災害」、あるいは教会関係者、信徒の間にも異論のある政治問題に「憲法改正反対」など特定の政党のような旗を掲げる以外に目立つ動きはなく、悩み苦しむ多くの人々の心に響くものも打ち出せていない。

  ごく最近では、神学校を二キャンパス一校とし、日本の教会としての一本化が図られたはずの司祭育成の体制が、東京と長崎の二つに神学校が分かれ、育成体制も分裂することに決まった。

 司教団の連帯がこの面でも崩れる中で、高松問題の原因となり、いったんはローマに退いていた「新求道共同体」の神学校が、司教団との事前協議もなく、自身が同運動の一員となっているバチカン福音宣教省の長官が一方的に東京に再設置を通告し、責任者を決めて開設準備にかかる、という「神学院問題」が噴出する事態となっている。

  だが、希望もある。北海道から仙台、新潟、さいたま、東京、横浜の6教区をもつ東京教会管区の長でもある東京教区長の大司教に昨年11月、菊地大司教が就任した。若い時から国際カリタスで活動、アフリカでの悲惨な体験が原点とし、教皇フランシスコと思いを一つにしている。彼に続いて、新たな司教が沖縄、大阪(補佐司教2名)、さいたまなど生まれている。菊地大司教の60歳の“若い力”などに期待したいし、この機会に、司祭、信徒が教会刷新、活性化に、ともに働くように求められていると思う。

(2018年9月30日、カトリック横浜教区・雪ノ下教会プラチナ会主催の講演)

2018年10月1日

・「世界的な人の劣化、その背景と今後の懸念、教会は、信徒は」(9月21日改定)   南條俊二

政、官、産、学とあらゆる分野で劣化が急速、まともな現役リーダーがいなくなっている

 国政では、安部首相に対応できるまともな現役リーダーがいない、野党は沈没・・将来を担える政治家は・・小泉、福田両代議士程度だがリーダーとしては未知数だ。官界では、財務省、文科省の高官のの考えられない行状、道義的にもあまりの程度の低さ。産業界では、日産、三菱マテリアル、マツダ、スズキ、ヤマハの一流と言われる企業に検査偽装は相次いで発覚。9月21日には日本の教育行政の柱たるべき文科省の事務次官が汚職で二代続いて引責辞職した。

 学界・体育界などでも、日大・東京医大・ボクシング連盟、そして日本体育協会・・情けないのは、声を上げるべき学生、教員、そして”大人”がほとんど無力、無反応、無関心。新聞・テレビなど主要マスコミも、ほとんど批判力を失っている。聴き手も劣化して、マスコミに対する的確な批判もできない。*上部構造だけでなく、一般庶民、若者レベルも‥スマホ依存症・・周囲への思いやり、思考能力停止

 インターネット、スマホの普及は経済、社会の活性化に大いに役立つはずが、多くの人はゲーム、漫画、買い物、ファッション情報などに没入。電車の中での10人中7,8人がスマホを握りしめ、ほとんどが無表情、周囲に関心を払うこともなく、ひたすら”眺め続けて”いる。お年寄りや具合の悪そうな人が乗ってきても、お構いなし。出入り口にいても、降りる人に道を開けようとしない。「劣化」を加速する道具に使われている状態に。年齢層が10,20代から30代、40代、50代へ急速に広がっている。

日本だけではない現象・・欧米のリーダー劣化・・トランプの誕生・・英国のEU脱退・・

 象徴的なのが、世界の民主主義国のモデルとして自他ともに認めて来た米国。国際ルールを無視し、一国主義に走るトランプのやりたい放題を放置する米国の政経やマスコミのリーダーたち。

  • このような時に、劣化を食い止め、社会を再生に導く力となるべき既成宗教、とくにカトリック自身も劣化

 欧米を中心に長期にわたって深刻の度を深める聖職者による未成年者などへの性的虐待と高位聖職者などによる隠ぺい、に象徴される劣化から抜け出せずにいる。それ以前に、前教皇を始め、日本の司教の中にも、任期の途中で仕事を投げ出す、という近年ではあり得なかったことが、平然と続いているのも、劣化の流れの中で捉えることが可能だ。

その背景にあるのは

 伝統社会⇒変革期社会⇒超近代社会・・坂の上の雲がなくなった・・伝統的価値観の喪失⇒伝統的価値観の否定⇒1990年代前までは「経済成長」「豊かな暮らし」を伝統的価値観の代わりにしてきたが、頂上から下り坂に。代わりの価値観も、行動原理も見つからないまま、21世紀に入り、それが常態化し、その中で育つ若者たちを中心に、代わりを見つける意欲も喪失する傾向が強まっている。行く先は‥道義無き自己中心・・それが①の現象に表れ始めている。そうした社会状況が、教会にも投影している。

 これまで考えられなかった”子供”たちの凶悪犯罪の続出も、劣化を象徴している・中学2年男子が新聞配達中の女性を刺し殺そうとして逮捕・動機は「ストレスでむしゃくしゃ・・誰でもいいから殺したかった」と。仙台では刃物やモデルガンを持った大学生が、未明に近くの交番を襲い、親切に応対しようとした警察官を刺殺した・・家庭は、学校は、地域社会はどういう育て方をしたのだろうか?

劣化する日本、欧米など民主主義国の懸念は、明確な目標を持った指導者に率いられた専制独裁国家の興隆・

 そうした中で、一党独裁の政治を続け、あらゆる手練手管で権力を固め、任期も取り去った指導者。「・・の夢」を標榜するトップに率いられた某国は・・信教の自由を抑える新たな規制を導入、党の政策に異議を唱える人々を拘束するなど、国内で人権を損なう政策を強める一方、明の時代の鄭和艦隊が目指したアジア全域から中東、アフリカに至る最大版図に支配権を着々と広げつつある。年二ケタ台の伸びを続ける巨額の軍事予算で築きつつある強大な軍事力、量のみならず質の向上が急速。アジアからアフリカに至る海洋支配を目指す空母機動艦隊の四編成体制の構築を着実に進め、空・陸の兵力も近代化・増強、サイバー軍、宇宙軍も。核軍縮が叫ばれる中で、それを無視し核兵器を増強する中国、北朝鮮を、どの国もまともに牽制できない。

*悪夢・”スマホ中毒、マインドコントロール弱者”の日本人を狙った、影無き独裁国のサイバー攻撃

 スマホ中毒で主体性、自律性、現実性を薄れさせているのは10代、20代のみならず、30代、40代にも。⇒ポケモンGo現象・鳥取砂丘に大勢がポケモンを求めて殺到・・駅でも階段でも、握ったまま睡眠・・ハーメルンの笛吹きの物語(ネズミの大量発生に悩んでいた町の人が笛吹きに頼んで、ネズミを退治してもらったが、代金を払わなかったことに腹を立てた笛吹が、町の子供たちに笛で魔法をかけ、全員を連れ去った)を連想。

 マインドコントロールにたけた某隣国のサイバーによるコントロール・・スマホ中毒、一億総劣化で最もマインドコントロールを受けやすい日本の大衆に、ゲームや漫画その他の情報に載せる形で、たとえば安部倒閣、尖閣列島・沖縄は中国に領有権あり・・などを信じ込ませ・・積極的、消極的な行動に移らせる・・単なる悪夢とはいえない。

 *結語*”劣化”する日本のカトリック教会は外部からどう見られているか。

 このような世界と日本の”不都合な現実”から目を背け、「時の声」を聴こうともせず、十年一日のごとく、どこかの国の政党の決まり文句の反政府、反憲法改正、反安保と、教会内部にさえ異論の多い政治的姿勢を、あたかも、全教会員の一致した意見のようにして、自己は安全な場所に身を置きながら叫び続けても、悩み、苦しみ、現状に不安を強め、生きる目標を失った日本の人々の心には全く響かない。社会の現実から浮き上がるばかりだ。日本の社会への前向きな貢献は無きに等しい。これも、”劣化”のなせる業、かも知れない。

 求められているのは、”不都合な現実”も含めて現状を正しく認識し、問題の本質を見分け、向き合い、弱者に寄り添いつつ、自分の家庭、社会、国を守り、再建し、全世界の人々が人間的で自由で、安心して暮らせるようになるために、力を合わせることだ。一人ひとりの自覚、それぞれの立場からの行動が、国民一人ひとり、カトリックの信徒一人ひとりに、その集合体としてのカトリック教会に、強く要請されている。劣化を食い止め、流れを変える道はそれしかない。

(2018年8月20日に東京西北ローターリークラブの例会で卓話としてお話しさせていただいた内容に、その後発生を続けている社会的事件などを追加して織り込み、カトリック教会に関係した部分、結語を加筆しました) 

2018年8月21日

・「中国の戦略をどう読み解くか」言論NPO/有識者調査・座談会

言論NPO/有識者調査「中国の戦略をどう読み解くか」

1978年の日中平和友好条約の締結から40周年の節目の年を迎え、日中両国政府は日中関係の改善に向けて動いている。そこでまず、こうした改善に向けた動きをどのように評価しているのかを尋ねた。

その結果、有識者の84.6%が「賛成」と回答し、「反対」は3.5%にすぎなかった。

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【日中関係改善に向けた動きに対する評価】

 

中国の政治改革は、習近平氏の独裁体制に向けた動きとの回答が7割近くに

次に、中国の政治体制についても尋ねた。中国の習近平国家主席は、毛沢東以来の最も強い指導者を目指して、国家主席の任期の撤廃など指導力を強めている。こうした習近平氏の動きは、独裁体制に向けた動きなのか、有識者の見方を尋ねた。

これに対しては、68.5%が「そう思う」と回答し、7割近くの有識者は習近平一強体制の確立が着々と進行していると見ている。

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【習近平氏の改革は独裁体制に向けた動きか】

既存の国際秩序と、中国が主張する新しい秩序が併存するとの回答が最多

習近平氏は各種演説の中で、中国が今後の国際秩序の構築において、「新時代の中国の特色ある社会主義外交思想」を指導方針としながら主導的役割を果たすことを明確に打ち出している。そこで、欧米を中心とした既存の国際秩序は、この中国がつくる新秩序にとってかわられるのか、その見通しについて尋ねた。

その結果、「既存の国際秩序を変更し、中国主体の新秩序にとってかわられる」との予測は2.8%にすぎなかった。ただ、「2つの秩序が並存し、衝突し続けることになる」との予測が44.1%となり、中国主体の新秩序の存在感が無視できないほど大きくなるとの見方は4割を超えている。

【既存の国際秩序と中国がつくる新秩序の行方】

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中国は自由貿易の旗手としての役割を「担えない」との回答が7割を超える

次に、これまでアメリカが担ってきた「自由貿易」の旗手としての役割を今後、中国が担っていけると思うかについて質問したところ、「担っていけない」という回答が74.8%となり、「担っていける」という回答の4.2%を大きく上回っている。ただ、「現時点では判断できない」と評価を保留する有識者も21%いた。

【中国は自由貿易の旗手となるか】

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米中間の貿易戦争については、両国の行動に「賛同できない」との回答が最多

アメリカの中国に対する340億ドル規模の追加関税措置に対して中国も同規模の報復関税を発動するなど、現在、”米中貿易戦争”の様相を呈している。そこで、アメリカと中国のどちらの行動に賛同するかを聞いた。

その結果、68.5%と7割近い有識者が、「どちらの行動にも賛同できない」と回答し、これが突出している。「アメリカの行動に賛同する」(9.8%)、「中国の行動に賛同する」(11.9%)はそれぞれ1割程度にすぎない。

【米中貿易戦争でどちらに理があるか】

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既存の秩序維持のため、多国間が関与する枠組みを求める声が半数近くに

政治・経済・安全保障など様々な面で中国の影響力が強まる中、今後、日本は中国に対してどのような行動をとるべきか。これに対し、有識者の49.7%と半数近くが「既存の秩序を維持するための枠組みを多国間で形成し、多くの国のコミットメントを求めていく」と回答し、これが突出して多い。

ただ、「中国が主張する一帯一路構想などを批判するだけでなく、中国との共同プロジェクトなどを進める」と中国に対して、ある程度歩み寄るべきだと考える有識者も25.2%いた。

また、安倍政権が進める「自由で開かれたインド太平洋戦略」に関連する「中国に対抗するため、インド太平洋戦略などの新しいアジア戦略を進める」を選択した有識者は11.9%と1割程度だった。

【今後、日本は中国に対してどのような行動をとるべきか】

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自由や民主主義といった戦後の規範を守るため、日本はリーダーシップを発揮すべきとの声が最多に

さらに、トランプ政権や中国の動向によって、世界秩序が不安定化する状況の中、日本の行動や役割について尋ねた。

その結果、「日本は、不安定な国際秩序下だからこそ、自由や民主主義、多国間主義に基づく国際協力など、戦後日本の発展を具現化してきた規範を世界に主張し、独自のリーダーシップを発揮すべき」が33.6%で最も多い。

次いで、「日本は過度にアメリカとの同盟関係にこだわるべきではなく、中国も含め様々な大国との関係正常化や協力を考える時期である」が28%、「日本は、この状況下では、アメリカ以外の先進国との連携を強化し、多国間の枠組みを軸とした共同のリーダーシップを模索すべき」が21.7%となっている。

これまで通り、一層強化し、アメリカを軸にした2国間での国際的なリーダーシップを強化すべき」は4.2%にとどまり、「トランプ大統領の行動に対抗するため、中国との連携を強化すべき」も2.1%にすぎない。アメリカ中心とした外交展開からの脱却と同時に、多国間の枠組みを重視する有識者の意識が鮮明となっている。

【日本がとるべき行動や役割】

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調査の概要

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言論NPO座談会・中国の戦略をどう読み解くか

(2018.7.25 言論NPO)

 司会者:工藤泰志(言論NPO代表)


 2018年は日中平和友好条約の締結から40周年。この節目の年に日中両国政府は関係改善に向けて動いている。一方で、中国の習近平国家主席は、国家主席の任期の撤廃など国内における指導力を強めると同時に、新たな国際秩序の構築にも意欲を示している。こうした新たな局面の中、日本は中国にどのように向かい合うべきなのか。今回の言論スタジオでは、中国の戦略を読み解きながら議論が展開された。

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 まず、司会の言論NPO代表の工藤泰志が、「中国の戦略をどう読み解くか」と題して行った緊急有識者調査の結果の概要を説明しました。その後、中国が自由で開放的な貿易体制の擁護者としての姿勢を示しその存在感を示しつつある中で、中国が貿易体制についてどのような国際秩序を求めているのかに関する本音が見えにくいことについて言及し、中国の本音に関する見解を3氏に問い、議論が始まりました。

 中国はなぜ自由貿易体制を望ましいと考えているのか

 初めに、川島氏は第19回党大会での「『新型の国際関係』に基づいて、経済的にウィンウィンの関係を作り、そのパートナーシップに基づき『人類運命共同体』を形成していく」という中国の習近平国家主席の発言に触れました。また、そこに民主主義という言葉が使用されておらず、既存の経済秩序とは異なった体制を2050年という遠い未来に作り上げることを想定していることを指摘しました。

 次に、「中国は周囲が自由貿易空間である方が望ましいと考えているのは、他の国々が自由貿易を推進している方が物を売買しやすいから。商品の宣伝もしやすいし、相手に浸透もしやすい。しかし中国自身は自由貿易主義をとろうとしない。それでも自由貿易と対立しないように、WTOには参与し、世界銀行やIMFとも対話を続ける意志を示している」と中国が自由貿易の旗手のように振る舞う理由について語りました。

 最後に川島氏は、中国はもし相手が言うことを聞かなければ経済的にも軍事的にも脅しとなる材料を保持しつつ利益分配を行っていることを強調した上で、貿易秩序のルールを欠いており、またそのようなものを作ることはできないと分析。「軍事力とルールを形成するには時間を要するという背景から、中国はしばらく世界の自由貿易体制に協調的となる」との見方を示しました。

“人類運命共同体”とは何か

 続けて工藤が、「中国のいうところの運命共同体とは、中国の勢力拡大を前提としたものなのか」と質問を投げかけました。それに対し川島氏は、「2050年時点で中国が世界一の経済大国となっていることが大前提。中華民族が世界のトップに立つ一方、他国への利益分配に関する判断については今後中国に都合のよいシナリオを作りあげるが、他国にも利益がある以上それでよいのではないかという姿勢をとるだろう」と断じました。

厳しい局面にある習近平政権だが、反転攻勢のチャンスも

 伊藤氏も、基本的には川島氏の意見に賛同しつつ、トランプ米大統領の出現によって中国が民主的で自由貿易主義的な国際秩序を作りあげるかに関する中長期的な設計の決定を迫られている事実を付け加えました。その上で、「今年は改革開放政策施行40周年で、習近平政権がどれだけ政策を実行してきたのかが突きつけられている。また、中国は国有企業の体制に関して国際社会から批判を浴びており、それに対する応答の要求もつきつけられているという厳しい状況にある」ことも指摘しました。

 しかしその一方で、「トランプはWTOの協定に違反する行為をとっており、中国はそれをうまく突いて、中国に自由貿易の守護者というイメージを作り上げられれば、中国は世界でのリーダーシップを形成できる」と、厳しい状況にありつつもチャンスもまた存在するという見解も提示しました。

 これに対し工藤は、米中の貿易戦争の現状について伊藤氏に問いかけました。伊藤氏は、「中国はWTOに加入した際の約束はある程度は果たしたが、輸出競争力をつけ、所得水準も向上し世界での影響力を高めたのだからもっと市場を開放をしてもよいのではないか」という見解が国際社会に存在していることに言及。したがって、中国にWTOルールに沿うようにさらなる市場開放を求めているトランプ政権の要求自体についてはあながち不当ではないとの見方を示しましたが、同時にその要求を通すための手段がWTOルールから逸脱するようなものであることの矛盾を指摘。実際、国際社会にもそうしたトランプ大統領のやり方に対する戸惑いが広がっていると述べました。

習近平演説から垣間見える中国の危機感

 続けて増田氏は、中国は国際社会でリーダーシップをとっていく方針を示しているものの、第19回党大会では「安全」や「国家安全」という用語が多用され、強国路線を示し国内外のリスク対処の協調姿勢を示していたことに中国の危機感を読み取れると語りました。また、一帯一路構想についても、「基本的な経済のコネクティビティの議論に帰結するのだが、アメリカとの関係に頼りきれないという側面があるので、中国が時代を掌握しているとは考えていないのではないか」と指摘しました。

自由貿易は中国にとっても利益だが、自身と同じ体制の国が出ていることは望まない

 3氏の発言を受けて工藤は、中国にとって自由なシステムが中国経済にとって利益となるという論点に着目しました。そして、「そのようなシステムを目指しながら共産党指導体制を維持するということは可能なのか。それが可能だとしても、今回のトランプの刃に対して中国は自由貿易の旗手としてどう対抗するのか」と疑問を投げかけました。

 川島氏は、「中国にとって世界が自由貿易体制となるのは望ましいことだが、中国自身と同じようなコピーが世界にたくさんできると困ってしまう。アメリカのような自国保守的姿勢に対しては、WTOを利用してノーを突きつけるしかない」と、中国が直面している困難について語りました。

 伊藤氏は、中国自身も開放の必要性は自覚していると述べた上で、「早い段階で開放してしまうと、国有企業の問題が発生してしまう。そこに対する不安の一つは、共産党のレゾンデートル(存在意義)とも関連する。現実的問題として、中国の国有企業の割合は約半分であるが、それらが国際競争に巻き込まれた場合に国有企業の存続と競争の両立が図れなくなる。その中で、EUなどと新しいWTOのルールを作るための協議を進めることで、変わっていく中国というイメージ作りと時間稼ぎをしている」と論じました。

安全保障上の中国の最終目標とは

 最後に工藤は、「2050年までに中国が軍事拡大を推進すると述べているが、中国は最終的な世界の安全保障体制をどのようにイメージしているのか」と更なる論点を加えました。

 それに対し増田氏は、現時点ではわからないと前置きした上で、「基本的には2049年までに世界一流の地位を得ると言っているが、世界一流という言葉は極めて曖昧である。ただ、かつては軍事バランスの観点では中国はアメリカには敵わなかったが、中国近海ではバランスが変化する可能性がある。軍事的なものを表には出さずに、アメリカと対立しないように中国は強い戦域を周辺に作り上げる方向へ進んでいる」と応答しました。

中国の目指すものは何か

 第2セッションに入ってまず工藤は、「中国は共産党の指導により中央集権体制などを整え、力の集約によって、何を実現しようとしているのか」と問いました。

 川島氏は、「共産党の一党独裁体制の維持、これが中国の第一目標であり、目まぐるしく変わる世界情勢に迅速に対応する体制を、どう作ればいいか。それには、集団指導体制でトップに力を集め決断させていくしかない。党主席制にはいかなかったが、習近平は、毛沢東、鄧小平レベルになり、憲法の改正で最低10年は力が発揮でき、次があるかもしれないと見せることが可能になり、レームダック化しない」と指摘。

 一方で、「中央の権力政治においてはこれでいいかもしれないが、中国の弱いところは、個人崇拝が過ぎると党内で反発が出てくることだ。特に、地方社会にパワーを十分に持っておらず、地方政府が萎縮している面もあり、仕事をやらないサボタージュ傾向もある」と解説しました。

 こうした独裁的な動きに対し、中国国民は反発しないのか、との工藤の問いには、「色々な批判はあるが、公の場で批判をすれば捕まるから皆さん黙っている。それに昔と違って、ハイテク権力だから発言しにくくなっている」と、苦笑する川島氏です。

美しく良い生活を決めるのは

 では、経済的には何を実現しようとしているのか。「中国は今、国民の多様な価値観の登場と、それを十分に満たせていない矛盾を抱えている状況で、これをどう処理していくかに強い危機感がある。その結果として、できるだけ権力集中し、トップデザインで高みに立って調整をしていかないと、中国の諸問題は解決できない。しかし、トップの権力者が全て指示するのは非効率であり、人治ではなく、ルールベースのガバナンスを作らないと、政権は十分に機能していかないのではないか」と、伊藤氏は説明します。

 さらに川島氏が言葉を繋ぎます。「中国は沿海部を中心に非常に豊かに発展し、人々は多様な価値観を持つようになった。それに対して共産党の一党独裁を続ける上で、1981年にできた市場矛盾は、人々の物質的需要に対して生産が追いつかない。だから単純に数値を伸ばすことで対応してきた。それが今度は、”美しく良い生活”を実現したい、それに対し生産が不均衡で不十分だ、とそういう矛盾に変えた。”美しく良い”とは形容詞で、測定できない。そこで、その価値を党の方で決めた。我々が価値、基準、規範を作るということに共産党が転換した」と説明しました。

 これに対して、「中国は市場化すればするほど、国民の様々なニーズと党の連携によって、QOL(生活の質)を実現する仕組みになりえるのか」と、工藤は尋ねます。「そこを上手にやっていかないと政権に対する支持が失われることを政権としても気にしている。何が中国にとって正しいか、それを決定する力は共産党にあるが、世論はどうなっているのか、その声は政策に反映されているか。上からの指導だけではなく、公聴会などをしっかりやり、業界との関係なども密接にするのが大事だ」と返答したのは伊藤氏です。

規模とスピード感の中国

 議論では、顔認証システムなど中国が力を入れている高いレベルでのリスク管理の技術開発も取り上げられました。増田氏がその背景を説明します。「AIは常に更新する必要があるので、ビッグデータを取っている。この分野は、それまで米国の独占状態だったが、中国はそれができる規模を持っている。その結果、米国にとっては安全保障上のリスクにもなっている」と語り、今後、この分野でのルール化が必要となる場合、中国は国家戦略として取り組める強みがあり、「規模とスピード感」でイノベーションできる国と、その脅威を語りました。

 最後の第3セッションではまず、日中平和友好条約40周年を迎える今年、日中関係をどのように発展させるべきか、について議論が交わされました。

日本が中国を助ける課題、中国が日本を助ける課題

 川島氏は、まず中国の軍事的な側面の現状評価として、「グローバルでアメリカに追いつくことは到底不可能であるが、中国近海ではアメリカを凌駕する力を持ち得る」、「サイバーではアメリカの弱点を突くことができる力がある」などと分析。こうしたことから、東シナ海でのアメリカの優位性は落ちて来るとの見通しを示しつつ、これは「日中関係に直結する問題であり、こうした軍事・安全保障上のリスクは日中関係をこれから考えていく上での大前提となる」と指摘しました。

 その上で、イノベーションについて言及。AI技術などを中心として、次の「第4次産業革命」をどこがリードするのかが大きな焦点となっている今、そこでやや出遅れている日本は、キャッチアップしていく上で中国と協力していくべき領域が大きいと語りました。

 逆に、中国の国家目標に盛り込まれているQOLについては、日本に優位性があるので、環境や社会保障面を中心として「中国の新たな国家建設に協力していくことがあり得る」と語りました。

通商では協力の余地が大きいが、AIでは注意も必要

 伊藤氏は、トランプ政権の誕生に伴い、中国は開放を迫られているが、「自主的な開放」という名の下、これまでよりも開放のペースを早めているとした上で、それは中国自身の国益になると同時に、日本も含めた東アジア、ひいては世界全体の利益になると指摘。したがって、日本は中国に対し、開放をさらに促すようなメッセージを出していくべきと述べました。

 伊藤氏はそれに加えて、自由貿易が危機に晒される中、WTO体制の再構築についても、日中は、EUなどとともに取り組んでいくことが求められているとし、ここでも協力の余地が大きいとの認識を示しました。

 もっとも、伊藤氏はAI技術における協力については、その必要性を認めつつも、この技術が軍事・安全保障とも密接に関わってくるため、「『線引きとルール化』をしっかりと定めておかないと国際的なアライアンスは困難になる」と注意を促しました。

中国の船舶急増に伴い、自衛隊は新たな対応が求められる

 増田氏は、日中間の安全保障関係については、「海空連絡メカニズム」などで前向きな進捗が見られることを評価しつつ、「もっとも、これで十分というわけではない」とも指摘。その理由として、日中間の安全保障領域では、「グレーゾーン」が中国に有利な形で拡大しつつあることを挙げました。そこでは、このグレーゾーンを軍事的な次元までエスカレーションさせないために、「我慢をし、自衛隊の力をシグナルとして見せることにかなり慎重だった」とこれまでの日本側の対応を振り返りましたが、「中国の法執行機関の船舶が急増している現状では、グレーゾーンを日本に有利なかたちで管理可能かというとかなり悲観的にならざるを得ない。そこで自衛隊の見せ方も含めて今一度対応を考えなければならない」と語りました。

 しかしその一方で、防衛交流など安定的なコミュニケーションの維持も不可欠であるため、「異なる方向の2つのベクトルを両立させることは難しい作業だ」とし、日本が直面する課題の大きさを明らかにしました。

 最後に工藤は、アメリカの変化や中国の動向を踏まえた上で、今後の日本がとるべき立ち位置について尋ねました。

価値観を共有する国々との連携が重要

 これに対し増田氏は、アメリカに対する信頼感が下がってきたからといって、「いきなり中国側に行くわけにはいかない」とし、日本と価値観を共有する国々との連携の重要性を強調。安全保障面でいえば、すでに協力の蓄積があるオーストラリア、インドなどとの関係をさらに強化すると同時に、アメリカ以外のG7国とも連携を深めた上で、中国と向き合っていくことが大事だと説きました。

 伊藤氏はまず、日米FTAなど2国間交渉を求めてきているアメリカに対しては、「アメリカが要求している開放事項についてはある程度は”お付き合い”をしていく」ものの、同時に「開放しても経済成長をしていけるような力を日本自身が身に付けていくこと」が必要になると指摘。

 同時に、中国はまだ輸出依存度が高い経済であり、多国間主義、自由貿易主義の恩恵は大きいため、「これらを擁護するために中国により大きなコミットを求めるべき」と主張。その際、日本だけでなく、EUなどとも連携して働きかけていくことによって、「その場限りの対応ではなく、新たなルールを形成していくために働きかけるべき」とし、増田氏と同様に価値観を共有する国々との連携がカギとなるとの見方を示しました。

短期的には時間稼ぎで対応。長期的には戦略の練り直しも

 川島氏は、アメリカがリベラルな秩序から後退している現在の対応としては、「時間を稼ぐこと」がまず大事になると指摘。具体的には、「中国に対しては、『こちら側のルールに則った方がメリットがある』ということを理解させて、新秩序構築を足止めしながら、アメリカが”こちら側”に戻ってくるのを待つ」べきと語りました。

 もっとも、これはあくまでも短期的な戦術にすぎず、仮にトランプ政権が2期にわたり、さらにその後任も同じような主張の大統領だとすると、「アメリカを軸とする国際秩序を維持することは困難になる。そうなれば、同盟国+αという新たな枠組みや戦略も考えなければならない」と警鐘を鳴らしました。

 その後、会場からの質疑応答を経て最後に工藤は、「日中関係や北東アジアの今後の方向性については、専門家の議論を見てもかなり大きな差が見られるし、政治からのビジョンの提示はまだない」とした一方で、言論NPOが実施している世論調査結果からは、両国国民が「平和」と「協力発展」を求めていることは明確であると指摘。その基礎をつくるための動きを民間から進めていくことの強い意欲を改めて示し、議論を締めくくりました。

2018年7月26日

・「第6回日韓未来対話」大きく動く北東アジア情勢-日韓関係は、朝鮮半島は-(言論NPO)

・北東アジア情勢が大きく動き始める中、新たな日韓関係をどう構築すべきなのか ~

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 言論NPOは6月22日、東アジア研究院(EAI)と韓国高等教育財団との共催で、「第6回日韓未来対話」をソウルで開催しました。

 今回の対話は、歴史的な米朝首脳会談終了後、日韓両国で初めて行われる民間のハイレベルな対話で、外交、安全保障の専門家や、政治家、メディア関係者ら20氏が参加し、100人を超える聴衆が議論に耳を傾けました。

まず、今回の「第6回日韓未来対話」開催にあたり、日韓両国の主催者を代表し、東アジア研究院院長の孫洌氏、言論NPO代表の工藤泰志が挨拶に立ちました。

 孫洌氏は、日韓未来対話の特徴として、世論調査をベースにしながら日韓両国の未来や協力関係について議論する場であることを挙げました。その上で、「韓日両国で何かの事象が起こればすぐに世論に反映されてしまう。韓日国交正常化以降、世論をベースにした両国の対話が蓄積されているのはこの対話だけであり、今回の対話にも期待したい」と語り、北東アジア情勢が大きく動く中、今回の対話への期待を示しました。

 続いて挨拶した工藤は、日韓未来対話の特徴である公開対話や世論調査の動向にこだわる理由として、「多くの市民が当者として自らその改善に取り組まない限り、日韓両国の未来は描けないからだ」と語ります。そして、南北首脳会談、米朝首脳会談を経て、歴史的な局面で開催される今回の対話について、「北東アジアに平和な未来を作り出すためにも民間にいる私たちも議論を開始したい。その議論を通じて、皆さんも日韓関係の未来を考えてもらう契機にしてほしい」と聴衆に語りかけました。

 次に、祝辞として挨拶に立った朴仁國・韓国高等教育財団総長は、2回の南北首脳会談、米朝首脳会談を経る中で、日韓間でもグローバルストラテジーをつくるなど、日韓関係も新たな挑戦に取り組む必要があると指摘。さらに、「非核化のプロセスが進み、朝鮮半島の情勢が動く中で、米朝関係がどのような構造に変化していくのか、日韓両国で注視する必要がある」と語ります。そして、今回の対話が、日韓両国が協力しながら北東アジアの平和に向けて努力するための、課題やその解決方法を提供し、新時代の課題に向けて日韓協力の契機になることへの期待を示しました。

 続いて登壇した、東アジア研究院理事長の河英善氏は、今回の対話へ3つの期待を示しました。まず、過去の日韓関係を振り返りながら、今回の対話が過去と未来、国家と世界を複合的に見ながら、過去の時代の精神を受け継ぎ、世論をリードしていくような対話にしていくこと、さらに、19世紀半ば以降、両国間での悲劇的な体験のため、力ではなく、感情が両国の国際政治に影響を与えてきたが、世論調査といった手段を利用して、両国国民の心の声に耳を傾けていく重要性と期待を示しました。

 そして最後に河氏は、朝鮮半島の国際秩序は未来を予測できないほど速い変化の渦の中にあるとした上で、北朝鮮の核問題を解決し、非核化を実現するためには、「関係国の国際協力が必要不可欠であり、その中で韓日の協力は大きな構成要素を示している」と指摘。当面の日韓関係を改善していく上でも、未来志向的な対話を行える今回の対話は最適であり、2日間の対話を通じて、北朝鮮の非核化を含め、アジア体制の新秩序を示してほしい、との期待を込めて挨拶を締めくくりました。

 祝辞の最後に登壇した小倉和夫・国際交流基金顧問は、今年行われた日韓世論調査結果の分析として、韓国は今ある問題や課題を解決することによって日韓関係が樹立されるととらえている一方、日本は信頼関係を樹立することによって現在の問題を解決できる、という認識ギャップを指摘。このギャップを克服するために、日韓関係を日本と韓国の関係と見るのではなく、東アジアや世界全体で考えるなど「発想の転換が必要だ」と述べ、今回の対話では「発想の転換」を念頭に、活発な議論が行われることを期待したい、と語りました。

 こうした挨拶を受け、公開セッション1「2018年、日韓共同世論調査結果に基づく日韓国民の外交政策に関する意識の動向」が始まりました。

公開セッション1

2018年日韓共同世論調査結果に基づく日韓国民の外交政策に関する意識の動向

第1セッションの議論に先立って、今回の「第6回日韓共同世論調査」の結果概要について両国から報告が行われました。

浮き彫りとなった日韓間の意識のギャップ

 まず、韓国側からは孫洌氏が登壇し、今回の調査結果の中で、特に顕著な傾向を示し、注目すべきポイントについて説明。様々な項目で日韓間の認識のギャップが浮き彫りとなったことを明らかにしました。

 孫洌氏は最初に、「相手国に対する印象」に言及し、この6年間の経年変化を見ると、韓国人の対日印象は改善傾向にあるのに対し、日本人の対韓印象は下落傾向にあると指摘。そのうち、韓国側世論の傾向を掘り下げて分析した結果としては、「日本に対する渡航経験がある層」、「若い世代」、「高学歴」は日本に対して良い印象を持つ人が相対的に多い傾向にあると解説し、「さらなる印象好転の手掛かりを得るためにも、こうした結果となった原因を探るような議論をすべき」と語りました。

 孫洌氏はこの他にも、「相手国への渡航希望」の有無や、「日韓関係の重要性」を認識しているか否か、「慰安婦問題をどう解決すべきか」、「自国の将来を考える上で重要な国」などといった質問項目で日韓間のギャップが大きかったことを指摘しましたが、今回特にその傾向が大きかったものとして北朝鮮の核開発問題や朝鮮半島の将来についての結果を紹介。特に、核開発問題の解決時期について、「解決は難しいと思う」という回答が日本人では65.1%だったのに対し、韓国人では昨年の71.3%から23.2%へと急減した結果に言及し、こうした認識の相違がある中、いかにして朝鮮半島と北東アジアの平和をつくっていくべきなのか、日韓間で掘り下げた議論をすべきと呼びかけました。

協力に対して「反対」は少ないことは光明

 続いて工藤が登壇し、孫洌氏の報告を踏まえながら日本側の読み方について解説しました。まず、北朝鮮の核開発問題や朝鮮半島の将来について、日本人は韓国人だけではなく、米国人との比較で見ても懐疑的であることを、今月上旬に公表した「第2回日米世論調査」結果を紹介しながら指摘。そして、その原因として、一連の外交交渉の中では、日本が当事国ではないために「距離感がある」とした上で、さらに、「政府が交渉当事者であればその結果をメディアに説明し、それをメディアが国民に説明するという流れになるが、政府からの情報がないため、メディアの周辺取材による情報しかないのが現状だ」と解説。判断材料の不足が懐疑的な見方の背景にあると語りました。同時に、国民感情が現状認識に及ぼす影響についても言及。その証左として、韓国に対してプラスの印象を持っている人は、核開発問題や朝鮮半島の将来に対しても比較的楽観的な見通しを持っていることを紹介しました。

 その国民感情の現状については、渡航経験が相手国に対する印象改善に寄与することを踏まえた上で、日本人の訪韓者数が伸び悩んでいることが、対韓印象の大きな改善につながらない一因にあると述べました。しかし、より根本的な原因として工藤は、日韓関係はなぜ重要なのか、という設問に対して、日本人の回答は「隣国だから」など一般的な認識にとどまり、「民主主義などの価値を共有する」、「米国の同盟国同士」などを選んでいる人が少ないことを指摘。アジアが大きく変化する中で、なぜ日韓関係が重要なのか、しっかりと考えていないことが、相手国に対する無関心にもつながっているとの認識を示しました。

 もっとも工藤は同時に、「この状況は決して絶望的ではない」とも語り、その根拠として、安全保障など日韓間の様々な協力を問う設問において、日本人では「わからない」は多いものの、「反対」は少数派であることを挙げました。そして、「平和実現のために力を合わせる必要があるということは多くの人がきちんと理解している」とした上で、それを確固たる認識とし、北東アジアの平和で安定的な未来につなげるために「両国は話し合うべき」とし、これからの対話の展開に期待を寄せました。

 世論調査結果の報告に引き続いて、パネリストによるディスカッションに入りました。

新たな日韓関係を構築するために、埋めるべき認識の相違とは

 西野純也氏(慶應義塾大学法学部教授)はまず、今年中に朝鮮戦争の終戦宣言が行われる可能性が高く、朝鮮半島及び北東アジアは新しい秩序に向けて動き出している局面にあると現状分析。そうした中では「新しい日韓関係を新しい秩序に埋め込むべき時期に来ている」と切り出しました。

 しかし、韓国側では、文在寅政権下でこの1年間、慰安婦問題で国民世論を意識した様々な動きが展開される中、それに呼応して韓国国民の意識にも落ち着きが見られる一方で、それを見た日本側は日韓関係の先行きに対して不安を感じ、さらには不満を抱き始めていると指摘。これが日本側が今後に対して明るい展望を描けていない背景であるとするとともに、こうした認識の相違を埋めることの必要性を説きました。

 一方、西野氏は、日米韓の安全保障協力に対して、韓国世論が肯定的な結果について、日本側は軍事的な”抑止”をイメージしているのに対し、韓国側は”関与”をイメージしているのではないかと指摘。したがって、これが日韓協力拡大の土台となり得るかどうかについても、「慎重に見るべき」と注意を促しました。

認識の相違を埋めるため、活発な戦略的対話が不可欠

 趙世暎氏(東西大学校日本研究センター所長、元外交通商部東アジア局局長)は、西野氏が指摘したような韓国政府の慰安婦問題に関する新たな動きへの日本側の不信感に対して、「こうした日本側の雰囲気を韓国側も理解する必要がある」としました。しかし同時に、韓国政府が取ろうとしている新たな措置は慰安婦問題そのものに向けたものではなく、国際的な人権擁護一般に対する取り組みであるとして、日本側に理解を求めました。

 また、日米韓協力の強化については、北東アジア全域の秩序構築をしていく上では中国、ロシアの参画が不可欠であるとし、単にアメリカを中心とした秩序を追求していくだけでは不十分であるとしました。そして、中露との距離感は日韓両国では異なる以上、簡単に見解は一致しないため、今まで以上に活発に戦略的な対話をする必要があると語りました。

よりオープンでルールに基づいた秩序をつくり出すために、日韓は協力すべき

 李淑鍾氏(成均館大学校国政管理大学院教授、前東アジア研究院院長)は、今後の日韓協力を拡大していく上でのポイントとなるものとして、「朝鮮半島情勢の安定化」と、「アジア太平洋のルールに基づいた秩序づくり」を提示。前者については、非核化、さらに北朝鮮の経済安定化にも長いプロセスが必要となることから、そこで日本が果たす役割は大きいと期待を寄せました。

 後者についてはまず、米国がアジアに対する関与から手を引くとともに、中国のさらなる台頭が予想される中では、アジア太平洋地域の秩序の不安定化が予想されると懸念を示しました。その上で、日韓両国の中国に対する見方の差が小さくなりつつあることから、両国が協力して中国を巻き込みながら「よりオープンでルールに基づいた秩序をつくり出すべき」と主張しました。

これを受けて杉田弘毅氏(共同通信社特別編集委員)も、日韓は共にルールに基づいた秩序の恩恵を受けて成長してきたことを指摘した上で、だからこそ日韓両国がこの秩序を支えるべきと応じました。

 一方で、今回の世論調査結果では、民主主義という普遍的な価値観を共有していることの意識が薄かったということを問題視。特に、世界的にこの価値を否定する風潮が蔓延する中で、日韓両国までもがその波に乗ってしまうことへの懸念を示した上で、こうした普遍的な価値観を守るために、日韓両国の知識層が具体的な行動をとることの必要性を説きました。

政治リーダーやメディアは何をすべきか

 沈揆先氏(ソウル大学校言論情報学科基金教授、元東亜日報顧問)は、日韓間の印象や認識を改善する上でカギとなるものとして「リーダー」と「メディア」に言及。まずリーダーについては、これまで両国のリーダーに求められてきたのは、国民の情緒を忠実に反映することであったと振り返った上で、これから求められるのは、短期的には国民にとって不都合なことでも、大局的な観点に立って粘り強く説得することだと主張。そうしたリーダーシップの発揮に政治家が躊躇するようであれば、今後も日韓関係は変わらないと断じました。

 さらに、こうしたマインドの転換はメディアにも求められるとし、相手批判に終始するのではなく、相手と対話したり、説得したりするようなスタイルへの転換を求めました。

 阪田恭代氏(神田外語大学国際コミュニケーション学科教授)は、「日韓関係はなぜ重要なのか」という設問に対して、日本人の回答は「隣国だから」など一般的な認識にとどまっていることに対して、より戦略的な理由で「重要である」と感じられなければ日韓関係は成熟した関係にならないと指摘。その上で、そうした重要性を国民一般に認識させるための方策として、両国の首脳が折に触れて相手国のメディアに登場してビジョンを発信したり、相手国の国民と直接対話したりすることなどを提案しました。

 朴仁國氏(韓国高等教育財団事務総長、元国連大使)は、沈揆先氏が言及したメディアのあり方について、特に携帯機器を日韓関係や相手国に関する情報源とする人は、テレビや新聞など既存のメディアを主な情報源とする人よりも、日本に対して良い認識を持つ傾向にあることから、両国民の認識を改善していく上で、こうした新しいメディアの活用法について検討を進めるべきだと語りました。

 また、阪田氏が語った首脳による直接発信に賛同。4月の板門店会談で、北朝鮮の金正恩委員長の肉声が直接韓国のテレビで流れて以降、金委員長に対する韓国国民の印象が改善していることを紹介し、「金委員長でさえ改善するのであれば、安倍首相なら大きく改善するだろう」と述べました。

より根本的な日韓間のギャップとは

 澤田克己氏(毎日新聞社外信部長)は、工藤の「韓国に対してプラスの印象を持っている人は、核開発問題や朝鮮半島の将来に対しても比較的楽観的な見通しを持っている」という点について、その裏返しとして、「韓国に対して嫌悪感があるが故に、対北政策が進展することを快く思わない層が存在している」と指摘。同時に、日本人の対韓印象が好転していない背景には、日韓間の国力差の縮小があるとしました。そしてその結果、日本側にかつてのような余裕がなくなったために、「以前であれば受け流せたような批判に対しても非常に不快感を抱いてしまう」とし、これが日本側の対韓印象、認識の背景にある大きなトレンドであると語りました。

 また、韓国は大統領制であるが故に、政権が代われば対外関係もリセットするという意識がある一方で、日本側にはそうした意識はないために、文政権に対して大きな不信感を抱くに至ったと分析し、「こうした認識の違いをどう克服するか。これを直視せずに首脳レベルの交流を促進しても根本的な解決につながらない」との認識を示しました。

日韓が真のパートナーとなるために必要なこととは

 高杉暢也氏(元韓国富士ゼロックス代表取締役会長兼CEO)は、韓国で19年間を過ごした経済人としての立場からコメント。これまでの韓国生活からは、「漢江の奇跡」や通貨危機など様々なパラダイム・チェンジを経て経済発展してきた韓国の自信を感じると評価。そして、日韓は単なる2国間を越えて、アジア、そして世界の発展に貢献していく上でのパートナーになるべき存在であると説きました。

 しかし、そうした思いから日韓間の経済、文化交流に携わっているものの、時として韓国が日本に対して仕掛ける”道徳争奪戦”のようなやり方に対しては不満を感じるとし、「これを解決しないと日韓協力は前に進まない」と苦言も呈しました。

川島真氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)は、世論調査と対話のあり方について提言。政府間関係のあり方など、政府に対する提言になるようなものにとどまらず、「同じ民主主義国家同士である以上、国民同士の関係をどう構築するか、国民間の合意をどうつくるか、などといった視点から調査や対話をしていくことができるはずだ」と主張。そうした展開を基礎に国民間の信頼を構築していくべきだと語りました。

 尹炳男氏(西江大学校史学科教授)は、学生を引率して日本を訪問した後、その学生たちの対日印象が改善したのを、身を持って体感したという経験を紹介。孫洌氏の「日本に対する渡航経験がある層」の対日印象が高いという分析結果に全面的に同意しました。さらに、直接交流の好影響はそれにとどまらないとし、例えば、文化やライフスタイル、さらには個人を尊重する日本の風潮などについても、「自然と韓国に入り、広がっている」と指摘し、やはり交流拡大こそが日韓関係改善の王道であると強調しました。

 これを受けて最後に工藤は、直接交流が印象改善に寄与するのは事実としつつ、調査結果をさらに深掘りすると、「単なる渡航経験だけでは、例えば、『日本は軍国主義の国である』などといった政治・社会体制に対する誤解は解け切れていない」ことを解説。したがって、より直接的な判断が可能とならない限り、根本的な認識の改善につながらないとした上で、相互理解を深めるために何をすべきなのかこれからも議論をすべきだと語りました。

米朝会談の評価と朝鮮半島の今後を考える

公開セッションの第2部は、言論NPO代表の工藤の司会の下、「米朝会談の評価と朝鮮半島の今後を考える」をテーマに議論が行われ、辛星昊氏(ソウル大学校国際大学院教授)ら四氏が基調報告しました。

トランプだからできた米朝首脳会談

 辛星昊氏は、「日本は明治維新150年で大変、重要な時期を迎えているが、将来に向けて行動をするなら、過去を振り返るのが大事だ。多くの朝鮮通信使が通った下関は、日清戦争の講和条約が結ばれた地で、北東アジアの情勢も大きく変化していた。その時と同じで、北東アジアでは毎週のように首脳会談が行われている」と、まず日韓の歴史を振り返りました。

 そして辛星昊氏は、「米朝首脳会談については、会談自体は問題なく終了し、G7の雰囲気が悪かったこともあり、トランプ大統領はシンガポールでは満足していたのではないか」と、直前に開かれ米国とG6の間の溝を引き 合いに出して語ります。その上で、米朝会談の評価として、「失望も多かった」と指摘。「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の合意を期待していたものの、一般的な宣言だけで成果はなかった、と語りました。一方で、アメリカと北朝鮮の最高司令官同士が70年ぶりに会談したことについては、「トランプ氏が大統領だったからできたことで、オバマ前政権だったら不可能だった。トランプ流の外交に対して批判はあるが、ユニークな外交スタイルで、自分独自の判断で決め、金正恩氏がそのチャンスを捉えた結果だ」と歴史的な会談の実現について、トランプ流の外交に一定程度の評価を与えました。

 但し、トランプ大統領が在韓米軍の韓国との合同軍事演習を停止する、と電撃的に記者会見で表明したことについて、米国と他国の同盟に及ぼす影響は大きく、トランプ大統領が歴史的な米朝首脳会談という高揚感からか口走ってしまった米韓合同軍事演習停止の影響を心配します。

非核化のプロセスと平和のプロセスを同時に行うことは可能か

 次の基調報告は、中国から朝鮮半島を観察している川島真氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)です。川島氏は「明治維新100年は、1968年で東アジアでは未曾有の学生による民主化運動が起こり、日本は世界2位の経済大国になった。維新150年の2018年は東アジアは歴史的な大きな転換点であり、変動の時期になるのではないか」と詰め掛けた聴衆に語ります。

 そのうえで、朝鮮半島の非核化について、「米朝関係の信頼関係形成が前提条件になっているが、果たしてそれをいかに行うのか、ということは不透明なままであり、今回の合意事項は”プロセス”というべきものだ。トランプ政権の今後、個々の担当者の継続性から見れば、そのプロセスの遂行は可能なのか疑問が残る」と今回の米朝合意に疑問を投げかけます。さらに、非核化のプロセスと、平和のプロセスを同時に行うことについて、「政治、安全保障、経済などの面での『保障』を与えながら非核化していくということになり、どのような非核化の行為に対して、どのような保障を与えるのかということも定かではない」と述べ、非核化と平和プロセスの複雑な背景を説明。加えて、川島氏は「アメリカ側が主張していたような、非核化が完遂してから次のプロセスに行くのではなく、非核化と平和のプロセスを同時に進めようとしているが、これは中国自身が提案していたことでもあり、中国は自らの提案が実現したと胸を張っている」と話します。

日本にとっても様々な面で避けて通れない北朝鮮問題

 こうした点も踏まえながら、非核化の完遂と拉致問題の解決を、経済支援などの条件としてきた日本にとっては、大きな衝撃であり、安倍政権は北朝鮮の問題を避けて通れなくなるだろうと語ります。そして、日本は少なくとも、非核化のプロセスとともに、平和のプロセスにも一定の貢献を求められ、経済支援もそこには含まれるかもしれない、と川島氏は分析しました。

 また、朝鮮戦争の終結が行われれば、国連軍司令部が撤退することになり、同時に在韓米軍の改編が行われることは必至と見られ、これは日米同盟のありかただけでなく、東アジア全体の安全保障体制に影響する問題で、この点で日本は、米中韓と密接な関係を持ちつつ、北朝鮮との直接対話をするよう求められるだろう、と川島氏は指摘します。その上で、難しいのは中国のスタンスだと主張。「中国から見れば、北朝鮮の核保有以上に在韓米軍が問題だった。20世紀後半、アメリカを中心とするハブ&スポークスの切り崩しを図り、1979年に台湾から米軍が撤退し、1990年代にはフィリピンから米軍が撤退すると、中国は南シナ海に展開した。今回、朝鮮半島から米軍が撤退すれば、三度目の成果となるだろう」と過去の状況も踏まえた見解を主張しました。

 今回の米朝接近に際して、金正恩が三度にわたり訪中し、中国が深くコミットしたことについて川島氏は、「特に注目されているのは、二回目の大連での中朝首脳会談後、北朝鮮が国家建設の重点を経済に移すと宣言し、中国がこれを支持したこと。これは事実上、経済制裁を解除することを示唆していたと言える」と語りました。さらに、6月12日の会談当日、中国外交部スポークスマンが、経済制裁解除と、あるいは暫時凍結をほのめかしてることに触れ、「日朝二国間ではなく、東アジアという大きな枠組みから日本に役割が求められた場合、安倍政権はそこにコミットせざるをえなくなる」と述べる川島氏でした。

北の核武装阻止ができないということは、パンドラの箱を開けるのと同義

 次いで香田洋二氏(元自衛艦隊司令官)がマイクを握ります。「アメリカは二度と過ちを繰り返さないこと。クリントン政権時は核凍結で合意し、六カ国協議の時も、2012年のオバマの時には非核化合意も、実施の段階で徹底してできなかった」と過去の北朝鮮に対する合意を振り返りました。その上で、「北朝鮮の首に縄をつけてでも徹底的にやらせる。これができるのがトランプなのだ」と、持論を展開します。一方で、今回の米朝会談後の記者会見でトランプ大統領が「同盟は金がかかる」と発言したことで、ドイツ、イタリア、イギリスに8万人の米兵を置くNATOとの同盟、3万2千人を置く米韓同盟、7万人を数える日米同盟の三つの同盟の足元がグラついていることを指摘。こうした状況を高笑いしてみているのか中国だと語ります。

 さらに香田氏は、「北の核武装阻止は、核拡散のカギを開けさせないためで、拡散すれば人類が消滅してしまう。だからこそパンドラの箱を開けてはいけない」として、今後、どんな道筋を描いていくのか、米朝の交渉を心配しながらも、北の核武装阻止は人類にとって必要不可欠だと強く話す香田氏です。

日韓両国は歴史問題を乗り越え、信頼関係を改善し、北朝鮮を説得できるような協力強化を

 田奉根氏(国立外交院教授)は、米朝首脳会談の成果として、①お互いの立場を確認したこと、②包括的ではあるが米朝関係を改善し、朝鮮半島の非核化の合意をしたこと、③独裁者を国際社会に引っ張りだしてきたことを挙げました。そして、田奉根氏は何より衝撃だったこととして、軍事演習の中止が記者会見で語られたことで、核の非核化をしない可能性が出てきたことを挙げ、「根本的な解決はさらに難しくなった」との見解を示しました。

 さらに、今回の会談を受けて日韓両国の協力できることとして、日韓両国が立場を超えて努力すること、経済的な面のみならず、様々な形で協力できるような改革を行うこと、核脅威が完全に消えるまで日韓の安全保障協力を強化することを指摘し、そのためにも日韓両国は、たとえ、歴史問題を抱えていても信頼関係を改善し、拉致や関係問題を解決できるように一緒に説得できるように協力を強化することが必要だと語りました。

 4人の基調報告終了後、司会を務める言論NPO代表の工藤泰志が「金正恩氏は本気で核を止めようと思っているのか」とパネリストに投げかけると、「本気だ」と手を挙げたのは慶應義塾大学法学部教授の西野純也氏、これに対して「本気ではない」と手を挙げたのは元自衛艦隊司令官の香田洋二氏で、多くのパネリストは北朝鮮の非核化に対する本気度については「決めかねている」と回答し、議論はスタートしました。

認めるわけにはいかない「力の外交の勝利」

 まず、韓国大使を務めたこともある小倉和夫氏(国際交流基金顧問)は、今回の米朝会談について、北朝鮮は米国が善意の措置をとれば自国も善意の措置を取るといい、米国は北朝鮮が自国を信頼するに値する何らかの措置をとれば行動する、という態度をとっており、米朝間での埋められていないギャップを指摘。その上で小倉氏は、「米朝両国とも『力の外交の勝利』と言っているが、これを世界中で認めるわけにはいかない」として、そのためにも米朝間のギャップを埋めるために、日本も間接的に協力しながら、韓国が米朝間の間を取り持つことができるのではないかと語り、韓国と日本の役割に言及しました。

 続いて発言した申珏秀氏(韓国国立外交院国際法センター所長、元駐日韓国大使)は米朝会談について、信頼関係の初めのボタンが半分かけられたことは評価しているとする一方で、米国の強い圧力による交渉にもかかわらず、追加的な交渉は行われるとしても、結局は北朝鮮が主張してきた段階的な核軍縮が確認されたと言えるのではないか、と指摘。そして、「我々は後戻りできない橋を渡ったかもしれない、ということを深刻に考えるべきだ」と語り、今後、日米韓3カ国や国際社会が「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)」が実現するかを注視していく必要性を強調しました。さらに重要な点として、①時間を引き延ばすだけでは北朝鮮の核開発は続く可能性があるためタイムリミットを設定すること、②未来、現在の核の廃棄と、ICBM能力を制限するという線で適当に終わらせる可能性もあるため、過去の核の廃棄まで求める、③制裁についても多様な制裁の方法があるため、今後の交渉におけるロードマップが重要だ、との見解を示しました。

 慶應義塾大学法学部教授の添谷芳秀氏は、「米朝両首脳が会談し合意したことは1つの成果だ」と評価する一方で、「交渉したものの公表するレベルに至らず、具体的な合意を盛り込めなかったのではないか」と推察し、今後の米朝間の交渉で重要になる点として、米朝の信頼醸成に基づく関係改善、平和体制の構築、非核化を挙げました。そして、冒頭の工藤の質問に対しては、「理論的には本気だと思う」として、2016年の段階で金正恩氏は内部で非核化を決定していたのではないか、と指摘。その上で、金正恩氏が非核化に本気であるなら、我々がいざなうことを試してみる価値はある、と語りました。

 李大根氏(京郷新聞論説主幹)は、金正恩氏が核実験設備を廃止し、経済並進路線から、経済発展へ方針転換するなど、非核化に関する事後措置がとられ、今までとは違う展開を見せており、騙すことにプラスの作用がないと述べました。その上で、外部が本当に非核化の条件作り出せるかどうかだと主張し、「米朝会談については米朝両国の勝利だった」と語りました。

 冒頭の工藤の質問に対して「本気だ」と主張した西野氏は、「本気で準備しているが決断はしていないし、決断する必要はない」と説明。その上で、金正恩氏が米朝間で相互信頼関係が醸成されることが非核化につながると判断した時点で決断するだろう、と語りました。

 さらに西野氏は、日本は拉致と非核化、韓国は非核化と朝鮮半島の緊張緩和に重点を置いており、日韓両国で米朝会談に対する評価基準が違うことを改めて意識しておくことが重要だ、と指摘しました。

北朝鮮の核とミサイル開発の理由は、「体制保証」に向けた時間稼ぎ

 防衛事務次官を務めた西正典氏は、今回の米朝会談について、明確な定義や合意がなく、空中に漂っている状況だとの見解を示しました。こうした状況下では、判断基準をトランプ氏と金正恩氏が握っており、恣意的な判断で、相手が期待に沿わなかったら「自分に約束したことを守らなかった」と言い、態度を変更することができると分析。今回の初手でトランプが譲れるものをほとんど譲ってしまったことで、それに報いるだけのプレゼントを金正恩氏が送らないと、トランプは腹を立て、何度か軍事的な危機が起こり、それが解消しという形で物事が動いていくだろう、と主張。ただし、トランプ氏には任期があり、金正恩氏には任期がないことについても注意しながら、今後の米朝会談の行方を見ていく必要があると、独自の視点で解説します。

 さらに西氏は、当初は金正日氏が先軍政治を掲げ、軍が正面に立って責任を負いながら前に進めていたことから、核とミサイルの開発も軍が主導する形で行われていたものの、金正恩氏がトップになると軍を排除し、核もミサイルも党が主導して開発しており、かなりの数の軍人が粛清されているという現状を解説しました。加えて、自身が予算編成にかかわった経験から、通常兵器は高額である一方で抑止力も限定的であるが、通常兵器よりも安価な核とミサイルを開発することで、ワシントンやモスクワを射程にいれる大きな抑止力を持つことが達成できた、と指摘。

 その上で、北朝鮮が核を持つことは「あくまでも抑止力と、その抑止力が効いている間に譲歩を獲得するための時間確保のためだけ」であり、確保できた時間によって、「体制の保障」を図ることが目的だ、と西氏は付け加えます。こうした交渉は今後、アメリカだけではなく、北京、モスクワ、ソウル、東京全てに対して行われると解説。そこには軍の姿はなく、トップと党の姿しかないだろう、と語ります。ただそうした交渉が始まるまでに、もう一度、核の恐怖は起こるだろうし、軍事的な協議も起こるだろうが、それらを一つ一つ乗り越える必要がある強調すると同時に、交渉を受ける側がどこまでネットワークを整理できるのかが課題になる、と今後の状況を分析しました。

 国連大使も務めた朴仁國氏(韓国高等教育財団事務総長)は、「米朝会談は成功だった」としつつ、①アメリカの戦略的利益と日韓の安保に対する見方にズレが生じていること、②北朝鮮の非核化に向けたロードマップをどう作るかが不透明である中、本来、最後に出てくる話題である在韓米軍の話が早い段階出てきた、という2点について懸念を示しました。

北東アジアの平和構築に向けて日韓に何ができるか

 その後、会場からの質問として、仮に在韓米軍が撤退した場合、安全保障上大きな影響が出るが、そうした状況下で日本ができる協力として何があるのか、日本が北東アジアにおける平和構築に向けて、何ができるのか、と質問が投げかけられました。

 これに対して、日本側かはら西野氏が、専門家の間では共通の認識であると前置きした上で、「朝鮮半島における米国のプレゼンスが縮小していくと不安定な状態に陥るが、それを立て直すため日韓両国が協力していくことが1つのモデル」と述べました。そして具体例として冷戦期の構造を挙げ、「今の状況は冷戦期の構造に近い」と指摘。朝鮮半島情勢が大きく動き、トランプ政権の行動や今後の行方に対して日韓両国が不安を持っている状況では、日韓が協力して管理・マネジメントをしていくことが必要だ、と主張しました。

 さらに西野氏は、朝鮮半島における平和秩序の構築については、「南北朝鮮と米中の2プラス2が中心的なプレーヤーであるものの、より広い意味での北東アジアの平和という点では日本は協力しなければいけない。日本が朝鮮半島の新しい秩序に賛意を示すことが必要」と主張。さらに、国交がない北朝鮮、国交はあるものの平和条約がないロシアとの関係については、戦後の日本外交の宿題であり、必ず超えていかなければいけない日本外交の課題である、と語りました。

 続けて会場から、政治的目的のためにヘイトスピーチなど利用する人たちがいるが、それをどのようにコントロールするか、との質問が韓国側に投げかけられました。

 自身も正しい未来党の政治家である鄭柄国氏は、日韓関係を悪化する要因の1つとして、「政治家がその時、その時で政治家の票につながる発言をし、国民世論に影響を及ぼしていることは否めない」と語り、政治科自身の問題を認める一幕もありました。

 最後に孫洌氏は、今日の議論を聞いた多くの人たちが、北東アジアに新しい秩序をつくっていくためには、日韓両国の協力が必要不可欠であるということを肌で感じたのではない、日韓新時代をさらに発展させるためにも、私たちの日韓未来対話が重要であり、来年の7回目の対話への期待を込めて挨拶を締めくくり、「第6回日韓未来対話」の公開セッションは幕を閉じました。

 

2018年6月23日

・朝鮮半島非核化をどう実現するか ~緊急フォーラム「米朝会談の結果を読み解く」(言論NPO)

(2018.6. 14 言論NPOニュース) 言論NPOは、歴史的な米朝首脳会談から一夜明けた6月13日、「米朝会談の結果をどう読み解くか」をテーマに緊急フォーラムを開催しました。

 まず、司会を務める代表の工藤泰志が挨拶に立ち、前日行われた米朝会談について、「歴史的な首脳会談と言われながら、非核化に向けた具体的な行動や、期限、検証の方法では合意ができず、今後のプロセスとして先送りされ、単なる政治ショーに付きあわされたような、違和感を覚えた人も多かったのではないか」との見解を語りました。一方で、「朝鮮半島では間違いなく歴史が動こうとしており、私たちは、その準備を始めなくてはならない。そうした中で、朝鮮半島の完全な非核化をどうやって具体的に実現していくのかについて今日は議論したい」と今回の緊急フォーラムの意義を語り、フォーラムは開幕しました。

 今回の議論には、賈慶国・北京大学国際関係学院院長(政治協商会議常務委員)、宮本雄二・元中国大使、西正典・元防衛省事務次官と香田洋二・元自衛艦隊司令官の4氏が出席しました。

*今回の会談で交渉を有利に進めたのは金正恩氏

 議論の冒頭、言論NPOが前日に急遽行った有識者アンケートの結果が工藤から報告されました。

 首脳会談の成否については、「どちらとも言えない」が51.9%で最も多く、次いで「成功した」が29.8%、「失敗だった」が14.4%でした。また、会談での合意によって朝鮮半島の完全な非核化の道筋を描けたか、との問いについては、「解決の一歩とはなったが、最終的な解決は今後の協議次第で先行きが見えない」が48.4%で、「前進はあったが、完全な非核化は未解決のまま」の27.0%と合わせ、75.4%もの人が、将来の非核化の難しさを指摘していました。さらに、「両首脳のどちらが交渉を有利に進めたか」との質問には、二人に一人(50.5%)が金正恩朝鮮労働党委員長を上げ、これに対しトランプ米大統領としたのはわずか9.1%だった、との結果を紹介しました。

*会談は成功、失敗?次への一歩か、引っ込みがつかなくなったか

さて、初の米朝首脳会談は、名を取ったトランプ米大統領と実を取った金正恩委員長とも言われていますが、会談は成功だったのか、失敗だったのか、四氏が語ります。

 まず宮本氏は、「今回の会談のみをもって、『会談は成功』とは言いたくないが、次への一歩という意味では成功だった。ただ、問題は山積しており、楽観は許されない」と語りました。さらに、トランプ大統領の目標として、11月の中間選挙の可能性を挙げ、「中間選挙が終わって国内状況が変わり、望み通りのペースで進まず、北朝鮮が動かないという時には、トランプさんが強い態度で臨むかもしれない」との見解を示しました。

 これに対し賈慶国氏は、「核・ミサイル問題の緊張を緩和できたこと、非核化を原則的な共通認識として示せたことの二点で成功だった」と、前向きに捉えました。さらに、「目標に向かって現実化することが大事だ。平和的解決の基礎ができたからと言って、将来のことを話すのは時期尚早で、多くの困難はまだまだある。平和解決に取り組む準備も必要で、喜ばしいが、喜び過ぎる理由もない」と、冷静に語りました。

 次に、防衛事務次官も務めた西氏は、「両国のトップが会って話をしてしまったから、もう引っ込みがつかない。これからどう転がすかについては、両国に多分、アイディアはない。もう引っ込みがつかないという点では、どこに向かっていくのか、ずっと見ていくしかない」と悲観的に語ります。

一方で西氏は、北朝鮮がミサイル開発に踏み切った理由として、中韓の結びつきを北朝鮮への裏切りとして反発したこと、通常兵器は費用がかかり、核の方がコスト的に安いこと、かつ、通常兵器では軍にお金が回るために、軍の権限を奪い、国内権益の塊の軍を解体することを挙げました。そして、「今回の交渉は、そうした理由からはメリットであり、とにかくサインするのが目的だったはずだ」と、首脳会談の前後の状況を説明します。

*アメリカの採点は「0」

 一方、北朝鮮の核・ミサイル問題についてメディアへの登場が多い香田氏は、「一つの評価尺度では、米朝が当初、意図したものの何を達成し、何を失ったかというと、例えばアメリカで考えると、CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)と朝鮮半島における在韓米軍には手をつけないとか、いくつかあった。でも、今回は全て崩されて試験では0点で、アメリカの明らかに失敗」との視点を披露。さらに、トランプ大統領が記者会見で、米韓演習を止めるという話をしたことに触れ、「会談を行った高揚感からだと思うが勇み足だ。演習は『経済的ではない』、『(北朝鮮に)脅威を与えている』という言葉遣いだったが、米軍の最高司令長官からそうした発言が行われたことに対して、軍は耐えられないだろう」と防衛関係者としての現場感覚を語りました。そうした点も踏まえ、今回の会談は北朝鮮の勝ちだろう、と述べました。

 4氏の発言を受けて工藤が「今回の会談の成果は、精一杯だったのか。会談を進める最終的な落しどころだったのか」と問いかけます。

*今後、問題になる非核化の定義とは

 賈慶国氏が答えます。「(合意文書の)他のバージョンもあったが、双方が発表できる結果があの文書だった。CVIDの問題など具体的な共通認識では、同意したが公開できなかったとかあったのではないか」との見方を披露しました。さらに賈慶国氏は、「核兵器の放棄は含まれていても、アメリカが韓国で核兵器を配備しないとか、北朝鮮に対して、威嚇として核兵器を使わない、先制使用しないとか、韓国に核の傘の保護を与えない、などを求めるという話もあり、非核化の定義が具体的に何なのか、についてはこれから話し合う必要がある」と、今後の問題点を指摘します。

 この点について西氏も、「北朝鮮の核の議論は簡単だが、アメリカの潜水艦の核などはどうするのか。朝鮮半島の非核化となった時、何をアメリカの核として廃止対象にするのか」という問題はあると賈慶国氏の意見に同調します。さらに、「北朝鮮にとって自分の体制を守るというのは、アメリカのみならず、中国、ロシアも含め、自分の体制を保証してくれるとわからない限りは核放棄もない。いつ約束できるかわからない北朝鮮の核放棄と、定義できるかわからないアメリカの核の廃止、朝鮮半島の核廃止という問題をどう乗り越えるのか」と、複雑な核廃絶の困難さを話します。

 続いて工藤は、トランプ大統領には真に非核化に向かうための覚悟があるのかと問いかけました。

*トランプ大統領に対し、安倍首相がしっかりと助言することがカギとなる

 これに対し西氏は、朝鮮半島の非核化といった場合、問題は北朝鮮の核を廃棄することだけではなく、アメリカの核も問題になると解説。しかし、「アメリカの核をどう定義するのか、何を廃棄対象とするのか」といった点が実は曖昧であるとした上で、「不透明な北朝鮮の核と、対象が定かではないアメリカの核をどう考えるのか。これは逃げ水を追うような議論になるが、この難しさをトランプ大統領は本当に理解しているのか」と懸念を示しました。

 香田氏は、両首脳が署名した共同声明の中で、「マイク・ポンペオ米国務長官と北朝鮮の担当高官が主導して、できるだけ早い日程でさらなる交渉を行う」という一文に着目し、「来週にも交渉が始まるというのにもかかわらず、北朝鮮側の担当者がまだ決まっていない」ことを指摘。その上で、「穿った見方をすれば」と前置きしつつ、担当者を頻繁に交代させることで交渉を引き延ばしたり、合意事項を反故にしようしたりとするのではないかと分析しました。そして、そうした中では、アメリカ側に軸のぶれない確固たる方針が必要であるものの、トランプ大統領がこれまでCVIDを強硬に主張していたにもかかわらず、あっさりとその主張を変えるなどしたことから香田氏は、「このように目標を堅持しない態度は危険だ」と警鐘を鳴らしました。その上で、安倍首相にはトランプ大統領が迷走しないように「しっかりと助言すべき」と注文を付けました。

 続いて、工藤は「ずばり、北朝鮮の核問題は解決できるのか」と直球の質問を投げかけました。

*決して楽観はできない

 賈慶国氏は、非核化プロセスにおいては、査察をはじめとして主権国家に対する過度の干渉となり得るようなことが多々あるとし、プライドの高い北朝鮮がこれを受け入れる上では相当の忍耐を要すると指摘。さらに、金委員長は韓国との軍事バランスを保つ上でも、自らの生存を確保する上でも本来的に核は不可欠と考えているため、国際情勢の変化によっては核放棄撤回に踏み切る可能性が高いとし、楽観論を戒めました。

*重要なのはこの1カ月

 西氏は、今回の会談において金委員長には多くの収穫があったとした上で、しかし譲歩を貰ったにもかかわらず、約束を果たせなければトランプ大統領の怒りを買うのは必定であるため、「かえって自分の首を絞めかねない」と語りました。しかも、金委員長にとって勝負となるのはこの1カ月であり、ここでポジティブなメッセージを世界に対して出せなければ、一気に窮地に陥ることになるとの見方を示しました。

ここで止めなければ”地獄”が待ち受けている

 仮に非核化が出来なかった場合に世界はどうなるかを問われた香田氏は、「核保有国北朝鮮を起点とした世界への核の拡散が始まる」と回答。その上で、そうした事態は「今戦争をするよりももっと酷い地獄になる」とし、であるからこそ今ここで解決しなければならないと強調しました。

 最後に工藤は、「では、我々は今何をすべきなのか」と問いました。

*北朝鮮に希望のある未来を感じさせることが大事

 これに対し賈慶国氏はまず、朝鮮半島の安定と繁栄は関係各国共通の大きな利益であることを再確認する必要があると主張。その上で、日本や中国がなすべきこととしては、経済援助や体制の保証などを含めて北朝鮮が非核化のメリットを感じられるような案を提示し、「希望のある未来を感じさせることが重要だ」と語りました。同時に、これから先、アメリカに北朝鮮が受け入れ不能な要求をしないように説得することも必要になると付け加えました。

*今こそ知恵を出し合うべき

 

 宮本氏はまず、これまでの関係各国が自らの国益のみを追求して連携してこなかった結果、今日の北朝鮮の核開発進展を招いたと振り返りました。その上で、「そろそろ各国は知恵を出し合ってまとまるべきだ」と主張。各国が緊密な連携を進める中でこそ、賈慶国氏が言うような案も出てくると語りました。同時に、各国の連携をしていく上ではやはりトランプ大統領の”アメリカ・ファースト”は危険であるとし、日本としてはそれを抑えるための大きな役割を果たし、国際的な連携を積極的に主導していくべきと提言しました。また、民間、そして言論NPOに対しては、そうした連携や案作りを先取りするような動きを期待しました。

 その後、会場からの質疑応答を経て最後に工藤は、「歴史的な変化が始まった。北東アジアの平和実現に向けて議論を加速させていきたい」とし、まずは今月22日の「第6回日韓未来対話」に向けた強い意気込みを語りつつ、白熱した議論を締めくくりました。

2018年6月14日

・栄光学園校長が語る「カトリック学校の現状とこれから」

   栄光同窓カトリックの会第17回総会が10月28日開かれ、講師の栄光学園中学・高等学校校長の望月伸一郎氏から、司祭、信徒が減少する日本におけるカトリック校、同学園の現状と問題、今後に向けた対応についてお話を伺った。講演の内容は次の通り。

 まず本学園の近況についてお話しします。今日は実は、来週火曜日の歩く大会の開催が可能かどうか、台風の近づく中気をもんでいるところです。歩く大会も中間体操も大切にしている伝統の一つで、これをいかに今日化しつつ未来につなげるか、宗教活動についても今日化しつつ、これをいかに未来につなげるかが課題です。

 そこでまず、学園生徒の信者数の現状をご理解いただきたい。今年は180人が入学しましたが、71期入学者のうちカトリック信者は1人、昨年は2人でした。信者の親は4人ですが、子供が受洗していないケースも多いのです。信徒の父兄が分かるのは、入学者説明会の時に信徒の親には受洗教会、受洗の年など記入してもらうので分かります。在学中の受洗者の数はどうかというと、昨年は高校3年生が2人受洗しましたが、前年もゼロですし、今年も受洗準備中の生徒はいません。

 では学校での宗教活動はどうやっているのか。学校では宗教活動委員会があって、7人の信徒教員が中心になって活動の企画・立案をしています。また、金曜日放課後は部活動は無し、としているので、学年ごとに23人の教員が聖堂下の聖書研究室で聖書研究会を開いています。私は36期聖書研究会から担当しましたが、当時は信徒のクラスは別で、司祭が担当していました。

 今はほとんど未信者の聖書研究会ですが、いろいろな企画を立てています。学年別の人数は中1の時が比較的多くて学年末で20名位。それが高3までの各学年の聖書研究会では 10人位になります。ミサは、始業式、終業式、入学式、卒業式、聖土曜日(復活祭)、クリスマスに行いますが、参加者のほとんどが聖体拝領なし、祝別を受けるだけの生徒です。

 宗教活動委員会の企画としては、①聖園子供の家児童への学習支援、②ハンセン病施設へのボランティア訪問、③大阪釜ヶ崎訪問 1日または一泊、二泊(学年によって異なる)の黙想会などがあります。

 栄光では、「宗教活動は自由参加」という原則が貫かれており、教室には十字架を掛けておらず、「倫理」という授業はあるが「宗教」という授業はありません。以前、「ミサを講堂で行って全員参加にしては」という意見もありましたが、自由参加の原則を続けています。「倫理」の授業ではキリスト教について話すので、私の授業(「コチョリン」)では新約聖書を全員に配布し、聖堂へ連れて行って静かにする(長めの瞑目の) 時間を取っています。また、始業式や終業式など年6回の校長講話の際には、テーマに関連した聖書の話をするようにしています。

 信徒の教員は、全専任教員60人中14人、講師3人で、イエズス会士司祭はゼロです。イエズス会からは「今後、イエズス会士の教員は派遣しない」と言われているので、チャプレンの派遣をお願いし、現在、萱場神父に学園でのミサ、黙想会指導、教員や生徒への指導をお願いしています。

 このような状況の中で、カトリック校としてこれからどうするか。配布資料〈JCAP =Jesuit Conference of Asia Pacific=イエズス会アジア太平洋協議会)の統計にあるように 、2016年のアジアの中等教育機関38校の平信徒教員数は4463人に対してイエズス会士は98人、(日本は平信徒教員数226人に対しイエズス会士4人)という状況で、栄光学園の直面している問題はアジア共通であることが分かります。(特にオーストラリアやフィリピンは深刻)。日本のイエズス会では2016年4月にイエズス会校5校の理事会を統合する大きな決断をしました。この背景はイエズス会が毎年発行している年報 39号で李神父が「イエズス会教育の継承と深化」と題して書かれておられる通りです。

 栄光学園として、これから具体的に何をしていくのか。何を考えているのかということをお話ししますと、第一は、大切にされている伝統と文化を守ること、 学園の聖堂を維持していくことが挙げられます。何をもって「カトリック学校」というのかというと、「学校の中心にご聖体がある」「キリスト教に触れ合う場がある」ことです。

 そのための条件の第一に、聖堂でミサを捧げる、具体的には夏休み、冬休みを除く毎月1回、年10回のミサを捧げること。信徒でない教員も祈りをする学校がありますが、栄光でも、信徒でない教員も聖書研究会に参加しており、祈りの場としての聖堂の維持が第一です。

 第二に、グローバル教育の重視ということです。卒業生インタビューで隈研吾氏が「栄光には外国人神父が沢山いて、栄光に通っていることがグローバル教育になっていた。それが自分の現在の建築設計の仕事にもプラスになっている」と答えていました。世界のイエズス会教育機関のネットワークを活用してグローバル教育を進めようとしています。

 2000年からフィリピンのカトリック校との短期交換プログラムは実施していますし、ボストンカレッジが米国の高校生向けに開催している自己啓発セミナーに毎年30名の生徒を派遣することにしました。生徒は5日間の合宿でディスカッションなどを通じて、「自分がいかに大切にされているか」「神は何を望まれるか」など、いろいろな刺激を受け、視野を広げるプログラムに参加するのです。来年の夏休みには、JCAPの会員校の高校生を招いて秦野の上智短大で60人規模の英語でのセミナーを開くことを計画しています。

 イエズス会教育推進センターを中心に、研究、学校連携、教員養成など様々なテーマで新しい展開を模索中で、学校としても同窓カトリックの会とのつながりを大切にし、卒業生信徒との連携が深まることを望んでいます。学校には受洗者名簿はありますが、生徒の信徒名簿はないので、特に20期以降の信徒OBへも栄光同窓カトリックの会から情報を提供していただき、 つながりが出来ることを期待します。

(文責:栄光同窓カトリックの会事務局長・花川泰雄)

2017年12月10日